同社ならではの仕事の進め方について、本間氏に聞いた。
「例えば、M&Aにおけるデューディリジェンスは、外部の法律事務所との役割分担を明確にしたうえで、我々自身も徹底的に深掘りします。M&Aチームのメンバーは米国にいますが、知的財産や貿易コンプライアンスなど、案件に応じて様々な部門のメンバーでタスクフォースをつくり、法務全体のプロジェクトとして進めます。知財部門が主体となって、事業部門や法律事務所と直接ディスカッションしつつ、対象会社の知財を分析することも多々。そうすることで、より精緻な投資判断や契約交渉が可能となるだけでなく、各担当部門が対象会社について検討段階から深く理解しているため、買収からPMIまで一気通貫に対応できるメリットがあります」
“ビジネスの現場”との距離は近く、同部が事業部門のトップと直接コミュニケーションを取りつつ事案を進めていくケースも非常に多いという。本間氏が印象に残っている案件について話してくれた。
「欧州でのある重要な契約交渉に際して、日本・米国・欧州にいる事業部門の幹部、私と現地の法務の責任者が一堂に会し、成功に導いたケースがありました。ビジネスサイドと法務の距離の近さだけでなく、誰もが地域や分野の枠にとらわれず、常に主体的に関与しながら物事を解決していきます」
外資系法律事務所から転職してきた田子晃氏は、「社内コミュニケーションの機会、密度の濃さに、おどろきました」と言う。
「法律事務所の弁護士には、法務部などの担当者があらかじめ問題点を“交通整理”したうえで相談にきてくれます。ですから弁護士としての自分は、フィルタリングされた事実関係に基づく相談内容について、法的な見地に従ってアドバイスを行えばよかったわけです。しかし事業会社では、あらゆる相談がダイレクトに、なおかつ“生煮え状態”で持ち込まれます。日々、相談者と喧々諤々議論し、時には法的な観点に限らず案件自体を正しい方向にリードすることも必要になります。しかも、我々のアドバイスによって会社の業績が左右されるのですから、責任感とやりがいが非常に大きい。密度の濃いコミュニケーションを通じて、ビジネスに伴走するという、まさに、インハウスローヤーの仕事の醍醐味を味わっています」
同社の現在までの道のりは平たんではなかった。2010年の3社統合時に統合契約の交渉業務などを担当した橋口幸武氏が、当時を振り返る。
「統合に必要な合併・増資を株主総会の特別決議で承認いただくための株主への説明の準備がとても大変だったのを鮮明に覚えています。それに輪をかけたのが、翌年の東日本大震災です。主力工場の一つが深刻な被害を受け、経営状況が一気に悪化。当時の産業革新機構(現INCJ)などから出資を受けるかたちで再生に取り組んだのですが、これも特別決議に……。再編計画を進めたことなども合わせて、非常に苦労しました」
今年の株主総会では、いち早くバーチャルオンリー方式を導入し、好事例としてメディアにも取り上げられた。「前例がないという理由だけで、やらないという選択はしません。案件を実現するために、法令や実務上の課題があるなら、どうすれば解決できるかを検討します。これも、当社ならではの仕事の進め方かもしれません」と、橋口氏は話す。