実際に、法務室ではどのような業務に携わるのかをうかがった。
「例えばHR Tech法務グループが担当するHRのマーケットでは、人的資本への投資や生産性の向上の重要性が叫ばれるなかで、法規制の内容自体が時代の流れに合わせてダイナミックに変化している過程にあり、必ずしもルールが明確ではない状況で事業を推進しなければならない場面に多く直面します。そのようななかでは、官公庁とのやりとりを含めて、表面的な法規制の文言だけではなく、その背後にある法の趣旨を正しく理解し、事業が実現したいことを適切に位置づけるといったプロセスを常に行い続ける必要がある。どの教科書にもガイドラインにも書いていない論点にぶつかることも多く、法の趣旨や社会からの期待を思考しながら自分たちなりに法律を解釈し、独自に進めていく必要もあります。これは苦労も多い一方で、大きなやりがいがあります。外部の専門家の力を借りることも必須で、自分たちにない部分を補っていただいているのですが、専門家の先生方でも経験したことのない領域に直面することもありますし、社内で議論した内容が間違っていなさそうだと感じられることも多く、『自分たちは最先端のビジネスに携わりながら、専門的な面においても着実に成長できている』と、実感して嬉しい気持ちになります」
同社では近年、生成AIを活用した新規ビジネスや施策が、事業側から次々と提案されている。
「生成AIの活用は当社の重点課題であり、関連特許の出願件数は国内トップクラスを誇ります。私たちは、例えば個人情報の規制トレンドを注視しながら、データ利活用の可能性を模索し、専門書などに示されていない課題についても徹底的に議論を重ねます。生成AIにおいてもまた、適切にリスクを取りつつ、新たなビジネスを軌道に乗せるべく、事業部とともに推進しています。このように、私たちの業務では、常に社会に責任ある立場として適切な対応を維持しながらも、事業が実現したい未来に向かえるように、〝できる理由〟を考え抜くことが求められているのです」
同室の3グループが担当する事業は10以上。「しかも各事業で新規ビジネスが立ち上がり、ものすごい勢いで新しい可能性が検討されているので、キャッチアップだけでも大変です」と、小田氏。そのため昨年から、新たな取り組みに挑戦し始めた。
「マネージャーではない法務室の有志が中心メンバーとなって、かつて定めていた『十戒』という行動指針をリニューアルするかたちで、『法務室Value』を新たに定めました。私たちがモットーとする〝事業のための法務〟を『事業の価値を最大化し、社会課題を解決することであり、法務はそのための一つのファンクションである。事業に携わる仲間とともに、事業が描く未来にコミットしよう』と、改めて定義しました。その実現のための行動指針等をいくつか定めています。なかでも重視しているのが〝Dive(好奇心をもって事業に飛び込む)〟です。日常から事業に入り込み、〝法務に詳しい事業の人〟になることが理想であるとしています。例えば、週1回事業部に席を置いて仕事をしたり、商談に同行したり、定例会議に出席して、そこで議論された内容を法務室に持ち帰って共有したり。法務室のメンバー自身が、事業へのDiveの仕方を各自で発案し、楽しみながら仕事に臨んでいます。そのような行動・考え方――〝価値観の浸透〟が一歩ずつ進んできているのが、とても喜ばしいです」