Vol.78
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衆議院法制局は、プロパー職員、任期付職員(弁護士を含む法曹有資格者)、自治体からの研修員、国会関係部局や各省庁などからの出向者合わせて約100名の組織。これまでに任期付職員として12名の法曹有資格者が従事してきた

衆議院法制局は、プロパー職員、任期付職員(弁護士を含む法曹有資格者)、自治体からの研修員、国会関係部局や各省庁などからの出向者合わせて約100名の組織。これまでに任期付職員として12名の法曹有資格者が従事してきた

THE LEGAL DEPARTMENT

#113

衆議院法制局

国会議員の頼れるパートナーとして、よりよい社会づくりを“法案”でサポート

「政策(おもい)を法律(かたち)に」

先の第204回国会で、「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律」「令和二年度子育て世帯生活支援特別給付金に係る差押禁止等に関する法律」などの議員立法が成立した。国会に法案が提出されるルートは国会議員が提出する議員立法(衆法/参法)と、内閣から提出される閣法があるが、このうち衆議院議員と各政党(会派)の政策立案者の立法活動を多面的に補佐するのが衆議院法制局(以下、法制局)。法制企画調整部長の森恭子氏に、法制局の具体的な仕事内容をうかがった。

「私たちは、①議員立法の立案・審査、②議員立法・閣法の修正案の立案・審査、③政治的な“ホットイシュー”に関する憲法問題・法律問題の照会への調査回答、およびそれを起点とする立案といった職務を担っています。議員や秘書・政党から立案依頼を受けると、法制度化に必要な調査・検討、条文化作業(法案作成)を行い、法案の国会提出前には議員が所属政党内で法案提出の了承を得る“党内手続”に同席して説明をしたり、法案提出後の国会審議では質問取りや質疑に対する答弁案の作成、実際に委員会審査に同席して議員の答弁補佐なども行います」

特に大切にする点は、何か?

「私たちは政策を法律案として条文化するにあたり、すべての政党の議員を公正・中立に補佐することを旨としています。同一のテーマで複数の政党から依頼を受けることも少なくありませんが、どの政党からの依頼でも守秘義務を厳格に守って、議員と厚い信頼関係を構築しながら、依頼政党の立場・考え方に沿ったお手伝いをします。また、法令審査だけでなく“法制度設計全般”の補佐をするため、政策構想の早い段階から各議員に頼りにしていただける法制局であらねばならないと考えています。私たちは『政策(おもい)を法律(かたち)に』というスローガンを掲げ、その思い・姿勢を日々共有しています」

仕事の舞台は″永田町のど真ん中”だが、「認知度がまだまだであることが悩みです」と、森氏。

「法制局には、自治体からの研修員、国会関係部局や各省庁からの出向者、任期付職員としての法曹有資格者と多様な人材が集っています。そして、与野党の議員を補佐して新しい法制度をつくり上げるべく、既存の法理論にとらわれない柔軟な発想力と構想力を持って、様々な法制的論点に果敢に取り組んでいます。特に弁護士は、法律事務所で民事・刑事を問わず個別の紛争対応等の法律事務にあたってきた者、インハウスローヤーとして事業会社でビジネスに関与してきた者、国・自治体で行政の運用解釈や政策法務に関与してきた者などが活躍しています。高い法解釈能力はもちろん、プロパーの職員とは異なる視座、豊かな示唆を与えてくれるありがたい存在です。民意を背景とした議員の政策論議を補佐するにあたり、そのような多様な経験を持つ弁護士の力が必要です。司法修習の選択型実務修習先として司法修習生を受け入れておりますが、法制局の認知度を高め、一人でも多くの経験豊かな弁護士に興味を持っていただきたいです」

豊かな社会をつくるため新たな法案をつくる仕事

現在、法制局に所属する任期付職員は弁護士を含む法曹有資格者3名。そのうちの一人、濱中麻実子弁護士は、一般民事・刑事を扱う法律事務所から、子育て総合支援を行う民間企業のインハウスローヤー、内閣府の男女共同参画局を経て現職に。法制局では少年法、出入国管理及び難民認定法(入管法)、刑法、児童買春・児童ポルノ禁止法、不払い養育費問題、氏(うじ)・戸籍、同性婚等に関する政策などにかかわってきた。濱中弁護士は、現在の仕事をこう語る。

