Vol.82
HOME法務最前線国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)
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同課のメンバーは8名(うち有資格者3名)。管理部門、有人活動、ロケットなど各事業部門に配置された法務担当(有資格者含む)が連携する。写真中央は、大久保倫子課長。右端は、加藤憲田郎主査(69期)

同課のメンバーは8名(うち有資格者3名)。管理部門、有人活動、ロケットなど各事業部門に配置された法務担当(有資格者含む)が連携する。写真中央は、大久保倫子課長。右端は、加藤憲田郎主査(69期)

THE LEGAL DEPARTMENT

#125

国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA) 総務部 法務・コンプライアンス課

事業に伴走する法務――宇宙航空分野の前例のない課題に取り組み、解決策を導く

宇宙航空事業と表裏一体の存在

JAXAの法務体制は、総務部法務・コンプライアンス課(以下、法コ課)をはじめ調達や国際、宇宙ビジネスなどの管理部門、有人活動、ロケット、人工衛星、宇宙探査、宇宙科学、航空など各事業部門に配置された法務担当の連携で構成。法コ課の業務内容を、課長の大久保倫子氏にうかがった。

「法コ課では、海外の宇宙機関や内外の研究機関や事業者との協定レビューや各種法律相談、紛争解決、コンプライアンス、内部統制、社内規程整備、利益相反マネジメント、日本政府の宇宙分野の法制にかかる支援、そのための宇宙法研究などの業務を、それぞれ複数名でチーム編成して担当しています。一般的な法務と宇宙分野特有の“宇宙法”にかかわる業務に、組織横断的に対応する部署です」

法コ課のミッションについて、大久保氏は次のように話す。

「JAXAの経営理念である『宇宙と空を活かし、安全で豊かな社会を実現する』に向けて、私たちは“事業に伴走する法務”をモットーとしています。政府全体の宇宙開発利用を技術で支える中核的実施機関であり、同分野の基礎研究から開発・利用に至るまで一貫して行っているJAXA。管理部門の組織として、その各研究開発事業と経営を法務面から支えることが我々の責務と考えています」

未知の取り組みを現実にする醍醐味

“事業に伴走する法務”であるためには、「①ガーディアン機能、②ナビゲーション機能、③クリエーション機能という3つの側面を重視する必要がある」と、大久保氏。①は当然のこととして、特に重要なのは②と③だ。これらについて、菊地耕一氏と西田哲氏に、具体例を交えて説明いただいた。

「コンプライアンス対応や法律相談など一般的な法務業務が日常的にある一方、“宇宙活動(事業)に関する法務”ゆえに、スペースデブリの問題や月・火星における宇宙資源の扱いなど、新たな“宇宙法の論点”にぶつかることも。宇宙活動は、宇宙条約をはじめとする国際宇宙法やその他の国際ルールを順守して進める必要がありますが、国際ルールは技術の進歩や事業進捗に追いついていないのが現状です。例えば、多数の人工衛星で構成されるラージコンステレーション事業に伴うスペースデブリ問題など、既存のルールのもとでどう対応していくかは、研究開発の最前線に立つエンジニアや研究者と“地に足のついた議論”を行い、解決に導いていく必要があります」(西田氏)

JAXAでは研究者・エンジニアが研究開発の主体となって、新たなミッションや事業を検討・推進している。その際、不可欠となる国内の業法や国際ルールの知識・専門性などは、法務担当者に頼られる。「障害となる芽をあらかじめ摘んで、リスクテイクの判断材料を提供する。問題の顕在化の可能性を察知すれば、防止の手立てを提案する。問題が顕在化すれば対処方法を提案する」ことで、事業に伴走しているのだ。

「日本がよりスムーズに宇宙活動を行うために、 宇宙を持続的に利用できるようにするためには、国際的なルールメイキングが重要です。我々は宇宙法のエキスパートとして、NASAやESAなど海外機関とも協働するなどして、政府の活動支援を行っています。国際宇宙基地協力協定や、アルテミス合意、日米間の月周回有人拠点に関する覚書といった各種合意などへの関与がその一例です。また、宇宙法の論点について国際的に議論する場である、国連宇宙空間平和利用委員会法律小委員会における、日本政府の対応なども支援しています」(菊地氏・西田氏)

