Vol.76-77
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法務統制本部のメンバーは14名(日本法資格者1名)。右/法務統制本部部長・我妻未沙子氏、左/法務統制本部リーダー・三浦修平氏

法務統制本部のメンバーは14名(日本法資格者1名)。右/法務統制本部部長・我妻未沙子氏、左/法務統制本部リーダー・三浦修平氏

THE LEGAL DEPARTMENT

#112

サイボウズ株式会社 法務統制本部

“Build Trust!”上場企業に求められる信頼を担保しつつ、事業部の挑戦を徹底支援

基本的に「NO」と言わない法務

グループウェアの開発・販売・運用やチームワーク強化メソッドの開発・販売・提供などを行うサイボウズ株式会社。リモートワークなどを含め、働き方の多様化が進むなか、各社・各組織の「(業務の)見える化、(仕事の)脱属人化、(働く人の)時間と場所の制約からの解放」を実現する様々なサービスを世に送り出してきた。法務統制本部部長の我妻未沙子氏に、同部のミッションを聞いた。

「キーワードは“Build Trust”です。当社はチャレンジングなプロジェクトが多いことが特徴ですが、東証一部上場企業として築き上げてきた信頼への責任を果たし、これを守り続けるという役割が求められています」

例えば、2020年に行った次期取締役の社内公募や、新型コロナ禍でテレワーク推進を謳い、賛否両論を巻き起こしたテレビCM・新聞広告(「がんばるな、ニッポン」というメッセージ)など、同社の取り組みは私たちに新たな気づきを与えてくれる。

「法律の専門家から見れば、実務的に困惑してしまうようなプロジェクトもなかにはあります。ブランディングやマーケティングのために各本部が達成したいことと、法律・ガバナンスの面で大切にしなくてはならないことが相反する場合もあるわけです。そうした時、私たちは“信頼の基盤”の役割を果たすため、徹底的に議論します」

しかし同部は、「NO」を出すために議論するのではない。

「明らかな法律違反でない限りは、できるだけ『NO』と言わない姿勢を大切にしています。法律の抜け道を探すような解決策ではなく、社会への説明責任が果たせる方法を、逃げずに、一緒に突き詰めるのです。当社には“公明正大であること”を理念とし、それを大切にする風土があります。メンバーが皆、清い心で臨んでいることがわかるからこそ、仲間への信頼があるからこそ、困難と思われる取り組みであっても実現できるようサポートしています」

サイボウズ株式会社
法務統制本部のメンバーも懇親会などで利用するという「CYBOZU BAR(サイボウズ バル)」。執務フロアには社員専用の休憩スペースもある

業務範囲はグローバル

同部の業務は、予防・臨床・戦略法務、コンプライアンス教育、内部統制構築、監査、知的財産管理など多岐にわたり、“クラウドビジネス×グローバル”という新たな法律分野にも挑む。その具体例をリーダーの三浦修平氏に聞いた。

「クラウドビジネスでは、やはりデータの取り扱いがポイントになります。例えば“通信の秘密”という電気通信事業法上の規制を、クラウドビジネスという新たな領域においてどう捉えていくかといった点について、関連省庁の研究会向けに実務の立場からパブリックコメントを出すなどしています。また、時に犯罪にかかわる証跡がクラウドサービス上にアップロードされてしまうこともあります。その場合、捜査機関からの開示要求への対応などもしていますが、常にどのようなポリシーをもって、具体的にどんな開示根拠に基づいて、どれだけ開示したかといったデータを公表しています。海外のITベンダーにとっては一般的なプラクティスですが、国内では今のところ当社を含めて2社しか行っていないという認識です。先述のように、当社には“公明正大”という理念がありますが、データプライバシーに関する取り組みはそれを体現するための一つの方法でもあると思います」

同氏はデータプライバシーに関する業務の担当者として対応する。

「全本部がデータの取り扱いにかかわるため、業務を通じて各本部がどのような取り組みをしているのかを知ることができ、新たな発見もあり、やりがいがあります。また当社では、中国、ベトナム、アメリカ、オーストラリアなど国内外の7拠点で開発・販売をしていますが、昨年はアメリカの子会社においてCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)対応を行いました。ローカルメンバーと協力し、そして共に苦労しながら進めたのですが、この対応を通して子会社との連携が深まったことを実感しています。今でも互いにシームレスに情報共有をしながら問題の解決を図っています。このような関係を構築できたことが、CCPA対応の一番の成果と言っても過言ではないでしょう」

