Vol.98
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同社では2026年1月、フレックスタイム制とテレワーク勤務制度を導入したほか、3月には全社員にタブレット端末を配布するなど、働き方改革の一環としてのDXにも取り組む(右から、髙橋正至氏、執行役員で総務法務部長の岩廣哲典氏、上柳裕嗣氏、矢島裕大氏。なお、矢島氏が持つぬいぐるみは、同部で商標申請した「SAKULaLa」のキャラクター)

同社では2026年1月、フレックスタイム制とテレワーク勤務制度を導入したほか、3月には全社員にタブレット端末を配布するなど、働き方改革の一環としてのDXにも取り組む(右から、髙橋正至氏、執行役員で総務法務部長の岩廣哲典氏、上柳裕嗣氏、矢島裕大氏。なお、矢島氏が持つぬいぐるみは、同部で商標申請した「SAKULaLa」のキャラクター)

THE LEGAL DEPARTMENT

#178

東武鉄道株式会社 総務法務部

常に“先回り”で経営と事業を支援する――。成長への挑戦を止めない戦略型法務担当

5担当が連携し、経営判断を支援

来年、創業130年を迎える東武鉄道株式会社は、鉄道事業を主軸に、不動産やレジャー、流通など多角的な事業を展開している東武グループの中核企業だ。

総務法務部が創設されたのは2013年。密接にかかわる総務と法務の機能を一体化させ、法的視点から横断的に事業活動を力強く推進することが同部の狙いだ。現在、法務、総務、株式、秘書、監査役の各業務を分担する5つの担当、計27名の体制となっている。そのうち法務担当のメンバーは4名。課長補佐の髙橋正至氏に、法務担当が担う役割について聞いた。

「契約書審査や法律相談などの一般的な法務業務に加え、訴訟支援、商標権をはじめとする知的財産権の管理などを行います。また、コンプライアンス推進に資する公益通報窓口の設置・運営をはじめ、文書管理の一環としての電子稟議システムの管理・運用なども大事な仕事です。コーポレート・ガバナンスについては、部内の各担当と緊密に連携しながら、取締役会や経営会議など会議体の運営、議案・議事録の作成、株主総会想定問答集の取りまとめ、社外役員への情報提供に携わります」

広範な業務を4名で推進するため、定型的業務についてはリーガルテックを導入して効率化。それにより創出された時間を、経営の意思決定支援など付加価値の高い業務にあてられるようになった。

同社内のカフェテリア。個室ブースやソファ席、大型モニタなどを設置し、社内打ち合わせや休憩などに利用。総務法務部が、社員の働く環境の向上を目的に実現した

事業を先回りで支える戦略型法務への進化

法務担当が目指す役割について、部長の上柳裕嗣氏は、こう語る。「当社は24年4月に、『挑戦と協創で進化させる社会と沿線』という長期経営ビジョンを掲げました。事業環境やニーズの変化を先取りする〝挑戦〟と、グループ内外との連携によって新たな価値を生み出す〝協創〟を通じて、持続的な発展とグループの成長の両立を目指すものです。以前の法務は、どちらかといえば受け身の姿勢で業務にあたることが多かったのですが、今は、課題を先回りして提案する〝戦略型の間接部門〟へと進化しつつあります。法改正やコーポレートガバナンス・コード改訂への対応はもちろん、従業員が働きやすい環境づくりにも取り組み、企業価値の向上に貢献しています」

〝挑戦と協創〟を体現する事例を、髙橋氏に聞いた。

「法務担当の業務の一つに鉄道グッズの商品化許諾があります。以前はメーカーからの商品化申請の受け付け、社内調整、商品監修、ライセンス料の管理まで、私たちが対応していましたが、この方法では新たな商品展開に限界がありました。そこで、グッズ販売のノウハウを持つグループ会社へ業務を委託する新たなスキームを構築しました。その結果、ライセンス料収入は、年々右肩上がりで伸びています。収益に貢献する〝稼ぐ法務〟へ成長できたのは、まさに〝挑戦〟の結果。業務の進め方や役割分担を見直し、収益につながる仕組みを構築できたことに大きな意味があると思っています」

もう一つの例は、26年4月に実施した鉄道事業と密接に関連する子会社3社の吸収合併だ。法務担当は取締役会や経営会議の事務局を担う立場を生かし、正式な相談を受ける前から本プロジェクトの情報を把握していた。想定論点や法的手続きを整理するとともに、合併契約書や電子公告案なども事前に準備し、各部門へ迅速な法務支援を提供。情報を先取りして体制を整えたことで、大規模な組織再編を円滑に支えた。また、新規事業立ち上げ時も、法務担当の活躍の場となる。24年に始動した、生体認証を用いて決済や本人確認、鉄道改札の通過などを行える共通プラットフォーム『SAKULaLa(サクララ)』でも、法務担当は早い段階からプロジェクトに参画し、弁理士と連携して同社初の〝音の商標登録〟も実現した。

