エーザイの法務は、日本本社のほか米国、欧州、中国に拠点を置く4極体制を敷く。本社法務部は高橋健太常務執行役法務部長以下、総勢13名の陣容で、うち6名はインハウスロイヤー(ニューヨーク州弁護士4名、日本の弁護士2名)である。
「ヒューマン・ヘルスケア」を掲げる同社は、2005年の株主総会で、定款の冒頭に「患者様とそのご家族の喜怒哀楽を第一義に考え、そのベネフィット向上に貢献する(後略)」という企業理念を盛り込んだ。
高橋氏は「利益もさることながら、それ以上に大切なのは、医薬品を必要とする人の思いに応え、貢献すること。そうした理念を株主と共有したい、というトップの判断でした」と語る。
「逆に言えば、患者様やご家族のベネフィットに反する、例えば訴訟、不祥事などを起こせば、企業価値を最も毀損することになります。そうした事態を防ぐプロアクティブな活動こそ、私たち法務部が最重要視している仕事なのです」
そのうえで、「法務としての業務の基本は他社と変わらないものの、商品が医薬品という点に〝難しさ〞がある」と言う。
「例えば当社が海外のA社に、開発した医薬品をライセンスアウトしたとします。A社に契約違反があったら、普通の商品ならばすぐに契約を解除して自社の不利益を回避することも可能でしょう。しかし医薬品の場合、それを頼りにしている患者様がいます。A社のみがその国の規制当局の販売承認を得ている場合には、当該承認を得ていない当社が供給を肩代わりすることもできません」
結局、どんなに相手に非があろうとも契約そのものを切ることは難しく、話し合いを続けざるを得ない。
「そうしたことのないように、いろんなことを想定して契約書をつくる必要があります。ただそれ以上に、目先の儲けだけでなく、患者様への供給責任を自覚した相手なのかどうかを、最初に見極めることが大事。グローバル化が進めば進むほど、慎重な判断が求められるわけです」