法務部内は、研究、開発、信頼性保証、製造、販売・マーケティングなど、製品のライフサイクルの工程軸であるバリューチェーンの機能ごとに担当分けされている。佐々木佳奈依氏に、具体的な仕事内容をうかがった。
「印象深かったのは、医療用医薬品候補の導出(他社へのライセンス供与)案件です。当社の研究所で創薬した開発候補品を、研究開発に強みを持つ他社に導出し、早期実用化を目指すプロジェクトでした。事業開発部門が選定した提携先とのライセンス契約において、条件整理や交渉、契約文書のチェックなどを担当しました。さらに、提携先への開発資金の一部出資のため、投資契約にも関与。知的財産や開発義務の明確化、将来的な収益配分など、法的リスクを最小化する契約条件を整えました」
提携先は、本製品開発のために新たに設立された特別目的会社(SPC)。将来的な販売継続を前提とする従来型のライセンス契約とは異なり、提携先はエグジット(事業売却)も見据えた投資的要素が強い契約であった。
「私自身は、それまで導出先自身が製品の販売を想定した案件の対応経験しかなく、提携先が考えるゴールと弊社のゴール、双方の利益となる最善の落としどころを探り、持続可能な条件を構築していくことは難題でした。また、短期間での合意締結が必須で、なおかつ複数部署や関係会社との調整を並行して進める必要もありました。研究、事業開発、知財、経理など、多岐にわたる部署と連携し、相手方ともスピーディーに条件を詰めていく過程はとてもチャレンジングで、期限内に契約をまとめ上げられた時は、大きな達成感を得ることができました」(佐々木氏)
グループリーダーの梅本恵太氏は、「佐々木にとって初めての外部企業とのライセンス契約でしたが、初めてとは思えないほど安心して任せられました。本件は海外と日本、2つの法律事務所を併用する変則的な体制で、事務所間の調整や想定外の対応も必要でしたが、期限内に着実にまとめ上げてくれました。案件としても良い成果を収め、本人にとって大きな成長の糧になったと思います」と、語る。
「担当した当初はやや受け身で、周囲のサポートや指示を待ってしまうこともありました。しかし、社内の関係各所とのやり取りが非常に多く、期限も限られていたため、『レスポンスを待っていては進まない』とすぐに気づき、それからは主体的かつ積極的に行動しました。この経験は、自分の仕事のスタンスを大きく変えるきっかけになったと思います」(佐々木氏)
佐々木氏は司法修習を経て、新卒として同社に入社した。入社動機について、次のように語る。
「インハウスローヤーを選んだのは、企業の一員として、そしてビジネスの当事者としてプロジェクトの入り口から出口まで携わりたいと思ったからです。数ある企業のなかで当社を選んだきっかけの一つに、『いつもを、いつまでも。』というコミュニケーション・スローガンがあります。これは、創薬を通じて病気を治すだけではなく、すべての生活者のかけがえのない〝いつも〟が続く力となり、支え続ける――という企業からのメッセージです。弁護士として『人を助けたい』という思いが強かった私にとって、このスローガンに込められた思いは、自分の目指す姿と重なりました」