Vol.79
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コンプライアンス統括部は100名強の陣容。弁護士有資格者は、法務部、営業企画部、保険金部(保険金の支払い査定)などに在籍する

コンプライアンス統括部は100名強の陣容。弁護士有資格者は、法務部、営業企画部、保険金部(保険金の支払い査定)などに在籍する

THE LEGAL DEPARTMENT

#118

明治安田生命保険相互会社 コンプライアンス統括部

コンプライアンス態勢の強化と高度化の推進役として、国内外グループ全体を統括

国内外グループ全体の統括を担当

2021年4月より、「10年後にめざす姿」の実現に向けて3カ年プログラム「My Mutual Way Ⅰ期」に取り組む、明治安田生命保険相互会社。営業・サービス、基幹機能・事務、資産運用、相互会社経営運営における制度やインフラの見直しを、DX戦略と融合させつつ、意欲的に進めている。保険会社は保険業法上の免許に基づき事業を行うため、当該法律の遵守が必要となるが、加えて、各種ステークホルダーから、社会規範を踏まえた経営判断や業務運営を求められる。社会規範とは、社会生活を営むうえで守るべき倫理・常識・慣習であり、時に“法律の行間”を読んで判断しなくてはならない。コンプライアンスは、そうした社会規範にしたがった経営判断の要といえる。そこで、コンプライアンス統括部長・片山圭子氏に、現在のコンプライアンス態勢や、取り組みなどについてうかがった。

「当社のコンプライアンス統括部は総勢100名強の組織です。21年4月、既存のコンプライアンス統括、コンプライアンス推進、金融犯罪対策、募集資料審査という各グループと業務品質調査担当に加えて、全国の支社や営業所などの内部統制状況を調査(聴取)する業務検査室が統合されて現体制となりました。当部の業務は法・規制を確認のうえ実務検証を行うことが頻繁にあるので、法務知識や法務経験は非常に有用です。また当部に所属していた職員には、法務部や海外事業部門をはじめ、様々な部署で、その知識・経験を生かしてキャリアを積んでいる方が数多くいます」

コンプライアンス統括部が、企画部から独立して創設されたのは05年。不適切な保険金等の不払いによる行政処分を受けた年だ。

「生命保険事業の使命を今一度自覚し、ガバナンスの抜本的な改革を行い、新たな出直しを図るべく創設されました。私たちはご契約者さまに信頼いただけるよう、従業員一人ひとりが高い倫理観を持った行動をしなければなりません。そのために、グループコンプライアンス態勢をしっかりと構築・整備・推進する。そして、そのプロセスと結果を経営に報告・提言することが私たちの役目です」

具体的に、コンプライアンス統括部はどのような態勢構築、整備、推進を行っているのか。

「本社各部や1000を超える国内営業拠点に法令遵守責任者を設置しています。法令遵守責任者は、コンプライアンス統括部との連携を図り、所属内におけるコンプライアンス意識の高揚に努めるとともにコンプライアンスを推進しています。グループ会社に対しては、当部は、担当執行役員兼CCO(チーフ・コンプライアンス・オフィサー)の指示のもと、各社へのモニタリングを行っています」

特に経営戦略上重要と位置付ける子会社である米国スタンコープ社と明治安田損害保険株式会社については、年2回、グループコンプライアンス会議を開催し、相互コミュニケーションを深める。

「当部はいわゆる“2線”の役割を担っており、内部通報、お客さまの声(苦情情報)、本社各部からの報告など、様々な切り口でコンプライアンスに関する情報を収集しています。そのうえで、モニタリングチェックのフレームワークやコンプライアンス教育を当部が管轄していますが、実態としては、各事業の現場と“一緒に取り組む”というケースも多いですね。集まってくる情報量は膨大。様々な情報をキャッチ次第、業務品質調査担当が調査の必要性の有無を判断するなど、スピーディかつ正確な判断を心がけています」

  • 明治安田生命保険相互会社
    国の重要文化財に指定される「明治生命館」
  • 明治安田生命保険相互会社
    本社は東京・丸の内。同社は明治生命と安田生命が2004年に合併して誕生した。21年7月、永島英器氏が新社長に就任。サステナビリティ経営推進担当の新設など、社会課題解決の取り組みが強化されている