海外の宇宙機関と協定案を交渉するにあたり、スペースデブリの低減に関する条項や、探査の対象天体の環境を、地球から運搬される微生物や生命関連物質による汚染から保全するといった惑星保護に関する条項、宇宙遺産の保全に関する条項など、これまでなかったタイプの条項も出てきている。そうした新たなルールを踏まえて、事業を“ナビゲーション”し、新たなルールメイキングである“クリエーション”にもかかわれること――これらがまさにJAXAの法務担当者の仕事の醍醐味といえそうだ。近年は、民間事業会社の宇宙活動への進出も目立つ。菊地氏は、「それに伴い、我々も進化していかなければならない」と語る。

「新興国の宇宙機関が新たに宇宙開発を始めたり、“ニュースペース”と呼ばれる新興宇宙企業が登場したり、大手企業が宇宙事業に参入したり。そうした新たなパートナーとのプロジェクトや共同研究などが増えてきているため、これまで“宇宙は特殊な世界だから”という理由でなんとなく認められてきた業界特有の慣習について、再検討する必要も出てきています。例えば宇宙業界で一般的に用いられる契約条項(損害賠償請求権の相互放棄に関する条項など)について質問を受けたり、難色を示されることもあります。また、日本国内では2016年に、宇宙活動法と、いわゆる衛星リモートセンシング法の“宇宙二法”が成立しており、様々な観点で法的理解をしていなければ、宇宙活動が実施できないという状況です。さらに、国際的には、法的拘束力のないソフトローも含めてルールづくり・整備の検討が進んでいます。こうした宇宙に関する法的側面をしっかりとらえて対応していける弁護士など法律の専門家の育成、その活躍が期待されています」(菊地氏)

  • 国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)
    法務・コンプライアンス課のメンバーは、事業部の法務担当とも連携しつつ、各プロジェクトを支える。将来の月面基地(イメージ)
  • 国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)
    火星衛星探査計画(MMX)[提供:JAXA]

弁護士としての知見を存分に発揮

弁護士会の宇宙法研究部会にも参加する武藤義行弁護士は、「日本の宇宙開発に法務の面から貢献したい」という思いでJAXAに入職。武藤氏に、弁護士としてのやりがいなどをうかがった。

「社内規程や協定類などの調整を通じ、法律事務所で様々な業種の法務や係争案件に携わってきた経験を、JAXAの新たな取り組みに生かせていると感じます。なかでも、これからの宇宙活動のあり方に関するルールメイキングは、JAXAに特有の仕事です。例えば“どの国のものでもない宇宙空間”における規範の形成、そこに既存の法律をあてはめるとどうなるのかといった論理的な思考作業や、係争案件を中心に取り扱う法律事務所ではなかなか経験できない“前方視的な考え方”が求められることも、大きなやりがいを覚えるポイントですね」

加えて武藤氏は、「宇宙に限らず、社会ではどの分野においても法律を絡めたルールメイキングが重要になってきていると感じます。ルールをつくって動かすダイナミズムや、関係各所との協働の仕方など、どんな分野の仕事に携わっても役立つ知見が得られていると思う」と語る。ちなみに、武藤氏は都内法律事務所に籍を置いて弁護士としても活動をしつつ、JAXAの業務に従事している。

「JAXAでは、職員がその技量を機構外で生かし、多様な経験を機構内の仕事に生かしてほしいという思いで兼業は可としています」と、大久保氏。働き方については、兼業OKのほか、コアタイムなしのフルフレックス制で、フルリモート勤務も導入済。即戦力で入社したメンバーも多く所属し、自由で風通しが良い風土だ。風通しの良さは課内に限らない。法コ課が主催する月に一度の連絡会には理事や各事業部門の担当40名前後が参加し、情報共有と気軽な意見交換を行う。これも、研究開発に寄与するため業務の質を高めようとする法務担当者の志の高さの証だ。

「既存のルールでは解決できない前例のない問題が常にあること、新たなステークホルダーの登場でJAXA自体が変わっていく必要があることを背景に、その課題解決を法律的な側面から掘り下げ、事業に伴走できる組織として、切磋琢磨していきます」(大久保氏)

※取材に際しては撮影時のみマスクを外していただきました。

国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)
法務・コンプライアンス課のオフィスは、東京事務所に置かれる(千代田区神田駿河台・お茶ノ水ソラシティ)