Vol.90
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統括部長の中村氏を含めて、16名の陣容(コンプライアンスチーム4名、法務チーム11名で構成)。法律事務所や他社法務部からの中途入社は6名。なお、女性メンバーは5名で、うち3名が育児休職中

統括部長の中村氏を含めて、16名の陣容(コンプライアンスチーム4名、法務チーム11名で構成)。法律事務所や他社法務部からの中途入社は6名。なお、女性メンバーは5名で、うち3名が育児休職中

THE LEGAL DEPARTMENT

#156

東急株式会社 コンプライアンス・リスクマネジメント委員会(法務チーム)

“次の100年”の変革と成長を支える全社の戦略的サポート体制構築が使命

事業成長の”質”を高めることが使命

第二次世界大戦後、東京圏の住宅不足と生活環境の改善という社会課題に対し、鉄道・バスなどの公共交通整備と不動産開発をルーツとし、東急線沿線を基盤とした”まちづくり”を推進してきた東急株式会社。2019年に東京急行電鉄株式会社から商号変更し、事業持株会社として連結子会社を含む東急(株)グループ全体の開発機能や資産ポートフォリオマネジメント機能などを担う。そんな同社の法務機能を担当するのが、「コンプライアンス・リスクマネジメント委員会」だ。コロナ禍や、DX推進に伴う事業・組織変革への対応、社会的要請などを背景に、コンプライアンスとリスク管理を戦略的優先事項として、24年4月の組織再編により、社長直轄の独立組織とした。そのミッションを、統括部長の中村恒次氏にうかがった。

「事業部とともに”攻め”つつ、法的側面から”守り”を固め、健全かつ持続的な成長を目指し、”成長の質”を高めていくことが、私たちの責務です。例えば人命にかかわるリスクは必ず摘み取っておかねばなりませんが、一方で変化の早い今の社会環境では、ある程度リスクを取らなければ事業を加速できません。その判断を適切に行い、各事業に伴走し、法的にサポートしています」

同社の主な事業は「交通」「不動産」「生活サービス(百貨店・スーパーなど)」「ホテル・リゾート」の4領域。これら事業部のほか、経営企画室などの一般管理部署を加えた50を超える部署からの法務相談、新規事業スキーム構築対応、契約審査、稟議承認、社内啓発活動などを、法務チームが担う。加藤広和氏は言う。

「当社グループは、まちづくりの必需インフラたる鉄軌道事業を中核としつつ、その他の不動産、生活サービス、ホテル・リゾートなどの収益割合が高く、”総合生活サービス事業者”としてのハード・ソフトの統合的アプローチが特色であり、強みと考えております。特にソフト面の事業範囲は幅広く、例えば病院や保育園事業に関する契約業務などもあって、扱う契約類型は多岐にわたります。法務チームのメンバーは、多様な領域で法的知見を高めることができます」

  • 東急株式会社
    官民連携プロジェクト「南町田グランベリーパーク」。世界的な環境認証制度での受賞歴がある(提供:東急)
  • 東急株式会社
    交通事業では安全性、使用電力の低減、輸送力の増強などを目指した2020系が田園都市線に導入された(提供:東急電鉄)

裁量を持って仕事に臨める

法務チームは基本的に、”事業部担当制”。とはいえ11名の少人数なので、各メンバーは複数の部署を担当している。手塚永伍氏は、手がけた仕事について、こう話す。

「私は、土地建物の売買に関する取引などを行う不動産開発事業部門と、システム開発などを行うデジタルプラットフォーム事業部門を担当しています。相談を受けた一例としては、共通のIDを活用して、当社の連結グループ各社を対象とした事業横断のデジタル共通基盤を構築するプロジェクトを担当しました。個人情報保護法の観点から、共通利用に関する規約を整備することが課題でした。デジタルプラットフォーム事業部門のメンバーとともに実際の運用を想定し、法的側面からの検討、課題の洗い出しや解決策の提案などを行う、重要な案件でした」
 
23年9月に他社法務部を経て入社した手塚氏は、「当社の多様な事業に関連する法分野をキャッチアップするのは大変だが、幅広く法的知識の拡充やアップデートができることは当社法務の魅力の一つ」と、振り返る。