社会と呼応した取り組みを

企業ビジョン「信頼を得て選ばれ続ける、人に一番やさしい生命保険会社」を掲げる同社は、従業員の一人ひとりに、「お客さまとの絆、地域社会との絆、働く仲間との絆を大切に」する行動を求める。片山氏に、その実現のために注力する取り組みをうかがった。

「人生100年時代といわれる今、高齢者の生命保険加入ニーズが高まっています。高齢のお客さまに対し、金融庁の『保険会社向けの総合的な監督指針』などに基づいて商品をお勧めすることはもちろんですが、単なる法・規制の遵守では解消できない課題もあります。例えばご加入後、ご本人の認知機能の衰えなどにより、ご家族から契約内容に関するお問い合わせ、あるいは苦情をいただくケースも増えています。高齢者の特性を配慮し、トラブルを未然に防ぐため、当社販売ルールを適時・適切に見直す必要があると考えます」

ほかにも同社では、“営業職員制度の見直し”を実施する。

「当社では2『大』プロジェクトとして、『みんなの健活プロジェクト』『地元の元気プロジェクト』を推進しています。これらは、健康寿命の延伸や地域活性化など、日本が抱える社会課題の解決に貢献していこうというもの。各営業職員は、保険の販売や相談、説明だけではなく、お客さまの健康や生活の質向上を一緒に考える役割も担うことになるわけです。そうした、営業職員の新たな役割と給与体系の考え方だったり、どのようにその役割意識を浸透させていくかといったところも、私たちが検討すべき課題となります」

コンプライアンスは、企業が社会に対して果たすべき責任・取り組みだが、一方で、自社の従業員を様々なリスクからいかに守るか?ということも含まれる。

「20年4月に作成した従業員の行動規範のなかで、業務で優先される判断基準・行動基準を設定し、それを意識して行動するようにと伝えています。しかし、コンプライアンス違反が発生する可能性はゼロではないので、各組織単位で抑止・牽制する仕組みを高度化していこうとしています。また、一度起こった不正を繰り返すことがないよう、早期発見により未然防止、その機会を抑止する、違反者は厳罰に処すというステップの実効性を高めています。未然防止や抑止に向けた取り組みは、お客さまはもちろんですが、従業員を守ることにもつながります」

事例をもとにしたコンプライアンス教育の教材提供、研修企画も同部の役割。

「実際に起きた違反例をもとに、事例共有を行ったり、そうした事例を踏まえて自分ならどう考えるかというディスカッション型の研修を行ったり。一人ひとりが“腹落ち”するような、教材・研修を工夫して提供しています」

明治安田生命保険相互会社
本社各部等の状況とりまとめや支援・指導に加え、社外委員を含む「お客さまサービス推進諮問会議」と、「コンプライアンス検証委員会」を通じて経営会議や取締役会へ報告することも同部の役割

プロの知見を分かち合う仲間

各グループの業務は“横連携”を意識して進めるが、特に保険募集に関するコンプライアンス態勢では、その度合いが強いそうだ。

「例えば、高齢者販売ルールの主管はコンプライアンス推進グループですが、高齢者対応の体制そのものをどうするか、ほかの販売ルールとの適合性などの確認はコンプライアンス統括グループが主管しているため、常に連携して業務を進めています。経営との距離も近く、常勤監査委員とも定期的に意見交換をします」

また、各メンバーはプロフェッショナルの自覚と自信を持って職務にまい進する。

「私たちは、各部の役員会議の資料など“会社のすべて”が見られる立場であり、会社にとっての“最後の砦”ともいえます。コンプライアンス違反が起こらないよう、各自の視点からしっかりと各部にアドバイスをすることが最も重要な責務。各自それに応えてくれていますが、常に一人ひとりが世の中全体の動き、人の気持ち、悪いことをしてしまう人の動機などに気づける感性というものを磨き続ける必要があります。まずはお互いの知見を交換してブラッシュアップし合う。それから“外”に出て感性を磨く――これを日常的に行う組織でありたいです」

「過度なリスク回避はせず、自社のフィロソフィーに立脚したプリンシプルベースでリスクの許容範囲を見極め、誰もがわかりやすく会社が進むべき方向を理解できるコンプライアンス態勢にしていきたい」と、片山氏は結んだ。

※取材に際しては撮影時のみマスクを外していただきました。

明治安田生命保険相互会社
海外保険事業の重要拠点となる米国スタンコープ社社員(ポートランド)。2016年の完全子会社化以来、コンプライアンス統括部も密に現地と連携をとり、グループコンプライアンスの強化に努める