Vol.86
HOME法務最前線株式会社日本取引所グループ(JPX)
  • ▼弁護士のブランディング支援サービス

    Business Lawyer's Marketing Service
  • ▼弁護士向け求人検索サービス

    想いを仕事にかえていく 弁護士転職.JP
  • ▼弁護士のキャリア形成支援サービス

    弁護士キャリアコンシェルジュ
  • 当社サービス・ビジネス全般に関するお問い合わせ

総務部法務グループは、弁護士を含む総合職6名と事務スタッフ1名、計7名の陣容。なお中嶋氏は、裁判所事務官と書記官を経験後、司法試験に合格し、インハウスローヤーに転向。「企業法務領域で、様々な経験を積み、知見を高めたい」と考えて同社に転職した

総務部法務グループは、弁護士を含む総合職6名と事務スタッフ1名、計7名の陣容。なお中嶋氏は、裁判所事務官と書記官を経験後、司法試験に合格し、インハウスローヤーに転向。「企業法務領域で、様々な経験を積み、知見を高めたい」と考えて同社に転職した

THE LEGAL DEPARTMENT

#142

株式会社日本取引所グループ(JPX) 総務部法務グループ

我が国の証券市場の根幹を支え、日本の上場企業の競争力強化に寄与

ルールメイキングの面白さを実感

東京証券取引所、大阪取引所、東京商品取引所などを運営する株式会社日本取引所グループ(JPX)。清算機関である日本証券クリアリング機構や、金融商品市場に関連するデータ・インデックスサービス、ならびにシステム関連サービスを提供するJPX総研といった子会社も傘下に持つ。2013年、当時の東京証券取引所グループと大阪証券取引所の経営統合により「JPX」が発足して以降、海外取引所とのグローバル競争が拡大するなか、取引所としての付加価値向上を目指し、様々な取り組みを進めてきた。

最近では、国内外の投資家と日本企業の橋渡し役になるため、それに必要なファンクションを持つ企業への出資、M&Aも積極的に推進している。その最前線で活躍するのが、同社総務部法務グループのメンバーだ。現在、法務グループに所属するスタッフは7名。なお、同社には、外国法弁護士資格保有者を含め10名以上の弁護士が所属している。

同社の法務業務について、法務グループの課長・塚﨑由寛氏は、「様々な契約内容の確認のほか、紛争対応、特許・商標などの知的財産関係、コンプライアンスに関する社内研修や啓蒙活動、内部通報制度の運営なども担当します」と、説明する。しかし、「それらに加えて取引所運営の根幹となる重要なミッションがある」と、塚﨑氏。

「それが、取引所業務に関する規則の改正作業です。『日本取引所グループ規則集』には、東京証券取引所、大阪取引所、東京商品取引所、日本取引所自主規制法人の定款等諸規則、日本証券クリアリング機構の清算業務に関するルールが収録されていますが、これらの規則に基づいて、日々の取引所業務の運営が行われますし、この規則が適切に整備されているからこそ、誰もが安心して参加できる“マーケット”を維持することができます。例えば売買制度を所管する株式部や上場制度を所管する上場部など、各部署で制度の見直しに伴い、規則の変更が必要となる時に改正作業が行われるわけですが、何をどのように改正するのか、その改正案が固まった段階で、我々法務グループが最終的にチェックし、ゴーサインを出します。社内の関係部署と連携をしながら新たな規則をつくり上げていく作業は、“公正で効率的な日本の資本市場の運営を規則面から支える”という、非常に重要な仕事です」

法務グループに所属する中嶋洋一氏も、取引所規則の改正作業にやりがいを見出す一人だ。

「この規則に基づいて取引所は動いています。事業運営の根幹であり、市場にかかわる社内外の方々にとって大きな影響をおよぼす規則改正の作業に携われることは、誇らしいことです。また、規則の改正作業はチームプレイが基本なので、組織ならではの連帯感が味わえることも醍醐味。何よりも、そのようにして新しい規則が生まれ、世に送り出せた時の達成感は、何物にも代えがたいのです」

JPXは、株式等有価証券の売買、デリバティブ商品の取引を行うための市場施設の提供、相場の公表、売買などの公正性の確保に係る業務などを行う。写真上が、『日本取引所グループ規則集』

新規ビジネスへの挑戦に意欲

現在、伝統的な取引所運営という枠組みにとらわれない“新たな取引所ビジネス”の拡大に取り組んでいる。

「取引所は規制業種ですから、何でも自由に取り組めるわけではありません。あくまでも取引所の関連業務の範囲内にとどまります。しかしそれでも、当社が挑戦するビジネスの範囲は急速に拡大しつつあります。『Exchange & beyond』というスローガンのもと、規制の範囲内でどんな新たな挑戦ができるかを模索していますが、いくつかの新規事業のなかには、自社のリソースで可能なビジネスもあれば、すぐには実現困難なものもあります。自社で不可能な場合はM&Aを行い、他社のリソースを活用するといったケースも出てきています」(塚﨑氏)

