野村グループは、持株会社である野村ホールディングスと国内外の子会社で構成された世界30カ国・地域を超えるネットワークを有するグローバル金融サービス・グループだ。営業、アセット・マネジメント、ホールセール、マーチャント・バンキングと、4つのセグメントが連携し合い、商品、サービスを提供している。そのビジネス活動において法的支援を行う森貴子氏、宮内佐和子氏、宮原裕介氏に、お話をうかがった。まずは、法務体制について。
「野村グループの日本法務部門は、法務担当役員のもとで3部体制を敷いています。野村證券下で同社コーポレート業務などを担当する法務部と、主にホールセールの金融取引を担当するトランザクション・リーガル部(TL部)、そして野村ホールディングスの法務や子会社の管理を主に担当するグループ法務部となります。なお野村證券の法務部・TL部の部員の多くはホールディングスのグループ法務部も兼務しています。3部合わせて64名が所属し、その全員で野村グループの法務をカバーしているのです」(森氏)
森、宮内、宮原三氏は法律事務所出身。入社動機は「グローバル展開する企業でビジネスにかかわりたい」「受け身ではなくプロアクティブなインハウスローヤーを目指す」「先端的な金融取引などファイナンス分野で専門性を高める」など。森氏は昨年までニューヨークの拠点に駐在し、ジェネラルカウンセルのサポートを務めた。
「アメリカには法務部員が50名ほどいます(駐在員は基本的に1名のみ)。帰国前の1年間は米州リーガル部門のCOOとして部全体を管理しました。アメリカでの訴訟手続においては、日本とアメリカの制度の違い、日本人にとって米国法の理解しづらい点の説明など、日米リーガルの橋渡し的な役割も。日本から海外へ駐在する者は少数ですが、特にTL部ではクロスボーダー案件への関与も多く、日本にいながら各国のリーガルメンバーであるローヤーたちと日常的にやりとりしています」(森氏)。
米国、ロンドンを中心とする欧州、香港を中心とするアジア、インドなど各リージョンのメンバーとの情報共有を頻繁に行っており、「常に世界に目を向けていられる状況です」と森氏。
TL部の重要な役割の一つに、仕組債の発行やデリバティブなどホールセールの金融取引サポートがある。宮原氏はそのうち、店頭デリバティブに関するドキュメンテーションの作成・サポート、およびリスク管理や規制周りのチェックを担当する。
「マイナス金利導入の際、店頭デリバティブ取引とその担保にかかるマイナス金利授受の要否をめぐって、契約上の解釈について議論が起きました。日本法のみならず、米国法(NY法)、英国法における解釈や実務も確認しながら、業界団体や外部法律事務所と協議を行いました。その結果を社内の多数の案件に個別に適用した際は、やりがいを感じました」(宮原氏)
また、宮内氏が所属する法務部および同部内のグループ法務部兼務者は、コーポレートセクレタリー、営業部門のサポート、訴訟対応、TL部担当以外の契約周りのサポート(野村グループでのM&Aなど)、知的財産権の管理、開示(米国SECへ提出する年次報告書作成など含む)、税制およびレギュラトリーなどに絡む社内からの意見収集・相談などを幅広く担当する。
「当社はそもそも規制業種ですから、これまでは〝コンプライアンス寄り〞の法務的視点で対処しがちだったように感じます。しかし近年は、例えば契約交渉時のリスクの指摘に留まらず、〝ビジネスをいかにして進めるか〞という提案を各自ができるようになってきています。部全体にそうしたマインドが広がってきていることや、解決や推進のための提案ができる知識が蓄積されつつあることを実感します。提案の結果、フロントなどの部署から感謝してもらえることが、大きな喜びです」
三氏の職掌はそれぞれ異なるが、共通するのは「営業など他部署と協働してビジネス・取引をつくること」――これを同社法務の大切なミッションと捉えている。