桜島の御岳を望む鹿児島市の中心地に、活気に満ちあふれた法律事務所がある。それが、弁護士法人グレイスだ。開設者は、古手川隆訓弁護士。2009年に古手川総合法律事務所を開業し、13年の法人化と同時に名称を変更した。東京にも支社を持ち、顧問先は300社を超え、増え続けている。この勢いの源は何か、古手川弁護士に伺った。
「私たちは通常の客観的アドバイス業務にとどまらず、各企業の法務部のかなり深いところまで踏み込みます。〝法務のアウトソーシング先〞のような関係で仕事ができる安心感が、顧問先を増やすことができている一番の理由ではないでしょうか」
「法律事務はサービス業」が、事務所の理念。弁護士の型にはまらず、顧客に満足してもらうには何が必要かを徹底して考え、提供するのが全所員の姿勢だ。
「顧問先から、人材採用や育成に関する相談を受けるケースが多々あります。特に鹿児島の一次産業企業では、人手不足が深刻。法律相談ではないけれど、その問題解決に貢献したいと考え、外国人技能実習生を受け入れ・サポートする組合支部を立ち上げました。当該事業の知見を生かし、所内に外国人技能実習生の監理団体に向けた技能実習制度に関する専門窓口も設置。相談件数も増えています」
顧客のために新領域に挑戦し、法的サポートを必要とする市場を開拓しているわけだ。自ら仕事をつくり出し、顧問先を増やすことで経営の土台を安定させる――事業会社での営業経験を持つ古手川弁護士ならではの発想力と瞬発力が、事務所運営に生かされている。また、組織体制もグレイスならでは。
「当事務所では、企業法務部、事故専門部、家事専門部と、取り扱い分野を大きく3つに分けた事業部制を導入しています。地方では総合力が必要といわれますが、強い法律事務所は本来、専門性が高いブティック型であると私は考えます。ゆえに、限りなくブティック型に近づけるため、この体制を構築しました」
実際、企業法務部と同様に、事故専門部、家事専門部の相談件数も伸びている。分野特化しているのでリサーチ対応が早く、高度な専門知識が期待でき、顧客に支持されやすいのだ。しかし、事業部制を導入した本当の理由は〝人材育成〞にある。
「入所後、専門分野をじっくり扱うので、若手の成長が格段に早いのです。本人が希望すれば、遠方であっても費用を負担してセミナーや勉強会に参加させていますが、現場で身につく知識・経験の量と質は、その比ではない。また、一般企業のような事業部長職も設けていて、部長になった弁護士には人材採用の決裁権を与え、教育方法もその人のやり方を尊重します。一方で、事務スタッフを含めた一人あたりの毎月の生産性を、私と各部長で必ず確認。各部長は常にそれを意識しながら業務を進めなければなりません。つまり、経営がきちんとわかる弁護士が育つ。若手もベテランも、未来に必要な能力が得られることが、事業部制導入の最大のメリットです」