同部は稼働して4年目ながら、すでにそのプレゼンスは社内に浸透しており、契約業務以外の個別案件(リスクが感じられるものやお客さまへのアプローチ方法で迷うなど)については、各担当者がそのつど、直接法務部へ相談に来ることも多いという。“同社法務部らしさ”が感じられる事案の一例を、高橋氏が教えてくれた。
「例えば昨年度、当社に対して権利侵害を行った他社と交渉し、和解し、再発防止を合意した上で賠償金の支払いにも応じていただきました。その際、相手方は弁護士を立てましたが、当社では弁護士を立てずに交渉しています」
なぜ、弁護士を立てずに説得により事態を収拾したのか。
「侵害排除は必要ですが、例えば相手が“コンペティターである”ということもあります。その場合、将来的に当社とのアライアンスの可能性もあるということ。私たちは“世の中にあるものすべてが自分たちの競争力を磨いていくための要素となり得る”と考えているので、昨日の敵が、“価値あるアライアンスパートナー”に変わることもあるわけです。一方向に物事を見て“敵だ”と断じていては、ビジネスにおいて良い結果は生み出せません。相手を自分たちのために生かすにはどうしたらよいか――そのように事態を捉え・考えることが、企業の戦略法務の真骨頂であり、仕事をするうえでの醍醐味だと思います」
ただ、そこでは法律の知識やテクニックだけではなく、抽象的だが、「人間力が問われることになる」と高橋氏は言う。
「私自身、様々な訴訟を経験して感じているのは、“専門性があるのは当たり前”の世界だということ。相手と議論をする中で、専門性を戦わせて優劣を決める際、何が決定打になるかといえば、最終的には相手が安心したり、理解し心を開いたり、あるいは信頼してもらえるような対応ができるかということ。つまり、ちょっとした“人間力”の差なのだと思います。お互いにとって最善の到達点がどこかを見極めるには、ビジネス的な視点だけでなく、そこに集まる人たちの状況を見とおす視点が必要。企業法務に携わる者は、そのような人間力、あるいは総合力といったものが試される。実に奥深い仕事であると、私は感じています」
同社では昨年、セキュリティ・トークンを用いた不動産証券化事業の実証実験に参画。これは、改正資金決済法および金融商品取引法の施行に向け、フィンテック企業および外資系コンサルティングファームなどが共同で行うプロジェクトで、国内外における不動産証券化の市場分析やセキュリティ・トークンに係る国内外の税制・規制面を考慮し、その有効性を検証するものだ。同社はアドバイザリーとしてプロジェクトに参加、当然、法務部も法的見地からアドバイスを行った。同じく昨年より、企業活動における不正抑止、インシデント発生時のレピュテーション毀損の抑止、およびクライシス化防止等を目的とした支援サービス「インシデントリスクアドバイザリー」を提供開始。このビジネスモデル構築・運用の際にも、法務部が果たした役割は大きい。
総合コンサルティングを標榜するだけあり、同社ではこうした新市場の開拓や新事業創出事案が引きも切らない。コンプライアンスをはじめとするコーポレート系業務、あるいは海外事業展開におけるFCPА(海外腐敗行為防止法)やアンチトラスト法対応など、企業存続・発展の屋台骨として法務部に求められる業務は多いが、新事業創出というまさにビジネスの最前線で、法律を武器に力を発揮し、仲間の役に立てることこそ、企業法務のやりがいといえる。
「仕事は、“使われている”と感じていては本当の面白さが得られないし、それ以上の成果を上げることもできません。主体的にかかわり、難しい仕事でも面白がって、工夫して入り込んでいく。そうするほど、深いやりがいが得られると私は思います」