理念の、“結ぶ”“創る”を象徴する事件がある。
「設立間もない頃、投機で失敗して50億円もの負債を抱えたオーナー企業経営者からの依頼を受けました。当時は中小企業再生支援協議会もなく、法的倒産手続を選択。しかし、民事再生の申立をした直後、依頼者の手元資金がなくなりかける事態に。窮地を脱するため、当事務所のお客さまにDIP融資を打診。その緊急融資を受け(結ぶ)、最終的にリースバック+債権譲渡型という解決の工夫(創る)で民事再生手続を通しました。所内の仲間の力、お客さまの力、TSBの力、すべてを結集したからこそやり遂げた、まさに当事務所の理念がかたちとなった事件でした」(池田弁護士)
中小企業の事業再生を多く扱っていると、なかには「弁護士費用がほとんどない」という依頼者もいる。しかしそれでも引き受けるのが、同事務所の矜持だ。
「我々は、企業であれ個人であれ、相談に来られた方をお断りすることはまずありません。資金を含めて依頼者がギリギリの状況にあるとしても、知恵を振り絞れば“手の打ちよう”は必ずある。依頼者にとってよりよい着地点を何とかして見つける、それが我々の存在意義だからです」(岩本弁護士)
原正和弁護士は、これを「間口が広い」と表現する。
「当事務所の弁護士は皆、『自分たちがやらねば』という思いが強く、どんな困難な案件も引き受けて協力し合ってきたため、高い紛争解決力が身についている。弁護士十数名規模ですが、再生案件を扱える弁護士が複数名いることも強みの一つだと思います」
そうした事業再生関連をはじめ、渉外案件、不動産関連、相続事件、奄美大島の多種多様な事件、環境事件など様々な分野を取り扱う。各弁護士とも、自身の興味ある分野・活動に自由に取り組むため、自ずと事務所としての取り扱い分野に多様性や厚みが生まれる。たとえば杉田峻介弁護士(66期)は、環境事件(紛争)や再生可能エネルギー・開発・廃棄物・土壌汚染・防災といった環境法務に主体的に取り組んでいる。
「池田弁護士は環境法を大学院で教え、原弁護士は米国の環境系に強い法律事務所で経験を積むなど、設立早期から市民側・企業側両方で環境問題に取り組んできました。私は、中小企業事業者の再生可能エネルギーや脱炭素への取り組みをどう支援していくかをテーマにしていますが、それが弁護士として成すべき課題ならビジネスになる・ならないは問わず、自由に取り組ませてもらえます。本人がやりたいと考えることを許容し、多様性を受け入れてくれる風土です」
また、入所3年目の中江友紀弁護士(72期)も、事務所の魅力を次のように語る。
「修習同期と話すと、『交通事故事件が多い』など、何かしらの分野に特化して仕事をしている弁護士が多いように感じます。私の場合、これが一番多い、これが得意と言えない代わりに、広く多様な事件にかかわっています。今後、自分が何を得意分野としていくか、その選択の材料や機会をもらえている。しかも杉田弁護士が言うとおり『これをやってみたい』といえば、自由に取り組めます。たとえば私は事務所以外の活動で自死遺族向けの法律相談などを扱う団体に所属し、弁護団関係の事件にも関与しています。そうした活動への参加も自由。主体的に、自律的に動くことをよしとする、包容力ある事務所です」