Vol.10
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PIONEERS

「人のために力を尽くしたい」。インハウスロイヤーとしての信念が、一人からのスタートを支えた

江島 文孝

UBS証券会社 
法務部長・マネージング ディレクター
弁護士(第二東京弁護士会・42期)

#12

新時代のWork Front 開拓者たち

外資系証券会社で法務部が担う役割、そして投資銀行業務とは…

UBSは世界50カ国で金融サービスを展開している大手国際金融機関である。その投資銀行部門の日本における拠点であるUBS証券会社の法務部で、指導力を発揮しているのが法務部長の江島文孝氏である。

「投資銀行と呼ばれる証券会社の業務は二つに大別できます。一つは株式・債券・その他デリバティブを含む金融商品の販売とトレーディングです。もう一つはアドバイザリー業務。合弁・合併・買収・資金調達などに関するアドバイスを顧客企業に提供します。さらに当社の場合は、これら投資銀行業務に加えて個人富裕層向けの証券業務(ウェルス・マネジメント)も行っており、法務部の担当分野もこれら業務に沿っています。セールストレーディング業務、アドバイザリー業務や証券引受業務、ウェルス・マネジメント業務に各担当を置き業務を遂行。また労務関連法務や知的財産管理など一般企業と同様の法務業務もあります」

江島氏は1996年、同社の前身に当たる会社に、日本におけるたった一人の法務担当者として入社した。

広範な業務を行う法務部を一人で立ち上げた企業内弁護士

「海外の法律事務所に勤務していたときインハウスロイヤーとして誘いを受けました。そろそろ帰国して留学前に所属した法律事務所に復帰するつもりだったのですが、留学中によく耳にしたイギリス最大手の証券会社からの誘いだったので、話だけは聞いてみようかと…。そうしたらとんとん拍子に話が進み入社が決まってしまいました。当時の日本では外資系証券会社でも社内弁護士がいるところは少なく、一人で法務を担当することに違和感はなかったのですが、振り返ってみると未知の世界に飛び込み、ましてや日本拠点の法務部を一人で担うという無謀に思える決断は、30代前半の若さゆえ下せたのだと思います(笑)。入社後しばらくは戸惑いの連続でしたね。それ以前に勤務していた東京、ロンドン、シンガポールの大手法律事務所では、相談相手がいくらでもいた。でも会社では直属の上司すら海外に居るので、頻繁にアドバイスはもらえない。ベンチマークの無いところから仕事のやり方を自分で考えていかなくてはなりませんでした」

試行錯誤しながらも仕事に慣れたと思った1998年、画期的な案件に携わる。

「国内大手金融機関との提携交渉に法務責任者として参加しました。時期的に当社自身の本国での合併とも重なり、自分が在籍する会社と他の2社を結び付ける複雑なストラクチャリングや交渉が必要になりました。そこに日本の金融危機の影響を受け、その対応にも追われました。約1年は午前2時・3時まで仕事をする毎日が続きました。でもおかげで、どのような案件のプレッシャーにも耐えられる自信はつきました」

この時期以降、国内の外資系証券会社を巡る環境は大きく変わる。日本企業の国際的資金調達や、国境を越えた大型企業買収など、外資系証券会社が関与する案件が格段に増え、氏自身もそれらに深く関与した。また、金融機関への規制が見直されていくなか、金融機関における法務部の存在がますます重要視されるようになった。江島氏は、これらを背景に法務部体制を強化していく。

「現在の法務部の総勢は14名で、日本の弁護士資格を持つ者が5名。そしてイギリス、アメリカ、オーストラリアの弁護士もいます。弁護士資格を持たないメンバーも、国内金融機関で法務を長年経験したエキスパートがそろっています。スタッフの国籍は日本、アメリカ、オーストラリアと分かれていますが、全員、仕事は日本語でも英語でもこなせます」

チームワーク・社内連携の良さで、内外の評価が高い組織の秘密とは…

『人材が集結する組織』として広く知られる法務部。部長はどういう組織を目指してきたのだろうか。

「当社の法務部の場合、取引サポート的な業務が多いため、プロジェクトの早期から相談を受け、担当部署と連携してアイデアを練り取引を組み立てます。そのため常日ごろから、法務部が他部署の良きパートナーであるよう努力しています。それに加えて法務部内部のパートナーシップも、非常にうまくいっています。インハウスロイヤー13年のキャリアは、一人か少人数で『がむしゃら』に働いた前半があり、後半は『法務部組織の充実にも注力した』時期でした。社内弁護士や法務部を毎年表彰する海外の法律専門雑誌があって、最近、日本でも表彰するようになりましたが、私も法務全体も、それぞれが該当部門で最初の受賞者になりました。部としての『インハウス・チーム・オブ・ザ・イヤー』はチーム全体を認めてくれた賞だったので、特にうれしく感じました」

社内弁護士の先駆者の一人として走り続けてきた13年を振り返って

「インハウスロイヤーの仕事対象は、法律ではなく、人だという信念を持って仕事をしてきました。法的分析は当然として、それ以上に社内外のクライアントのためにベストの結果を出すことを目標としています。ですから、仕事をしていていちばんうれしいのは、案件の大小を問わず関係者から、ひとこと『ありがとう』と言ってもらうことですね。一人で試行錯誤しながら始めた仕事ですが、今では優秀な同僚に囲まれています。部員に『UBSに入社して良かった』と言われることに大きな喜びを感じています」