「様々な面で非常にダイナミック。例えば、政策構想・法制度化の段階においては、現行法制だけではなく過去に遡れるだけ遡って古い資料を調査・分析することもあれば、国内での地域ごとの特性・実情や、諸外国の法令やその現状・課題を調査・分析することもあります。そうした作業を進めるなかで、“国政の中心”ゆえに、事態の急変による対応を迫られることもあり、判断や事務処理のスピード、臨機応変に対応する力が要求されます。法律事務所での職務内容は個別具体的な案件ごとの“主張・立証”、“法解釈・適用”に関する司法の領域のものでした。民間企業では、事業目的達成に寄与するため、法務の枠にとらわれず現場を理解して伴走し、サポートすることに努めました。行政府での政策の企画立案・総合調整等では、関係府省、地方自治体、有識者、関係団体などステークホルダーと国内外で連携しつつ、多種多様な取り組みに携わりました。今の職務遂行に、それらすべての経験を活かすことができています」

ほかの任期付職員2名も、先の国会で成立した「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」や、「宇宙資源の探査及び開発に関する事業活動の促進に関する法律」などの立案に携わった。二人も仕事のやりがいを教えてくれた。

「建設石綿給付金支給法は、今年5月に最高裁が国の責任を認める判決を出したことを契機に法制化されました。最高裁判決の内容を分析すること自体は弁護士業務でもありましたが、給付金制度をつくり、制度として機能させるには、類似の給付立法の構成の分析、請求から審査、支払いまでの手続全体の設計など通常の弁護士業務では行わない調査・検討が必要。『被害者のためのよりよい法案にするには、何が必要か』という基本から考え、気になった点を調査し、アイデアを出しました。それが法案の“血肉”となり、国会で成立した時はやはり感動しました」

「宇宙資源法について、依頼者である議員と政策内容の打ち合わせを重ねて法律案の方向性を定め、有識者や民間事業者などの関係者からヒアリングを行い、依頼議員や関係省庁と何度も協議しながら、法律案をつくり上げました。その後も、各政党の党内手続での対応や衆・参議院での質疑対応の補佐を行い、法律ができる過程の最初から最後まで携われました。こうした経験は、ここでしか味わえない貴重なものだと思います」

濱中弁護士を含む任期付職員3名は「議員立法の立案に特化した法制局での仕事は、これまで“所与のもの”として扱ってきた法規範を新たに“立案する対象”としてとらえる、まさにクリエイティブな仕事です。何よりも、議員へのサポートを通じて、社会課題の解決に携わり、国民全体さらには将来の世代の一助となれることが、大きなやりがいです」と語る。

衆議院法制局
法制局の仕事は、衆議院という政治の舞台を支え、社会課題の解決に向けた新たな法制度の創造を補佐し、法律をつくっていくクリエイティブワーク!

法制局の財産はなによりも“人”

衆議院法制局
執務室がある衆議院第二別館と国会議事堂や議員会館、政党本部との行き来は頻繁だ

先の国会で新規提出された衆法は45本、継続審査となっていた「日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律」を含めて20本が成立した。それだけの法案にかかわる法制局の仕事の進め方には次のような特徴がある。

「法制局では、各課の課長以下全員がチームとなって案件を担当します。立案にあたっては、入局年次にかかわらず自由に意見を出し合い、積極的に議論・検討を行います。それは局長審査をはじめ、局内審査の各段階でも同様です。一方で、我々の仕事は、“国政の中心”たる国会が対象であるがゆえに社会情勢・政治情勢の急変といった様々な不測の事態が生じた場合の対応も求められ、我々の都合で遅らせることはできません。このように徹底した検討と迅速な対応を両立させるため、課というチームを基本単位としてフォローし合います。いざとなれば法制局一丸で業務にあたります」(濱中弁護士)

課単位のチーム制は、ワークライフバランスの充実も目的の一つ。

「100名足らずの小さな組織なので、私たちには“人が財産”“人を大切に”という強い思いがあります。組織のトップである法制局長も、『一人ひとりに居場所とやりがいのある風通しのよい職場』というスローガンを様々な場面で発信しています。仕事の能力向上については従来の研修・OJTのほか、令和2年4月に『法制例規室』を設置し、研修体制の強化を図っています。一方で、意欲を持って長く働いてもらうためには、まさに個々の“ライフ”への配慮も重要です。国会会期中は多忙を極めるものの、閉会中はまとめて有給休暇をとるなど、メリハリある働き方を推奨しています。子育てや介護など個別の事情を考慮し、助け合いながら働いていけるよう、よりよい職場環境づくりにこれからも注力していきます」(森氏)

※取材に際しては撮影時のみマスクを外していただきました。