一般民事や刑事では身につけられない経験ができる自治体法務の魅力を、三人にうかがった。
「自治体法務は分野が多岐にわたり、まず知的好奇心が満たされます。そして行政側で、法の適正な執行という業務に携われることは非常にやりがいのあること。また、我々は任期を終えて組織を離れましたが、組織の中からも外からも、自治体法務に取り組む弁護士の働きが期待されていると感じます。宇賀克也最高裁判事は就任時、『多くの弁護士が、国や地方公共団体の法務の仕事に顧問という立場ではなく、常勤職員として携わっていくことが法の支配の実現に寄与することになる』とおっしゃいました。今、弁護士が求められている場所で仕事ができること、とてもありがたいと思っています」(中澤弁護士)
「自治体法務では、参考文献のない相談が多いと感じます。なおかつ地方自治法、行政法、行政の手続き関係の法律などの書籍・資料も少ない。そもそも逐条解説がないとか、あっても解釈までは書いていないことが多いため、実際に相談を受けながら、法律の解釈として何が正しいかを探っていく――そんな楽しみがあります。また、自治体の相談では、少数の方の権利や利益を失っても構わないという考え方は絶対にできません。どこかで線引きは必要ですが、なんとか少数派も救う手立てはないか考え、市民全体の意向を汲んでバランスのとれた仕組みを見いだす努力が必要です。もちろん難しいけれど、やりがいのある作業です」(小林弁護士)
「依頼者が自治体であり、依頼者の利益の実現が、個々人の利益の実現とは異なる公益の実現となること、関係者の利害などを広く考慮して住民全体のためになるゴールを目指し、まい進できる点が魅力だと思います。今、自治体法務にかかわる弁護士は足りていません。個々の局面で、自分がやるしかないと、求められていることを実感する機会が多々ありました。誰も考えたことがない課題について“現実的妥当”を探り、仮に訴訟になった際のことも想定し、自治体職員や組織の特徴を知っている弁護士が、市の職員と共に、一貫性を持った対応を行う。そんな流れを自分の力でつくっていける点も、この仕事の醍醐味だと思います」(竹重弁護士)
魅力あふれる自治体法務の仕事は、「未経験でも挑戦できる」と、中澤弁護士・竹重弁護士は言う。
「自治体には、保育の審査請求や教育のいじめの相談、道路や下水の相談もある。必要なのは、地方自治法と行政法の枠組みを押さえたうえで、新たな相談内容を妥当な解決に持っていく力、自治体キャリアの長い職員や市長とうまくコミュニケーションをとりつつ円滑に仕組みを運用できる調整力などといえます。自治体法務以外の知見を持っていて、それを踏まえて新たに地方自治法なり、行政法なりを勉強する意欲があれば、未経験の弁護士でも挑戦できる仕事だと思います。もちろん、まずは特定任期付職員となって、この領域を知ることも一つの手です」(竹重弁護士)
とはいえ、特定任期付職員には任期に上限がある。
「弁護士として長く自治体の仕事をしていきたい人のため、キャリアの受け皿になれるのが当事務所。自治体法務にかかわる弁護士が世の中に増え、志を同じくする弁護士がつながるハブを目指していきたいです」(小林弁護士)