個々のスキルアップのため、その機会の提供を惜しまないことが同事務所の特徴だ。例えば竹田千穂弁護士は非常勤裁判官(民事調停官)として任期中の4年間、週に1回、裁判所で勤務した経験がある。
「当事務所には私のほかにも民事調停官を経験して、弁護士任官で名古屋高裁の裁判官になった女性弁護士がいます。先に民事調停官を務めた彼女に話を聞き、挑戦してみたいと思って願い出ました。結果、私は弁護士を続けるという選択をして、弁護士業務に戻りました。弁護士17年目での経験だったので、“キャリアステップ”を考えるという点では時期的に遅かったのですが、それでも民事調停官の経験は間違いなく、弁護士としてのスキルアップにつながっています」
そして現在、竹田弁護士は複数の社外役員も務めている。磯田弁護士は、「弁護士約50名の規模だからできること。大規模事務所では利益相反といった点からも、社外役員を引き受けるのは難易度が高いところもあるでしょう。しかし、当事務所の規模であれば、調整が可能。むしろ『社外役員として様々な経験を積んできてください』と、本人の意欲を尊重しています」と語る。
一方、入所8年目となるアソシエイトの平山照弁護士は、現在2度目の出向業務中だ。
「1度目は、当事務所の顧問先の大手メーカー法務部で2年ほど、パートタイムのかたちで出向経験をさせてもらいました。2度目となる今は、金融系のスタートアップ企業に、フルタイムで出向させてもらっています。このスタートアップ企業は、事務所のつながりではなく、知人の紹介を受けて、自分で開拓してきたものです。フィンテック関連の法務に強くなって、事務所にその知見を持ち帰りたいと考えています」
こうしたアソシエイトの教育方針について、猿木秀和弁護士は次のように語る。
「私は日頃の案件処理において、協働する若手弁護士に対しては、指示を与えるのではなく、裁量を持たせて自分で考え、判断できる場面を増やすよう心がけています。そのために、訴訟案件なら一からかかわれるよう、新しい案件を新人に割り当てる。顧問先対応も、窓口対応を任せるようにしています。また当事務所のアソシエイトは全員、国選の刑事事件や民事法律扶助(法テラス)など、何らかのプロボノ活動・個人事件を取り扱っています。事務所事件では必ずパートナーがつきますが、プロボノ活動や個人事件は自分で考え、自分で回すことになるので、各自の成長にとって大きな意味がある。ですから、事務所事件の処理を第一に、できる範囲でプロボノ活動・個人事件も後押ししているのです」
ちなみに同事務所では留学も支援する。60期代以降の弁護士を中心に、複数名がアメリカ、中国、オーストラリアに留学している。
「勉強も大切ですが、仕事に直結しなくても、留学先で人脈を広げ、人としての幅を広げてくることはもっと大切。ですから行きたいと手を挙げた弁護士は、なるべく応援しています。アソシエイト時代は、たくさんの選択肢を持てる時期。留学や出向を含めて世の中の事象にアンテナを張り、自らが進む道を、自ら選んでいく訓練を重ねてほしい」(磯田弁護士)