Vol.86
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#24

スタッフ弁護士は、契約が更新されれば定年まで勤務可能。長く働きたいと考える人も出てきた。また、自治体への転職、裁判官や研究者への転身、配属された地域で独立開業するなど、キャリアの選択肢が広がっている

スタッフ弁護士は、契約が更新されれば定年まで勤務可能。長く働きたいと考える人も出てきた。また、自治体への転職、裁判官や研究者への転身、配属された地域で独立開業するなど、キャリアの選択肢が広がっている

SPECIAL REPORT

#24

“司法アクセス障害の解消”に向けて弁護士の本分をまっとうし続ける

日本司法支援センター 本部
(法テラス)

日本司法支援センター(法テラス)は、司法制度改革3本柱の一つである、「国民の期待に応える司法制度の構築(制度的基盤の整備)」の実現に向けて制定された総合法律支援法に基づき、2006年4月に政府が全額出資する法務省所管の公的な法人として設立された。法テラスには現在、約200名の弁護士がスタッフ弁護士(常勤弁護士)として所属する。その活動内容とやりがいなどを鳴本翼弁護士、野口悠紀音弁護士、井上鉄平弁護士にうかがった。

司法アクセス障害を取り除くために法テラスの各業務がある

――法テラスの役割は?

鳴本:「国民が法的なトラブルの解決に必要な情報・サービスを、どこでも誰でも受けられるよう、司法サービスをより身近なものにすること」が役割です。法テラスの主な業務は①情報提供業務、②民事法律扶助業務、③国選弁護関連業務、④司法過疎対策業務、⑤犯罪被害者支援業務、⑥日本弁護士連合会委託援助業務など。日本全国の法テラスの法律事務所に配属されたスタッフ弁護士は様々な司法サービスへのアクセス障害の解消のため最前線で活躍しています。

――設立時から変化したことは?

鳴本:司法アクセス障害の解消という目的は変わりませんし、取り扱う事件類型の傾向にも大きな変化はありませんが、社会情勢や国民のニーズに合わせて柔軟に制度を新設・改善するなどして対応してきました。例えば東日本大震災直後は、震災特例法に基づき「震災法律相談援助」という新制度を導入。2018年からはDV・ストーカー・児童虐待の被害を受けている方を対象にした「DV等被害者法律相談援助」を創設。また、国際室を新設し、日本で暮らす外国人の支援体制も整えています。

――法テラスを選択した理由は?

井上:スタッフ弁護士の仕事は“普通に生活する人たちを援助する”ことです。それゆえに多様な経験を若手のうちから積めること、給与制だから“お金にならない事件”も躊躇せず受任できることなどを魅力と感じ、選びました。

野口:例えば障がいを持っていたり、高齢だったりと、何らかの理由で法的支援を受けづらい状況にある方の事件も、できる限り受けられる弁護士でありたいと思っています。井上弁護士と同様に、弁護士として経済的な心配をすることなく、「どうしたの?」と気軽に声をかけられるスタッフ弁護士の働き方が魅力的でした。

鳴本:私は、もともと子どもの事件に取り組みたくて弁護士を志しました。しかし“声にならない声”を抱えているのは子どもだけでなく、司法過疎地の人、高齢者や障がい者、経済的に困窮している方など多様で、法テラスがそうした方々の司法アクセス障害の解消に取り組んでいることを知り、選択しました。弁護士として“己の信念や正義が貫けるか”を突き詰めると、一般的な法律事務所では受任の難しい事件もあります。そうした司法の網から零れ落ちてしまう方々を支援していきたいのです。

――印象深い事件は?

鳴本:障がいのある子どもと、ご自身の病気を抱え、生活に困窮したひとり親家庭の方を支援しました。「電話がつながらなかったら子どもを連れて死のうと思っていた」と後で聞き、人生の極限状態にある方をサポートできる……そんな人の命も救える尊い仕事であることを実感しました。

野口:現在は法テラス千葉法律事務所所属ですが、以前は法テラス会津若松法律事務所にいました。その時、市役所の生活保護課のケースワーカーから、「生活保護を受けている方の債務整理を行いたい」と相談を受けました。その方は発達障がいをお持ちで、他者とのコミュニケーションがうまくできない。やり取りするなかで、私の質問の仕方のせいで怒らせたり、会話がすれ違ってしまったりしたことも。この仕事を通じて、相手に応じた会話のつなぎ方、言葉の選び方の大切さなどたくさんのことを学びました。自己破産の手続きが終わった後も、その方は何かと相談に来てくれるようになりました。嬉しくて印象に残っています。その後、生活保護課からご相談いただく機会が増え、市役所に出向く回数も増えました。このように、事務所だけでなく“現場”に出かけることが多い仕事といえますね。

