Vol.89
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法務部のメンバーは25名(総合職)。また、経営管理部、化学品やライフサイエンスといった事業部門、北米法務・欧州法務などの海外駐在メンバーを合わせた全社の法務部門所管者は42名(同)。法務部に所属する日本法弁護士5名は61~71期で、その全員が司法修習後にインハウスローヤーとして入社している

法務部のメンバーは25名(総合職)。また、経営管理部、化学品やライフサイエンスといった事業部門、北米法務・欧州法務などの海外駐在メンバーを合わせた全社の法務部門所管者は42名(同)。法務部に所属する日本法弁護士5名は61~71期で、その全員が司法修習後にインハウスローヤーとして入社している

THE LEGAL DEPARTMENT

#152

AGC株式会社 法務部

世界トップシェアの製品群と戦略事業への挑戦を、プロアクティブな姿勢で支え続ける

リーガル&ビジネスマインドの両軸で支援

フロート板ガラス、自動車用ガラスなどのグローバルトップシェア企業、AGC株式会社。建築ガラス、オートモーティブ、ディスプレイ、エッセンシャルケミカルズ、セラミックスをコア事業とし、エレクトロニクス、モビリティ、ライフサイエンス、高機能なフッ素関連製品といった戦略事業との“両輪”で市況変動に強い事業ポートフォリオを構築。日本とアジア、欧州、米州の“3極体制”をベースに30を超える国・地域でグローバル事業を展開する。こうした事業展開を支える同社法務部の体制について、法務部長の松山雅幸氏にうかがった。

「法務部は、①グローバル法務・企画、②コーポレート、③コンプライアンス、④事業支援の4つのグループで構成しています。①は訴訟管理、教育、部門内調整、顧問弁護士や社外団体の対応、②は株主総会・取締役会などの商事法務と、コーポレート周りの法律相談や契約書チェック、③は法令遵守や安全保障貿易管理統括、④は、事業部門の法務案件(契約書チェック、訴訟対応、債権回収、M&Aなどのプロジェクト)を担当しています。このほか一部の事業部門の中に法務担当を置き、海外の北米、欧州、中国の法務チームには、法務部から語学堪能なメンバーを駐在させて連携を深めています。なお、部内4つのグループの中では、③と④が大きな組織となっています」

同部では3年を目安にグループ間でメンバーローテーションを行っており、各自が幅広い法務の知見とビジネスへの理解を深めることができている。そのようにして「法務メンバーが“経営参謀”となり、経営・事業を支えていくことが我々のミッション」と、松山氏は言う。

「ミッション達成のためのキーワードは“コーポレートガーディアン”“ビジネスパートナー”“人財育成”の3つです。特に人財育成については、法律・事業の十分な知識、分析力、バランス感覚に優れた人財を法務部内で育成し、事業部をはじめとする他部署へ輩出していくことを経営層から期待されています。実際、グループ中国総代表や子会社社長など事業の中枢となるポジションに法務部出身者がいますし、人事部長、監査部長も法務部出身者です」

AGC株式会社
本社は東京駅正面に建つ新丸の内ビルディングを5フロア使用。写真は、34階のラウンジ。仕事の合間などに休憩したり、一人で集中して作業したい時に多くの社員が利用している

プロジェクトの早期段階から法務が関与

同部ではどのような業務に携わるのか、松山氏にうかがった。

「ウクライナ情勢に伴う対応が一例です。結論からいえば、2024年2月に建築用ガラスなどの製造・販売を行う2社の事業譲渡を完了し、当社はロシア事業から撤退しました。欧州、米州、日本それぞれの経済制裁が日々強化される状況下で、その対応を法務がリードしました。まず欧州・ロシア間のガラス製品の融通ができなくなりました。輸出は即時止めることができたのですが、次にサービス停止が課され、グループ内のネットワークも対象となったことから、その対応には相当苦労しました。ロシア事業の親会社はベルギーにあったので、欧州当局とも緻密にコミュニケーションを重ね、最終的にはマネジメントを親会社と切り離し、事業売却まで行ったという事案です。リスクが高く、かつ秘匿性の高い案件でしたので、私と欧州法務部長、ロシアの法務部長の3名、および各国当局とも話のできる専門性の高い法律事務所を起用し、かなり絞り込んだメンバーで緊密に連携しながら進めました」

