Vol.91
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前列左から、村本莉佳子弁護士(74期)、石井 奏弁護士(69期)、上田知季弁護士(71期)、蜂須明日香弁護士(66期)、山城在生弁護士(73期)。後列左から、松澤 瞭弁護士(73期)、神谷英亮氏、松本晋太朗弁護士(75期)

前列左から、村本莉佳子弁護士(74期)、石井 奏弁護士(69期)、上田知季弁護士(71期)、蜂須明日香弁護士(66期)、山城在生弁護士(73期)。後列左から、松澤 瞭弁護士(73期)、神谷英亮氏、松本晋太朗弁護士(75期)

THE LEGAL DEPARTMENT

#161

デジタル庁 政策・法務ユニット

“デジタル社会形成の司令塔”の一員として、専門知識+調整力でプロジェクトを前進させる

プロジェクトの推進役として

内閣直轄の行政機関として、規制制度改革や社会におけるデジタル共通基盤の構築などを担うため、2021年9月に設立されたデジタル庁。組織の最大の特徴は、人材の多様性だ。総務省や経済産業省など様々な省庁出身者と、IT、コンサルティング、通信、スタートアップといった民間企業出身者がほぼ半数ずつ所属する、多様なバックグラウンドと知見を有するメンバーが集う職場である。そうしたメンバーによる、政策や行政サービスに関するプロジェクトを円滑に推進していくために同庁が設けているのが、セキュリティ、エンジニア、デザイン、政策・法務という各専門領域のプロフェッショナルを擁する22のユニットだ。このうち政策・法務ユニットを統括する神谷英亮氏に、同ユニットの構成などを伺った。

「政策・法務ユニットは、24年1月から本格稼働をしている新しいユニットで、機能ごとに、政策推進、法務、組織企画の3つのサブユニットで構成されています。これまで主に行政官が担ってきたプロジェクトの推進や総合調整が主な役割で、所属メンバーは、システムやアプリケーションをつくるプロジェクト、法令策定、会計業務などのチームにアサインされ、各種プロジェクト全体の〝エンジン役〟として活躍しています」

法務サブユニットには、60期台なかばから70期台の弁護士13名が所属する。

「法務スペシャリストの仕事は多岐にわたりますが、①法令の作成や審査(マイナンバー法など)、②プロジェクト推進、③デジタル庁とベンダー企業間の契約などの〝契約法務〟が主な業務になります。庁内には我々のように全庁横断的な役割で動くユニットとは別に、省庁の部局にあたる4グループがあり、それらのグループが所管する各プロジェクトに法務スペシャリストとしての知見を生かしてかかわります。こうした業務に加えて、近時は新たに民間事業者の法務部門に相当するチームの充実強化も進行中で、弁護士の専門的な知見がますます必要とされています」

デジタル庁
仕事の基本は“チームワーク”。「若手弁護士が多いので、彼らの相談に乗ったり指導役となってくれる“中間層”にもっと参画してもらいたい」と、神谷氏

実践的な経験と、新たなつながり

デジタル庁
オフィスは千代田区紀尾井町。リモートワークやフリーアドレス、オンライン全庁ミーティングの開催など、自由かつ効率的な働き方を推進している

法務サブユニットに所属する弁護士は、どのようなやりがいを感じているのか、次の3名に伺った。

1人目は、法令審査や文書審査を主に担当する石井奏氏。

「私は主に、マイナンバー法やデジタル手続法をはじめとして、デジタル庁が所管するすべての法令の新設改廃や、デジタル庁が立案する公式文書の正確性・適法性を審査しています。私が弁護士として行ってきた業務の多くは、すでに成立した法律や、(裁)判例その他既存の解釈をもとに個別事案の問題解決を図るものでしたが、デジタル庁での仕事は成立前の法律などについて、内容的・形式的な正確性を審査することが主眼です。今まで弁護士として行ってきた業務とは〝見るべき視点〟と〝発想〟の両軸が異なるため、入庁当初は〝視点の変換〟に苦心しました。しかし、日頃使用している法律の成立過程の一端に携わることができるので、省庁業務ならではの醍醐味を感じています」