具体的に、どのような企業に対してM&Aを行っているのだろうか。塚﨑氏にうかがった。

「“取引所の本質とは何か”を考えた時、我々が一番大事にするべきは、“上場企業と投資家をつなぐこと”と認識しています。成長するための資金を調達したい上場企業と、手元にある余裕資金を運用したいと考えている投資家をつなぐ。その環境を整備することによって、上場企業も、投資家も、そして取引所も大きくなれば、国の経済成長にも大きく貢献できます。現在、その循環をさらに拡大するためにベンチャー企業などへの出資を行っています。例えば、上場企業と投資家の対話の場を提供する企業への出資、日本の上場企業が実施したIRイベントの内容を、即座に英訳して配信するシステムを提供している企業の100%子会社化などです」

このように、日本取引所グループは、単なる取引所から“新しい資本市場のサービスプロバイダー”へ転換を図ろうとしている。ゆえにM&Aニーズがどんどん高まっているわけだ。とはいえ、日本取引所グループがM&Aに積極的なスタンスに転じてからの歴史はまだ浅い。今はM&Aに関する知見の蓄積を行っている段階だ。

弁護士ならではの活躍の機会が豊富

法務グループの守備範囲は非常に広い。取引所の信頼性を維持するために、取引所規則の改正作業をこなしつつ、取引所の未来を切り開いていくために、様々な事業領域で、M&Aなどの新規プロジェクトの下支えも行う。もちろんそれだけではない。日本取引所グループ自体が上場企業であるため、取締役会や株主総会の運営を適法に行うための法的サポートのほか、上場会社や取引参加者などによる、取引所規則違反が生じた場合の対応も重要な責務となる。

取引所の規則は、法令などのハード・ローに対しソフト・ローと呼ばれることがあり、その特徴として機動性や柔軟性が指摘されるところであるが、それに反した時は取引所が定める処分を下すこともあるし、処分の内容についてはその妥当性も十分に検討しなければならず、説明責任も求められる。

「カバーする仕事の範囲の広さにもかかわらず、法務グループは事務スタッフを除くとわずか6名で、これらの業務にあたっています。したがって、一人ひとりに与えられている裁量が非常に大きい。これも特徴といえますね。契約審査や新規プロジェクトの検討等においてもそうですが、特にM&Aに携わる場合は、財務も知らなければなりませんし、知的財産権に関する知識なども求められます。インハウスローヤーとして、関連規制はもとより、幅広い法分野に関して、常にアンテナを高くしておく姿勢が求められます」(中嶋氏)。

塚﨑氏は、言う。

「金融商品取引法をはじめ、関連する法律の知識は、もちろん必要。しかし、それ以上に大切なのは、コミュニケーションスキルです。我々の部署は、ほかの部署で取引所規則の改正案件が生じた時や、何らかのトラブルが発生した時、関係部署とコミュニケーションを取りながら、協働することが求められます。また、若手にも経営陣に対して法務面からのアドバイスを行う場面が多々ありますので、“自分の発言に説得力を持たせる修練・工夫”をすることが非常に重要なのです。様々な課題に同じ目線で取り組むためには関係者間の納得や共感は大切。我々はそのための潤滑油的な存在ですから、説得力も含めたコミュニケーションスキルが必要不可欠ですし、その積み重ねによって信頼を得ていくことが大切というわけです。我々の仕事は、“正解のない仕事”だと思っています。そのなかでいかに合理的な着地点を見つけ出すか。常に一歩先の気づきを提案できる人材が揃っている――そういう組織にしていきたいと思います」(塚﨑氏)

ちなみに他部署も含めて弁護士は、同社でどのような活躍をしているのか、塚﨑氏に聞いてみた。

「そもそも各部署では、日常的に制度改正に絡んだ検討が行われているので、法律や規則への高い知見や耐性を持つ弁護士は重宝されています。弁護士については、各部署において、“企画担当”というかたちで活躍しているケースが多いですね。当社では、弁護士も一般の社員と同様に人事異動がありますので、法務グループという枠にとどまらず、より制度運営の現場に近い各部署での企画担当など、様々な経験を積むことが可能です。なお当社では、リーガルマインドの醸成や見識を広げる目的で、様々な留学制度も用意されています。国内外の大学院で学び、MBAや弁護士の資格を取得するなど、それぞれのキャリアプランを描きつつ、業務に励んでいます。取引所は自身の定める規則に則ってその業務を行う組織ですし、グローバル化のなかで大きな変革も求められています。それだけに、弁護士が活躍できる場は無限です」

同社では、若手であっても経営陣にアドバイスをする機会が多々ある。なお「“一上場企業”として他社の見本にもなるように」と、労働環境整備や福利厚生などの各種制度の充実に力を入れている