Vol.16
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住宅カンパニーは法務業務のほとんどを内部で処理。物件ごとに各種書類作成や折衝があるため業務量は膨大で、スタッフの人数も社内3カンパニーで最も多くなっている。

住宅カンパニーは法務業務のほとんどを内部で処理。物件ごとに各種書類作成や折衝があるため業務量は膨大で、スタッフの人数も社内3カンパニーで最も多くなっている。

THE LEGAL DEPARTMENT

#11

野村不動産株式会社 住宅カンパニー 業務部 文書法務課

エンドユーザーや多方面の関係者と接し、さまざまな折衝に柔軟な解決策を見いだす不動産会社の法務組織

ユーザーが納得する資料を物件ごとに作りあげる法務組織

住宅・法人・資産運用の社内3カンパニー制(※)で、総合的な不動産事業を展開する野村不動産。住宅カンパニーは「PROUD」ブランドでマンション・戸建住宅の供給などを行っている。不動産業界で住宅を扱う企業の法務には、どのような特徴があるのだろうか。部門長の海東孝一氏にお話を伺った。

「ビジネスに特化した法務セクションが3カンパニーそれぞれに置かれていることが当社の特徴で、住宅カンパニーでは10名のスタッフが法務業務に従事しています。(1)土地購入 (2)建物建築 (3)販売 (4)物件引き渡し (5)アフターサービスが当カンパニーのビジネスフロー。その過程では地権者・不動産会社・近隣住民・建築施工業者・エンドユーザーなど、さまざまな方々との調整が行われます。調整事について業務推進部門からアドバイスが求められ、さらにおのおのに契約を含む書類作成が伴うため、法務業務は繁忙です。なかでも大きなウエートを占めるのが、契約前の重要事項説明に要する書類の作成。大型マンションの場合、重要事項説明や管理規約など書類一式で厚さ5センチほどのボリュームになり、物件ごとにカスタマイズが必要なので、専従スタッフを4名置いています」

そのほか法務チーム内における役割分担は、どうなっているのだろうか。

「重要事項説明のほかには文書の保管・管理に2名、主に土地購入時のリーガルチェック担当として1名のスタッフがいます。契約書など文書の保管・管理業務では、データをマイクロフィルムに収めて一元管理するほか、お客さまからの照会にも対応。細心の注意を払いデリケートな個人情報を扱っています。土地購入については該当部門で実務を経験した者を、リーガルチェックの主任にあてました。土地購入の契約書は月に4、5件作成。これは計上戸数ベースにして年間4,500~5,000戸相当です。課長の私を含むそのほか3名は売買契約書作成、建築会社との契約チェック、アフターサービスの対応アドバイスなど業務全般を担当しています」

 

※法人カンパニーは企業向けに仲介・管理・鑑定など不動産有効活用のソリューションを提供するとともに、オフィスビルの開発・運営事業を行う。資産運用カンパニーは機関投資家や企業年金向けを中心にREIT(不動産投資信託)をはじめ、不動産投資に関する機会や情報を提供するファンドビジネスを行う。

関係者が納得することが優先され、解決に向け柔軟に対応する

法務の役割を「関係者と担当部門の橋渡し」と表現した海東氏。その内容を具体的に説明していただいた。

「私たちのビジネスでは、事業計画地の近隣に居住する皆さんから理解を得ることがきわめて大切です。そのため渉外部門が窓口となり、地元への説明会や話し合いを行いますが、法務はさまざまな権利関係の調整に関して、民法の相隣関係や日照権など法的アドバイスによって側面からサポートしています。また個別の交渉などで法律に関する説明が必要な場合や、お客さまから要望があるときは自ら説明・調整の場に同席するので、エンドユーザーのお客さまからいただいた課題を渉外部門にフィードバックすることも少なくありません。このように外部と社内部門の橋渡しをすることも法務の役割の一つです。連携する部署としては、新規事業用地取得の際に必ずリーガルチェックを実施する開発部門、エンドユーザーのお客さまからお問い合わせが多いアフターサービス部門などがあります。私たちの折衝のなかには、法律だけに頼っていると解決できないものもあり、ときには担当者のキャラクターや関係当事者との信頼関係が解決に大きく影響するのです。法務は、法律はもちろん担当者の交渉力やスタイルも上手に把握しながら、事案ごとに柔軟に解決方法を見いだしています」

それらの法務業務を行うにあたり、難しさを感じるのは、どんな点なのか。

「私の経験では、土地売買の契約が履行されなかった二つの事案が印象に残っています。一つは不動産会社が当社に土地を売った後、ほかのデベロッパーに二重売買したケース。これは問題発生当初から弁護士と連携して、満足のいく解決が図れました。もう一つのケースは個人の地主が当社に土地を売った後、トラブルが起きて契約が不履行になったもの。こちらは目指した解決には至りませんでした。なぜ同様の二つの事案で違う結果になったか振り返ると、後者は関係当事者が複雑化したこともあって、対応方針や状況が二転三転し、法務が経営に対し『この時点ではこれがベスト』というタイムリーな提言ができなかったのです。このように類似案件でもそれぞれに解決方法や着地点が異なり、事案に個別性が高いことが仕事の難しさだと思います。そういう課題を洗い出す目的から、今年4月に今まで扱った案件を一斉に振り返る機会をつくりました。本社スタッフはじめ各支店の部店長も一堂に会する場で『法務がどの時点でどう関与したら最善の解決が図れたか』をいくつかの案件に基づき精査。ここで抽出された課題を、これからの業務に生かしたいと考えています」

ユーザーから信頼される住宅ブランドを支えるために、法務は今後どんな点に注力していくのだろうか。

「当社の事業を近隣住民の皆様にご理解いただく説明を深化させたいと考えています。日照権・プライバシー・圧迫感・眺望・風環境など議論になることをまとめたうえで、考えうる解決策もリストアップ。問題点をあるレベルまで深化かつ類型化することで、より短期間でより良い関係が構築でき、会社の業務効率向上も図れます。案件の個別性などがネックにはなりますが、ぜひ整理したい課題です。また、紛争解決学の権威の先生を招いて、講義を受けたいとも考えています。ユーザーをはじめとしたステークホルダーが多数存在する不動産の法務において、利害衝突を上手に回避する知識・知恵はきわめて大切。体系的な理解に『裁判外紛争解決』の知識を役立てたいと思います。また、そういう講習や振り返りの機会を今後どんどん増やして、法務スタッフの知識向上を図っていきたいとも考えています」