2人目は、デジタル改革企画(法制・制度)の部署で、法制事務のデジタル化などに関与している蜂須明日香氏。

「法令案を策定するためには、各省での立案、内閣法制局での審査といった様々なプロセスを経る必要があります。このような業務は〝法制執務〟と読ばれていますが、アナログの作業が多く、経験値の高い職員でないと円滑な対応が困難と考えられていることから、これらの業務のデジタル化・効率化を図ることが担当業務の一つです」

また、アナログ規制の撤廃という取り組みがあり、それに関する業務も、蜂須氏の仕事の一つだ。

「公示送達のデジタル化の対応が一例です。庁内のプライバシーガバナンスのチーム、セキュリティのチームなど、行政・民間を問わず最先端の技術に詳しい庁内のプロフェッショナルとの協働が、とても刺激になっています」

蜂須氏は、他省庁(消費者庁)での勤務経験もある。

「どのような目的で、どの工程をデジタル化すべきか検討し、運用などのあり方を変えていく――そうした変化を受け入れていくにあたっては、作業工数が増えるなど、〝現場〟にとって負担に感じられる場合もあるものです。省庁の業務は多岐にわたるため、すべてを理解しているとは言えませんが、わずかながら他省庁での勤務経験があることで、デジタル化による現場への影響の想像がつくこともあります。ですから〝現場〟の状況を踏まえつつ、デジタル社会の共通基盤をつくるといった大きな目標に、どのような道筋で進んでいくべきかを探りながら仕事をすることに、やりがいを感じます」

その蜂須氏と同じ班に所属するのが、上田知季氏だ。

「私は、デジタル分野に関する法令の解釈について、他省庁や自治体からの問い合わせへの対応を含め、多岐にわたる業務に携わっています。元々〝テクノロジー×法律〟の領域に強い関心があり、所属先の法律事務所で先端的なテクノロジーに関する案件に携わるうち、もっと詳しく同領域について学びたいと考え、米国に留学しました。帰国後、〝テクノロジー×法律〟の領域において、通常の弁護士業務とは異なる立場から見識を深めるため、デジタル庁で働くことを選び、現在に至ります。入庁前はバックオフィス的な仕事が多いかもしれないと想像していたのですが、実際には、生成AI事業を行うスタートアップ企業と協働するプロジェクトに携わるなど、生成AIの技術的な側面も学びつつ、〝テクノロジー×法律〟の最前線で仕事ができていると感じています。これらは、法律事務所では出会えない貴重な経験だと思います」

非常勤での参画が可能なユニット

デジタル庁の政策・法務ユニットにおけるもう一つの特徴は、働き方の選択肢があることだ。弁護士が省庁で働く場合は、正規職員か任期付職員が一般的だが、政策・法務ユニットでは、非常勤の一般職国家公務員という身分での契約形態がある。

「個人の案件やクライアントとの関係を中断せずに行政の経験が積めることは、弁護士にとって非常に魅力だと思います。弁護士としての業務にかける時間を従前のとおりに確保するのは実際には難しいものの、業務をリセットせずに済むので、私もこの仕事に踏み出すことができました」(石井氏)

デジタル庁の仕事には、どのような弁護士が合うのだろうか。

「デジタル庁の最大の特徴は官民の多様なバックグラウンドを持つ人材の混合組織である点です。行政官だけでなく、データ連携、セキュリティ、マイナンバーや個人情報など、各専門領域の第一線の方々との交流を通じて人脈が広がることはもちろん、法令の策定側から関係法令に向き合うことができるので、その後の法律家としてのキャリアに、おおいに生かせる経験ができます。弁護士として事務所の仕事に戻った時に、新たなクライアントを獲得したり、専門家として委員活動をしたり、著書を出版するといった可能性も高まるでしょう。とはいえ、新しい組織であるため、まだリーチできていないことや、仕組みが整っていない面も多々あります。課題や困難に直面した時に、自らルールをつくり、合理的でないルールは打ち破っていける――そんな気概を持つ方が、デジタル庁にフィットしますし、デジタル庁としても求めています。チャレンジマインドに富んだ弁護士の皆さんと一緒に、国民のためのデジタル政策を前に進めていきたいです」(神谷氏)