柴田弁護士の例のように、「新規分野やビジネスチャンスを自ら探索していこう。そこにアンテナを張っていこう」という意識が若手弁護士の中にもある。クライアントの潜在的な課題発見のためには、常に複数のアンテナを張る必要がある。そうでなければ、切り分けられた法的課題しか拾えず、法律事務所の典型的なビジネスモデルから脱却することは難しい。しかしながら、そのようなマインドセットをどう醸成しているのか。
「例えば、毎月末に法改正などのホット・トピックや世界各国のハード・ローおよびソフト・ローに関する専門的知見、およびESG・サステナビリティ関連法務のナレッジなどをニュースレターで発信していますが、そこに若手弁護士の積極的な提案を取り入れるということも一つの方法です」と北村弁護士。
蓮輪真紀子弁護士はニュースレター発信について次のように語る。
「パートナーから指示されるわけではありません。『私はこの分野に関心があるので書いてみたい』と自ら提案し、対外的に発信する機会を得ることができます。また、関心を持った分野で、すでに動き出している弁護士がいる場合、手を挙げて意思表示をすれば、すぐにチームの一員として受け入れてもらえるうえ、マーケティングの段階から実際の案件対応まで任せてもらえます。積極性がきちんと受け入れられ、かつ自分自身のキャリアアップにつながる機会が得られる素晴らしい風土だと思います」
事務所では、アソシエイト一人ひとりにコーチと呼ばれるパートナーが付き、随時キャリアの相談に乗る。加えて、北村弁護士と3カ月に一度面談し、希望分野・関心のある分野などを話し合う。その情報をパートナー間で共有し、機会を提供するという流れだ。
「ビジョンの共有と、ビジョンに紐づくカルチャーの醸成は今後もしっかりやっていきたい。そのために、頻繁にパートナー間でディスカッションを行っています。また、『オール・ローヤーズ・ミーティング』という全弁護士による会議を半期に一度開催。事前に『5年後どんな事務所にしたいか』『この事務所の強みは』『どんな貢献をしていきたいか』『取り組むべき課題は』など、全員からアンケートを取り、そこから見えた課題をもとにスモールグループに分かれてディスカッションします。パートナーはもちろん、将来、この事務所を担っていくアソシエイトにも、改善策や解決策を考える機会を提供する。ミーティングで挙がった案で、今からできることはすぐにやる。『あなたたちの5年後、10年後のためにとことん話そう』という姿勢で、会議を開催しています」(北村弁護士)
このようにアソシエイトも事務所運営に参加できることが特徴。若手弁護士の要望も踏まえた新たな留学制度を施行予定で、より精緻な人事評価制度の導入にも取り組みはじめたところだ。
「ほかにも整備していきたい制度が多々あり、メンバーの声を聞きながら優先順位をつけて徐々に整えていきます。また、グループ内には様々な研修や人材開発制度が用意されています。蓮輪弁護士が参加したPwC Japanグループの各法人の、同世代間の交流を深めることのできる『若手女性リーダー育成プログラム』もその一つです。各法人はあくまでも独立しており、当事務所は、PwCのすべての人事制度や人材開発制度に則っているわけではありませんが、今後も必要と思うプログラムを活用しながら、独自の環境・制度整備を進めていく計画です」(北村弁護士)