法務担当が目指す役割について、部長の上柳裕嗣氏は、こう語る。「当社は24年4月に、『挑戦と協創で進化させる社会と沿線』という長期経営ビジョンを掲げました。事業環境やニーズの変化を先取りする〝挑戦〟と、グループ内外との連携によって新たな価値を生み出す〝協創〟を通じて、持続的な発展とグループの成長の両立を目指すものです。以前の法務は、どちらかといえば受け身の姿勢で業務にあたることが多かったのですが、今は、課題を先回りして提案する〝戦略型の間接部門〟へと進化しつつあります。法改正やコーポレートガバナンス・コード改訂への対応はもちろん、従業員が働きやすい環境づくりにも取り組み、企業価値の向上に貢献しています」
〝挑戦と協創〟を体現する事例を、髙橋氏に聞いた。
「法務担当の業務の一つに鉄道グッズの商品化許諾があります。以前はメーカーからの商品化申請の受け付け、社内調整、商品監修、ライセンス料の管理まで、私たちが対応していましたが、この方法では新たな商品展開に限界がありました。そこで、グッズ販売のノウハウを持つグループ会社へ業務を委託する新たなスキームを構築しました。その結果、ライセンス料収入は、年々右肩上がりで伸びています。収益に貢献する〝稼ぐ法務〟へ成長できたのは、まさに〝挑戦〟の結果。業務の進め方や役割分担を見直し、収益につながる仕組みを構築できたことに大きな意味があると思っています」
もう一つの例は、26年4月に実施した鉄道事業と密接に関連する子会社3社の吸収合併だ。法務担当は取締役会や経営会議の事務局を担う立場を生かし、正式な相談を受ける前から本プロジェクトの情報を把握していた。想定論点や法的手続きを整理するとともに、合併契約書や電子公告案なども事前に準備し、各部門へ迅速な法務支援を提供。情報を先取りして体制を整えたことで、大規模な組織再編を円滑に支えた。また、新規事業立ち上げ時も、法務担当の活躍の場となる。24年に始動した、生体認証を用いて決済や本人確認、鉄道改札の通過などを行える共通プラットフォーム『SAKULaLa(サクララ)』でも、法務担当は早い段階からプロジェクトに参画し、弁理士と連携して同社初の〝音の商標登録〟も実現した。
このような事案をチームメンバーとして現在推進しているのが、入社3年目の矢島裕大氏だ。
「商品化許諾業務では、新規取引先の信用調査を行うため、財務諸表の読み方から学びました。また、吸収合併事案では、合併契約書や電子公告案の作成など実務を一から担当し、合併手続き全体を経験することができました。自分で調べながら実際に手を動かして業務を進めるという実践的な経験を積み重ね、法務担当としての専門性だけでなく、将来どの部署でも生かせる知識や視点が身についていると感じています」(矢島氏)
矢島氏に、法務担当の仕事の魅力についても聞いた。
「合併プロジェクトでは、関係部署とバランスを取りながら事業部門の挑戦を支えていくことにやりがいを感じました。取締役会などの会議体運営にも携わるため、若いうちから経営の根幹にかかわる業務を経験できることも、法務担当の醍醐味だと思います」
一方、〝協創〟の観点では、グループ各社との交流・連携に力を入れているという。
「実は、グループ会社約70社のうち、専任の法務部門がある会社は、それほど多くありません。そのため、グループ全体を支える法務体制づくりに力を入れています。例えば、法律相談については、当社のグループ事業統括部を通じて、グループ各社から広く受け付ける仕組みを構築。また、法改正への対応やコンプライアンス上の課題が生じた際には、法務担当者同士で情報交換や意見交換を行うことも。約13年前から実施しているグループ会社向けのビジネス法務セミナーでは、顧問弁護士や弁理士を講師に迎え、契約書のチェックなど、グループディスカッションを取り入れた参加型とし、知識の習得だけでなく実務で活用できる力を養ってもらっています。この研修を通じてグループ会社の社員と顧問弁護士などとの関係も深まり、相談しやすい環境ができつつあります。実際、グループ会社社員から『研修時間が足りない』と言われるほど好評で、法務担当とグループ各社が直接交流できる貴重な機会にもなっています」(上柳氏)