このような事案をチームメンバーとして現在推進しているのが、入社3年目の矢島裕大氏だ。

「商品化許諾業務では、新規取引先の信用調査を行うため、財務諸表の読み方から学びました。また、吸収合併事案では、合併契約書や電子公告案の作成など実務を一から担当し、合併手続き全体を経験することができました。自分で調べながら実際に手を動かして業務を進めるという実践的な経験を積み重ね、法務担当としての専門性だけでなく、将来どの部署でも生かせる知識や視点が身についていると感じています」(矢島氏)

矢島氏に、法務担当の仕事の魅力についても聞いた。

「合併プロジェクトでは、関係部署とバランスを取りながら事業部門の挑戦を支えていくことにやりがいを感じました。取締役会などの会議体運営にも携わるため、若いうちから経営の根幹にかかわる業務を経験できることも、法務担当の醍醐味だと思います」

一方、〝協創〟の観点では、グループ各社との交流・連携に力を入れているという。

「実は、グループ会社約70社のうち、専任の法務部門がある会社は、それほど多くありません。そのため、グループ全体を支える法務体制づくりに力を入れています。例えば、法律相談については、当社のグループ事業統括部を通じて、グループ各社から広く受け付ける仕組みを構築。また、法改正への対応やコンプライアンス上の課題が生じた際には、法務担当者同士で情報交換や意見交換を行うことも。約13年前から実施しているグループ会社向けのビジネス法務セミナーでは、顧問弁護士や弁理士を講師に迎え、契約書のチェックなど、グループディスカッションを取り入れた参加型とし、知識の習得だけでなく実務で活用できる力を養ってもらっています。この研修を通じてグループ会社の社員と顧問弁護士などとの関係も深まり、相談しやすい環境ができつつあります。実際、グループ会社社員から『研修時間が足りない』と言われるほど好評で、法務担当とグループ各社が直接交流できる貴重な機会にもなっています」(上柳氏)

法務アドバイザリーと呼ばれる顧問弁護士は、インハウスローヤーのような存在。法律相談のほか、日常業務に関する相談や若手社員の指導にもあたってくれる

自ら考え、行動し、未来を創造する

東京スカイツリータウン®に代表されるまちづくり事業など、多様な事業領域へと挑戦の幅を広げている同社。公共性と事業成長の双方を支える法務担当の役割について、上柳氏は次のように語る。

「鉄道会社としての公共性を踏まえると、法務には守りの役割が求められます。お客さまの安全・安心を守ることと同様に、社員を守ることも大切ですから、カスタマーハラスメント方針の策定にもかかわっています。一方で、当社が今後注力する新規事業や不動産事業、レジャー事業では、守りだけでは前に進められませんし、これまで直面したことのない新たな課題も生じています。〝守りと攻め〟のバランスを図りながら、法律を根拠に『できない』と判断するのではなく、『どうすれば実現できるのか』という視点で考えられるよう、法務も発想を変えていく必要があることを痛感しています」

「事業領域が広がるにつれて、〝正解のない〟課題が増えていく。そこで必要となるのは、〝考え抜く力〟」だと、上柳氏は言う。どのような人が、これからの法務担当に求められるのかを聞いた。

「法務担当では、事業部門との連携をさらに深め、プロジェクトの初期段階から関与することで、スピードと実効性の高い施策の立案につなげていきたいと考えています。また、グループガバナンスのさらなる高度化も目指しています。これまで取り組んできたビジネス法務セミナーや情報共有の機会をさらに充実させ、グループ全体の〝法務力向上〟に貢献していきたいと考えています。これからの法務担当に求められるのは、当社の人材育成方針にも掲げている〝自ら考え、自ら行動する力〟です。知的探求心を持ち、新しいことに前向きに挑戦する姿勢や、当事者意識を持って行動できることを、私たちは大切にしています。専門的な法的知識は、顧問弁護士やリーガルテックの力を借りながら、補っていくことが可能です。しかし、自ら学び、考え、行動する姿勢だけは、自分自身で身につけるしかありません。そうした姿勢を持つ人と、ともに挑戦と協創を続けていきたいと思います」

新スキームの構築により、“攻めの商品化企画開発”が実現(写真提供/東武鉄道)