Vol.87
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GHRS法律事務所では、主に東南アジアや南アジアからの一次産業・二次産業を含めたコーポレートイミグレーションを取り扱う(2024年6月、事業拡大のためオフィス移転予定)

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STYLE OF WORK

#181

弁護士法人Global HR Strategy
GHRS法律事務所

外国人雇用という新たな企業法務分野を専門とし、けん引するブティックファーム

国際労働移動のプロセス全体に関与

2020年12月に設立された、弁護士法人Global HR StrategyとGHRS法律事務所。外国人雇用に関するサポートデスク、手続き代行、雇用プロセス全体のBPOといったサービスを、技能実習生や特定技能外国人を受け入れる企業、監理団体・専門機関などに提供している。代表の杉田昌平弁護士に事務所の強みをうかがった。

「外国人雇用――“国際労働移動のプロセス”には、入管法をはじめ、送出国・ホスト国の労働市場法と、日本の労働法や厚生年金保険法など様々な法律が絡みます。当事務所はそれらの業務をワンストップで取り扱います。また、外国人雇用を伴う事業再生やM&Aにも、従来の企業法務のクオリティで対応。例えば、技能実習生や特定技能外国人を受け入れている複数の企業が組織再編で合併する場合、存続企業が外国人を雇用するための手続きを行いますが、それにはまず各社に所属している技能実習生の実習計画の認定、特定技能外国人であれば在留資格変更を行う必要が生じます。基本合意、デューデリジェンス(DD)、最終合意、効力発生といった合併の際に必要な業務のタイムラインがどう走るかを把握しつつ、外国人雇用対応も進めるといった、複雑で難易度の高い仕事を得意としています。このように、外国人雇用についての専門性と、企業法務をかけ合わせたサービスを提供できることが、当事務所の強みです」

そのような、DDからトランザクションにおける、外国人雇用に関する手続き支援や、企業で働くなかで意図せずオーバーステイした外国人の、刑事手続きや入管手続きにおける身体拘束からの解放、在留特別許可による在留資格の回復などにも対応する。

厚生労働省の発表(22年10月末時点)によると、日本で働く外国人は約182万人と過去最高となっている。しかし、日本の外国人雇用制度はまだ発展段階にあり、「企業は様々なリスクにさらされています」と杉田弁護士は言う。

「例えば、採用後に配属先を決める“メンバーシップ型雇用”を行う日本企業は多いと思いますが、外国人雇用の場合は、どのような仕事をするかを確定してからでないと在留資格が特定できません。加えて、採用後に在留資格該当性のない業務が含まれる部署に配置転換した場合、法令違反となるリスクがあります。また、日本の在留資格を持つ外国人が他社から転職してきた場合は、在留資格変更許可が必要な場合があります。その手続きを行わず、日本人と同様に雇用したり、雇用した後で別法人に出向させた場合は不法就労となり得ますから、転職者を雇い入れる前に、在留資格変更可の手続きがあるか確認しておく必要があるわけです。そのように外国人を雇用する際、日本の雇用慣行(産業組織構造)と出入国在留管理法令(入管法)の間にギャップがあることに気づかず、日本人と同じオペレーションを行ってしまったことで、意図しない法令違反やレピュテーションリスクといったトラブルに陥るケースが実は多いのです。当事務所では、外国人雇用を企業法務の一分野と捉えており、そうしたリスクやトラブルを回避するためのアドバイスを得意としています」

杉田弁護士は独立行政法人国際協力機構国際協力専門員のほか、各省庁・機関の外国人雇用に関する検討委員会や有識者会議で委員・アドバイザーなども務める

“予防法務2・0”で顧問先を深耕

22年6月、「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ」を政府の関係閣僚会議が決定した。翌23年には点検・見直しが行われるなど、外国人雇用に関する制度・環境の変化は、非常に早い。同事務所では、そうした情報を漏らさず把握、提供することを目的に、独自で外国人雇用分野における複数のデジタルツールを開発・運用している。

「23年には『外国人雇用の法務部クラウド』をリリースしました。最新法律情報の解説動画配信、書式集配布、クライアントから寄せられたQ&Aまとめなど、関連ナレッジを蓄積し、基本的に顧問契約を結んだクライアント限定で公開しています。事件になる前に、私たちが知り得る情報をすべてクライアントに提供する“予防法務2・0”の実践です。“発信型顧問”スタイルと言えますね」