なお、海外拠点に法務機能はなく法務統制本部が統括する。

「現地には日本語が話せるメンバーもいますが、急ぎの案件の場合はローカルの担当者と我々が直接コミュニケーションすることになるので、英語など外国語を使う機会はけっこうありますね」(我妻氏)

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    「サイボウ樹パーク」として来客や社員に親しまれるエントランス
  • サイボウズ株式会社
    「CYBOZU CAFÉ TORI」は顧客にサービス説明を行うためのスペース

マネジメント型の業務が増加傾向

同社は『2021年版 日本における「働きがいのある会社」ランキング 中規模部門』(Great Place to Work® Institute Japan)で2位に選出され、今年で8年連続のランクインとなった。在宅勤務、人事評価といった制度、バーチャルオフィスや自社サービスを活用したITツールを、“多様な個性を重視する/公明正大である/議論を大事にする”といった風土のもとに活用し、スタッフは多様な働き方を実現。“働きがい”とは、働き方だけでなく、当然“仕事のやりがい”が伴ってこそ高まるもの。同部では一人ひとりが責任を持ち、しかし孤立することなく、チームで進めることを基本とする。

「各本部から依頼される日常的な法務相談については、マネージャーとリーダーが1日1回話し合い、一次担当、二次担当と役割分担をした2人1組のメンバーに割り振ります。初動段階で、2人で方針を決めたあとは、一次担当が窓口となって相談者から詳細を聞き取り、回答案を作成。二次担当は、その内容をチェックし、OKであれば一次担当が相談者に回答をするという流れです。一次担当、二次担当、それぞれが担当した業務に強い責任を持ってあたる意識が醸成されています」(三浦氏)

法務知識に関する教育方針について、我妻氏が教えてくれた。

「法務のベーススキルの向上については、“一次ソース”に触れることを最も大切にしています。学びたいと思う法分野について著名な弁護士がいれば、面識がなくともコンタクトを取り、助言をいただく。当部向けに勉強会を開いていただくこともあれば、ディスカッションをさせていただくこともある。やはり、その道の第一人者が持っている最新かつ生の情報や見識は、多くの学びが得られ、非常に貴重です。新型コロナ禍により、法律事務所に直接訪問する難易度が上がってしまいましたが、それ以前は積極的にお伺いし、ご指導いただいていました。もちろん、セミナーや最新の書籍購入なども本人が業務に必要と思うものは遠慮せずに購入してもらってOK。知への投資はケチらないというのが私の信条です(笑)」

そんな同部では、20年から、「Code of Conduct(行動指針)」を社内向けに発表している。我妻氏が、その目的と効果を次のように説明する。

「営業、開発、運用など、他本部に“理解する/想像する/提案する/ビジネス感覚を持つ”という4点を大切にして活動しているチームであることを周知する目的で発表しました。一方、部内のメンバーには紋切型の法務にならず、謙虚な気持ちで務めることを忘れないでいてほしいという思いを伝えています。この行動指針を社内へ向けて発信して以降、各本部から当部に対してポジティブ・ネガティブ両面で、多くのフィードバックがもらえるようになったと実感しています」

法務から社内に向けて、その存在価値・意義を明確化することにより、営業、開発、運用本部などとの信頼関係が深まり、各本部がプロジェクトの早期段階から法務を巻き込むケースが増えたそうだ。

「例えば、海外展開の際には、『拠点をどこに置くか』という調査段階から相談してくれます。営業であれば、『新しいスキームを使って企業連携・事業拡大する方法について、契約書や法律事務を含めて相談に乗ってほしい』といったようなことです」(我妻氏)

そのように全社から頼られる存在となった同部が、今後、必要とする能力はどのようなものか、三浦氏が教えてくれた。

「当部では、データプライバシーをはじめとしたコンプライアンス体制の構築など、複数もしくは全本部にかかわるような規模のプロジェクトが増えてきているので、それをリードしていくような動きが必要になってくるでしょう。法律に関する専門知識はもちろん大切ですが、それ以上に今後は、プロジェクトマネジメント・スキルが、私たちに強く求められていくだろうと考えます」

※取材に際してはマスクを外していただきました。

サイボウズ株式会社
「100人いたら100通りの働き方」を掲げるサイボウズ。ワークスタイル変革推進により、この10年ほど全社離職率3~5%を維持し続けている