「法務チームのカルチャーを表すキーワードは、”自由”と”裁量”だと思います。入社早々、大きなプロジェクトに携われ、日頃の相談対応や契約審査などは一定のルール内で任せてもらえます。また、全社で私のような中途入社者が増えているせいか、法務チームに限らず意見が述べやすく、風通しの良い環境だと感じます」(手塚氏)

同社では近年、コロナ禍を乗り越えて、東急新横浜線、東急歌舞伎町タワー、渋谷駅周辺開発の一つ、渋谷アクシュの開業などの重点施策を実現。長﨑正典氏に、同社事業の中心である不動産開発の案件についてうかがった。

「渋谷駅周辺で見られるような”都市開発の最前線”に携われることも、魅力の一つだと思います。地権者の方々と利害調整をしながら何十年という時間をかけて、皆さんに喜んでいただける不動産活用・まちづくり戦略を推進しています。例えば渋谷ストリームや、新しいところでは渋谷アクシュなど、法務として手がけた仕事が目の前でかたちになっていくことは、この仕事の醍醐味です。また、ベトナム、タイ、オーストラリアなど海外においても、当社のノウハウを生かした都市開発が進行中です。法務チームは、国際事業部、および外部法律事務所と連携しながら、そのような海外案件にも対応しています」

担当制による知識の属人化を防ぐ試み

社会環境が変化するなか、DX/ITなど新領域での事業立ち上げを含め、様々な”変革”を試み、事業を前進させている同社。「私たち法務に大切なのは、なによりも事業理解(ビジネス理解)です。事業部のメンバーと議論して意図をくみ取り、なおかつ法的に健全な状態でともにプロジェクトを進めていく――難しいけれどここにやりがいがある。事業と法的側面のバランスをしっかり取っていくために、私たちには”事業ごとのリスク”を抽出できる能力が求められている」と話す、手塚氏。

法務チームでは、メンバーの人事異動などの発生に合わせて、年1、2回のペースで担当部署をローテーションする。各自の業務量などに偏りを生じさせないために行っているものだ。

「特定の事業に特化して対応できるメンバーを育成する必要はあるものの、そこで培われたナレッジが属人化してはいけないと考えます。その対策として、長﨑を中心に”法務相談システム”を構築しているところです」(加藤氏)

法務相談システムは、法務相談を一元化して効率的に管理するための新システムだ。法務チームや他部署が、過去の相談内容や決定事項にアクセスできる”知識リポジトリ”としての機能も持つ。

「これまでは法務相談をメールでやりとりしていましたが、コミュニケーションロスや全体の進捗管理が見えないといった課題もありました。法務ナレッジをデータベース化することで、チーム内はもちろんですが、全社のリーガルリテラシー向上につながればと考えています」(長﨑氏)

現チームメンバーの出社は週1、2回でリモートワークが主体。そのため法務相談のDX化に加え、デジタルライブラリーなどのリーガルテック導入も検討中。法務チームも、まさに業務の進め方や運営面の”変革”に挑戦している。

中村氏は法務チームの”目指すべき姿”について、こう話す。

「当社は創業100年を超え、次の100年に向けた新たな価値創出のために”挑戦し続けること”を掲げています。これまでは鉄道と不動産を軸に、付加価値となる生活サービスやリテールを組み合わせて利益を創出する”リアル接点”中心のビジネスモデルでしたが、今後はそこにデジタルプラットフォームを組み合わせ、人々の潜在的なニーズを可視化しながら、お客さまとの”新たな接点”を拡大していくことになります。リアルとデジタルを融合させた、従来の法的知見では対応できない新規事業も多く立ち上がると思います。繰り返しになりますが、そうした当社のあらゆる挑戦について、”攻めと守り”の両面で伴走していくことを強く意識できるメンバー、それら事業の実現を推進していけるメンバーで構成されたチームでありたいと考えます」

東急株式会社
会計年度末などの繁忙期には、稟議の承認だけでも、1日100件以上を実行している。「事業領域も広いので、法務人材を増やしていきたい」と加藤氏