リーガルナレッジをアーカイブし、同ツール上で解決できなかった問題は、個別に相談対応して継続的な顧客深耕を狙う。そうして「単なる“代理人”を超え、クライアントに“次のステージ”に進んでいただくためのサービス提供を目指す」と、杉田弁護士。

「外国人雇用に関する問題解決と、事業発展を合わせたビジネスモデルをクライアントと一緒につくっていくことが、私自身のやりがいです。当事務所の弁護士たちには、『うちは、企業法務の特定分野に業特化したブティックファーム+ナレッジの提供機能を併せ持った事業体。法律事務所ではなく法律を扱えるコンサルティングファームだ』と説明しています」

所属弁護士は、「入管業務と企業法務のスキルが磨けて、外国人雇用分野という新しい渉外法務に携われる事務所はここしかない。この分野のフロントランナーであるという自信と誇りを持って仕事ができている」と語る。

外国人雇用という“業特化型”の法律事務所であるために、企業法務の経験を有する弁護士であっても、スキルの習得には一定の訓練期間が必要となる。同事務所でのキャリアステップを聞いた。

「入所1、2年目は、私や先輩弁護士と一緒に外国人雇用関連の訴訟を担当します。訴訟では入管法や技能実習法などの知識が必須で、それらに関する法律の仕組み、基礎的な用語を習得します。2、3年目は、入管手続きの申請、企業間取引における入管手続きなどの業務を経験します。最初は申請業務を自分で行い、許可・不許可の相場感を身につける。慣れてくれば、事務員が下書きした書類をチェックし、最終判断をする。4、5年目は、クライアントからの日々の相談に対応しつつ、プロジェクト全体をマネジメントする。6年目以降は、本人の希望に応じて、弁護士法人としての雇用か、業務委託を選び、所内で独り立ちしてもらうといったイメージです」

入所後、訴訟を担当する前には、国際人材協力機構や入管協会といった公益財団法人の法定講習を受け、体系的に外国人雇用を学ぶ。

「申請等取次研修会、派遣元責任者講習、監理責任者等講習、職業紹介責任者講習を、勤務時間内に受講してもらいます。先述した、『外国人雇用の法務部クラウド』のセミナーやQ&Aといったお客さま向けのコンテンツは、所属弁護士のeラーニング教材として活用する目的もあって私自身が制作しています。当事務所が対応する個別相談は毎日10を超え、法務部だけに限らず、経営者、人事部からも相談を持ちかけられます。ゆえに、その内容は多種多様です。それは、まさに今起きている外国人雇用における現場の声ですし、そうした問題に対応しつつ蓄積されていく知見は、当事務所の弁護士にとって最新かつ最適な教材にもなっているのです」

顧問契約を結ぶクライアント向けの情報提供ポータルサイト「外国人雇用の法務部クラウド」。公的機関の最新情報の即時配信、セミナー動画の配信などを行う

日本の「国際労働移動」をリードする

同事務所が設立時より掲げるミッションは、「Beyond Borders with Compliance――国境を越えるという全ての挑戦を、法が支える世界を目指して」である。

「そのミッションを達成するために、“striving for Honesty(誠実であること)”と、“striving for Creativity(知的好奇心と創造性を持つこと)”を行動指針に、まだ“未踏の部分”が多い外国人雇用という新たな領域に挑み続けていきます。日々の業務においても法令遵守を第一に、使用者と外国人双方にとって望ましい職場を日本社会に増やしていけるよう、貢献していきたいと考えます」

現在の日本は、生産年齢人口の減少が続き、“国際労働移動受け入れ大国”となりつつある。国内労働者の10人に1人が外国人という時代に向かうなか、外国人雇用に関する企業法務は、“新・渉外法務分野”であり、弁護士にとってはブルーオーシャンといえる。

「これほど将来性のある法務分野は、ほかにあまりないでしょう。個別の事件処理にとどまらず、この新フィールドに取り組みたいと思ってくれる、知的好奇心旺盛な弁護士仲間をどんどん増やしていきたいと思っています。私たちは、フロントランナーの矜持を持って、国際労働移動(国際労働移動全体)における法の支配の促進に寄与できるよう、まずは当該分野の弁護士の育成をしっかり行っていく所存です」

Editor's Focus!

杉田弁護士は弁護士登録後、企業法務系の法律事務所で事業再生やM&Aを多数経験。国際活動としてベトナム・ハノイで日本法教育の特任講師を務めたことをきっかけに、教え子たちのために「弁護士としてできること」を始めたことが、今の仕事につながっている