同部ではどのような業務に携わるのか、松山氏にうかがった。
「ウクライナ情勢に伴う対応が一例です。結論からいえば、2024年2月に建築用ガラスなどの製造・販売を行う2社の事業譲渡を完了し、当社はロシア事業から撤退しました。欧州、米州、日本それぞれの経済制裁が日々強化される状況下で、その対応を法務がリードしました。まず欧州・ロシア間のガラス製品の融通ができなくなりました。輸出は即時止めることができたのですが、次にサービス停止が課され、グループ内のネットワークも対象となったことから、その対応には相当苦労しました。ロシア事業の親会社はベルギーにあったので、欧州当局とも緻密にコミュニケーションを重ね、最終的にはマネジメントを親会社と切り離し、事業売却まで行ったという事案です。リスクが高く、かつ秘匿性の高い案件でしたので、私と欧州法務部長、ロシアの法務部長の3名、および各国当局とも話のできる専門性の高い法律事務所を起用し、かなり絞り込んだメンバーで緊密に連携しながら進めました」
事業譲渡については、“欧米・日本の制裁に抵触しないよう最大限の注意を払いつつ、ロシア政府の許可も得る”という、「綱渡り状態だった」と、振り返る松山氏。
「例えば、譲渡準備のための資産整理を実施直前の制裁強化で見直さざるを得なくなったこともあります。日々、状況が変わり、時間的にもタイトななか、様々な対応を迫られましたが、ロシア、欧州、日本の各法務部隊と、各国の外部法律事務所、“二人三脚ならぬ六人七脚”で乗り切ったことは得がたい経験です」
経営に直結する不測の事態、地政学リスクを乗り越えてロシア事業譲渡を完了したことで、経営サイドにおける法務部のプレゼンスは一段と高まっている。一方で、事業部から法務の信頼も厚く、各事業部のプロジェクト案件の早期段階から法務のメンバーがかかわる機会も増えている。
「M&Aなどの際にはプロジェクトチームを組成しますが、法務のメンバーは必ずそのチームに参加しています。法務から呼びかけてプロジェクトチームを発足させるケースも多いです。M&Aなら、『機密保持契約を結びたい』という相談がまず来ますので、目的やスケジュールなどヒアリングして、チーム結成を我々から提案するといった感じです。工場建設では、エンジニアリングや生産技術関係のメンバーが中心になりますが、最近は土地の買収段階から、環境リスクや現地規制なども考慮しなくてはなりません。そこで、法務に相談が届いた際に、『工場の建設場所選定から、プロジェクトチームをつくって進めませんか』と、提案するケースもありました」
こうしたプロアクティブな行動をメンバー各自の判断で行えることも同部の特徴といえるだろう。