事業譲渡については、“欧米・日本の制裁に抵触しないよう最大限の注意を払いつつ、ロシア政府の許可も得る”という、「綱渡り状態だった」と、振り返る松山氏。

「例えば、譲渡準備のための資産整理を実施直前の制裁強化で見直さざるを得なくなったこともあります。日々、状況が変わり、時間的にもタイトななか、様々な対応を迫られましたが、ロシア、欧州、日本の各法務部隊と、各国の外部法律事務所、“二人三脚ならぬ六人七脚”で乗り切ったことは得がたい経験です」

経営に直結する不測の事態、地政学リスクを乗り越えてロシア事業譲渡を完了したことで、経営サイドにおける法務部のプレゼンスは一段と高まっている。一方で、事業部から法務の信頼も厚く、各事業部のプロジェクト案件の早期段階から法務のメンバーがかかわる機会も増えている。

「M&Aなどの際にはプロジェクトチームを組成しますが、法務のメンバーは必ずそのチームに参加しています。法務から呼びかけてプロジェクトチームを発足させるケースも多いです。M&Aなら、『機密保持契約を結びたい』という相談がまず来ますので、目的やスケジュールなどヒアリングして、チーム結成を我々から提案するといった感じです。工場建設では、エンジニアリングや生産技術関係のメンバーが中心になりますが、最近は土地の買収段階から、環境リスクや現地規制なども考慮しなくてはなりません。そこで、法務に相談が届いた際に、『工場の建設場所選定から、プロジェクトチームをつくって進めませんか』と、提案するケースもありました」

こうしたプロアクティブな行動をメンバー各自の判断で行えることも同部の特徴といえるだろう。

AGC株式会社
コロナ禍を経て、在宅勤務制度が浸透した。現在は、法務部では平均して週2~3回程度の出社となっている。新入社員については、グループリーダーなどが指導にあたるため出社が必須。「やはり対面での指導・教育のほうが、新入社員にとっては理解度が高いようです」(松山氏)

“多様な人財”が活躍できる組織に

グローバル・メーカーとして、独占禁止法・競争法、コンプライアンス遵守の観点から安全保障貿易管理などに関する部内外の教育も重要だ。「加えて、近年はビジネスと人権、ESG/サステナビリティ課題に関する相談、新たな法令に関する質問も増え、その教育の重要性も増している」と、松山氏。そうした知見の習得については、同社独自の「CNA(Cross-divisional Network Activity:部門横断的ネットワーク活動)」という制度が効力を発揮。

「『CNA』は、一定の専門スキルを持つメンバーが集まり、勉強会や情報交換を行うためのプラットフォームです。我々は『法務スキル』を立ち上げ、外部から弁護士を招いた講習会を行うなど、様々な勉強会を開催しています。これ以外にも随時、英文契約を含む契約書に関する勉強会などを若手メンバーが中心となって企画・開催しています」

また、法務部には海外ロースクールへの留学制度もある。

「これまでに延べ18名を留学させています。可能な限り継続的に留学させたいと思っています。なお、法務部の留学制度ではなく当社全体の留学制度を活用して、MBAを取得したメンバーもいるなど、留学に関しても選択肢が豊富だと思います」

松山氏に、法務部をこれからどのように運営していきたいか、うかがった。

「テーマは2つあります。1つ目は“人財ダイバーシティ&インクルージョン”です。多種多様な人財が活躍し、成長できる組織を目指していきたいと思います。当部では女性管理職がすでに約半数を占めているので、今後は、海外・他業務・他社経験者の割合をもっと増やしていきたいと考えています。理系人財や日本語ネイティブではない人財も増員し、グローバナイズされた感性を持つ人財が集まる部署にしていきたいです。そうした法学部・法務を出自としないメンバーも公平に活躍・成長できるよう、従来の法務部にはなかったキャリアパスを創ることも、部長としての私の責務と思います。2つ目は、やはりDXの浸透です。業務効率化によって法務部メンバーの時間を確保し、全員がより高度な法務アドバイスができる――そうして、社内から一層頼られる組織にしていきたいと思います」

  • AGC株式会社
    戦略事業、ライフサイエンス事業の拠点の一つAGC Biologics社のイタリア・ミラノ拠点。遺伝子・細胞治療向けCDMOサービスを提供(写真提供/AGC株式会社)
  • AGC株式会社
    サッカーや各種イベントを開催する施設であるドイツのアリアンツ・アリーナ外観。同施設の外壁に、同社パフォーマンスケミカル事業のフィルム(世界ナンバーワンシェアのETFE樹脂=フッ素樹脂)が使用されている(写真提供/AGC株式会社)