鳴本:私も出張相談のかたちで、病院や介護施設などに出向くことが多々あります。18年の法改正で、「特定援助対象者法律相談援助事業」を法テラスで開始。これは、認知症高齢者の方で自ら弁護士に相談・依頼することが難しい場合、周囲の支援者の方が弁護士に相談できるもの。福祉関係の相談が増えていったと感じています。

野口:福祉との連携は、司法アクセス障害解消のための重要なポイントです。困っている方を“見つけられない悔しさ”を解消してくれるのが、生活に密着する福祉に携わる方々です。

井上:現在は法テラス埼玉法律事務所所属ですが、以前は法テラス奄美法律事務所にいました。奄美でも、よく相談に来てくれる生活保護課のケースワーカーや、社会福祉協議会の方などがいて、その方々と一緒に関係者の自宅へ赴き、生活立て直しに関する話し合いなどを行っていました。このような現場対応を、法テラスでは当たり前に行います。一般的な法律事務所ではあまり経験できない取り組み方ではないでしょうか。

鳴本:司法アクセスには、法律事務所等がそもそも近くにないという「距離的ハードル」、司法サービスを利用する費用を捻出できないといった「経済的ハードル」、情報がないために相談すればいいということに気づけない、弁護士は敷居が高いと思われているといった「情報のハードル」「心理的ハードル」などがありますが、それぞれのハードル=司法アクセス障害を取り除くために法テラスの各業務があるわけです。それによって誰でも使いやすい司法サービスの実現を目指すのが私たちの使命。ですから、私たちは様々な観点から、いかにしてそれらのハードルを取り除くかということを日々考え、行動に移しています。

弁護士定員1名の法テラス奄美法律事務所に所属していた井上弁護士。事務員の方々と一丸となり、事件処理に取り組んだ(写真は、奄美の風景。提供/日本司法支援センター)

――弁護士定員1名の事務所に若手が赴任するケースもありますが、不安はないでしょうか?

鳴本:スタッフ弁護士は、司法修習終了直後に採用された場合、まず一般の法律事務所において経験豊富な弁護士の下で1年間事件処理を学んだ後に、各地の法テラスの法律事務所に赴任します。また、法テラスや日弁連が主催する様々な研修を受けることで、赴任先で必要なスキルを身につけていきます。さらに、法テラス本部には「常勤弁護士業務支援室」があり、スタッフ弁護士の業務にも精通した弁護士が個別相談に応じてくれます。加えて、全国各地に約200名いるスタッフ弁護士が様々なツールでつながっていますし、バックアップ体制は万全だと思います。

――弁護士や司法修習生の方へメッセージをお願いします。

井上:転勤があることやストレス耐性が求められる事件も多いため、たしかに負担も大きいですが、2~3年目の若手でも相談者や地域の福祉関係者、裁判所などから信頼を得て仕事を任せてもらえます。弁護士の数が少ない司法過疎地では、必然的に多様な事件に関与できるでしょう。若いうちから豊富な実務経験が積め、知らない土地での地域交流を通じて多様なネットワークを作れることなど、大きなやりがいが得られる仕事です。

野口:都市型事務所の千葉でも、県内を見渡せばまだまだ司法アクセス障害が残っていると日々痛感しています。多様な事件があるので、多様な経験を持つスタッフ弁護士と働けることは心強いです。全国には、元々企業法務に携わっていた弁護士としての経歴や、自治体・検察庁など公的機関で働いていた経歴を持つスタッフ弁護士がいます。スタッフ弁護士の多様性は、司法アクセス障害の解消をさらに前進させると考えています。

鳴本:司法過疎、弁護士偏在という問題は今でも深刻ですが、法テラスの取り組みが、法曹界においてすら十分に伝わっていないというもどかしい思いがあります。司法アクセス障害の解消――「誰もが、いつでも、どこでも、法による紛争の解決に必要な情報やサービスの提供が受けられる社会の実現を目指す」という法テラスの使命は、法曹界全体の使命でもあるはずです。この理念に共感していただける弁護士が、一人でも増えること、これが私たちの願いです。