氏の入社は、ディズニー・チャンネル立ち上げ準備の真っただ中だった。
「ディズニーは全世界に約500名のリーガルを擁していますが、日本法人の有資格者(日本)採用は、私が初めてでした。パラリーガルもデータベースもないところから土台作りに着手。まず日本のケーブルテレビ局に対してアメリカの契約書をそのまま使うことができなかったので、ひな型を日本用にカスタマイズしました。また当時はメンバー8名がマルチタスクをこなしていたので、私もリーガル業務をしながら、営業サポートなど実にさまざまな仕事を担当。1年の準備期間を経て03年ディズニー・チャンネルがスタートしました。その後、今度は社内に新規事業をフリーに考える事業開発セクションができ、ビジネスに突っ込んだ私の取り組み姿勢が評価されて、事業開発を任されました。やってみると必要なスキルは、マネジメント能力やロイヤー的なロジックと事務処理力、そして情熱。見回せば米国本社にはロイヤー出身のマネジメント職が多数います。ディズニービジネスは著作権法などをベースに、契約に基づいてすべての実務が動くため、ロイヤーのスキルが発揮できるのです。そして私も現在、バイスプレジデントの職に就いています。ここまでに法律事務所から知財やエンタメ部門立ち上げのオファーが複数ありましたが『ハリウッドレベルのエンタメ』を目指すようになった私には、もうディズニーのスケール以外は考えられませんでした」
異色に見える経歴も目標に向かって着実に進んだ結果だと、田中氏は語る。
「私のキャリアを『回り道』と言う人がいますが、自分はそう思いません。弁護士になるために勉強し、身に付けたスキルや資格があって、今の仕事ができています。入社当時『映画のプロデューサーをやりたい』と言って『畑違い』と笑われた私ですが、チャンネル立ち上げやコンテンツセールスも『映画プロデューサー』という目標のための過程と考え、そこでロイヤーのスキルも存分に発揮した結果、ドラマのキャスティングやコンテンツのプロデュースにもかかわれているのです。自身の経験からも、付加価値としてロイヤーの資格ほど便利なものは少ないと思います。アメリカはロイヤーの資格で多方面にキャリアが広がるのに、日本では限られた仕事しか想定しない傾向がある。もっとクリエーティブに考えれば選択肢は多彩なはずです。ロイヤーの資格を目標のために大いに活用してください」
※1 /西村眞田法律事務所は現:西村あさひ法律事務所
※2 /2001年9月11日、ハイジャックされた旅客機が連続してビルに激突または墜落するテロ事件がアメリカのニューヨーク、ワシントン(郊外のアーリントン)、ピッツバーグ(郊外のシャンクスビル)の3都市で起きた