「20代前半はまだ世間知らずで、大学卒業後すぐ就職することに不安がありました。司法試験挑戦は就職を先延ばしにする手段でもあったのです。しかし修習を終える頃、弁護士としてやっていくには世事に通じなければいけない、社会をよく知りたい、そのためには『企業内弁護士が近道』かもしれないと考えるようになりました。まだインハウスロイヤーが少ない時代で、同期では数人程度だったと記憶しています。当然ながら就職先の情報も少なかったので、司法研修所教官に相談。そこで紹介されたのがアルプス電気でした。ビジネス知識はともかく法律にはある程度の自信を持っていましたが、入ってみて法務部員のレベルの高さを実感。同社法務部では世界展開するグループ企業の契約書をほぼ全てレビューしており、業務スケールの大きさにも驚きました。同年代の社員から刺激を受けながら、法的文書のレビューや訴訟・係争などを担当し、短期間ながら海外勤務も経験。充実した3年半でしたが、実は将来に不安も感じていたのです。企業内弁護士の場合、訴訟代理人になる機会が事実上少ないので、このままでは裁判実務が抜け落ちるという焦燥感がありました。現在では、企業内弁護士が法律事務所に出向して経験を積む制度などもあるかと思いますが、当時は全てが第一号あるいは特例。頼めばトライさせてくれた会社だったと思いますが、一度は法律事務所勤務も経験したいと考えました」