田中氏と三好氏は、それぞれ銀行の法務部出身。入社は同社開業の翌年で、法務課の立ち上げメンバーでもある。法務課長の作田俊広氏は、「開業間もない当社に『何か新しいことができそう』というワクワク感を持って飛び込んできてくれた二人です。ビジネス部門を兼務してもらったのは、その思いに応えたいという気持ちもありました」と振り返る。実際に、どのような案件に携わってきたのか。田中氏は入社直後から「即時口座決済サービス」の導入に尽力。
「当社が事業を承継したローソンのグループ会社が、コンビニATMをローソン各店に設置していたのですが、銀行営業免許を取得したことにより、当社独自の金融サービスを展開できるようになりました。そこで、コンビニATMの仕組みをキャッシュレス決済などデジタル領域に生かせないかと考え、即時口座決済サービスに関するプロジェクトが立ち上がりました。これは銀行口座から決済アプリや電子マネーにチャージができるものですが、その裏側の仕組みづくりを当社が担っています。私もプロジェクト初期からかかわり、課題の洗い出し・整理、法令上問題となるのはどのような点かなどを検討し、システム構成や運用についても担当部門のメンバーと一緒に考えました。契約書や利用規約などは、外部法律事務所の協力を得つつ、一から作成しました」
同サービスはコンビニATMの仕組みを使うため、提携する複数の銀行、チャージ先の様々なペイメント事業者との連携も必要だ。
「新しいサービスですから、契約内容はもとより、法的スキームをしっかり説明しなければ、提携先・連携先の納得も安心感も得られません。そこで、ビジネス部門のメンバーと提携先の地方銀行を訪問したりオンライン会議に同席したりして、その場で説明させていただくという機会もありました。まさにビジネス部門やシステム部門と一体で取り組んだ事例です」
三好氏が取り組んだのは、電子マネーにチャージができるアプリ「Suitto(スイット)」のプロジェクト。即時口座決済サービスは、利用者と銀行とペイメント事業者をつなぐサービスで、スイットは利用者のためのフロントアプリという位置づけだ。
「スイット立ち上げにあたり、もちろん法務としての関与はしましたが、兼務先での業務が自分にとって非常に面白かったです。例えば、どのようなUI/UXにするかなどの社内の意見をとりまとめたり、デザイン会社との調整を行ったり。法律がまったく絡まない業務に携わったことで、逆に、その経験が法務業務に生きてくるという実感があります。例えば、ビジネスを進めていくうえでの社内調整の難しさ、ビジネス部門から法務がどう捉えられているか、法務や法務情報へのアクセスの不便さなど、外から見なければわからなかったことが多々ありました。そのおかげで、法務課の改善点を見いだすことができています」
三好氏はこうした経験をもとに、法務課の業務の効率化を検討中だ。
「業務を定型・非定型で分類したうえで、私たちは極力、非定型かつリスクの高い業務に注力できるよう工夫していきたい。電子契約やリーガルテックの導入も積極的に行っています」と、三好氏。
「また、私たちは知的財産関連の業務も行っています。例にあげたプロジェクトの関連でいえば、私は即時口座決済サービスの裏側の仕組みの特許出願、三好はアプリデザインの意匠出願やマスコットキャラクターの商標出願などです。一般的な銀行の法務業務ではあまり経験できない法分野に関与していけることも、当社法務の特徴だと思います」(田中氏)