「法務の資産は“人”のみ。どう厚みを増して事業の成長に貢献していけるかが一番の課題です」と、中島氏は強調する。人員補充とともに、メンバー個々のレベルアップが不可欠なことはいうまでもない。
「主としてベテランと組んで仕事をすることによるOJTや、外部セミナーで研修をフォローしています。またグローバル案件に対応できる人材を育てる意味で、海外子会社への短期の法務実務研修を企画しているところです」。
ところで現在、同社法務部には2名の法科大学院修了者が在籍している。
「実際、一緒に仕事をしてみると、やはり専門知識や法的思考力のレベルが高い。改めて、法科大学院でしっかり学んだ人は即戦力になり得る、と実感しています。企業法務にとって“人材の有力な選択肢のひとつ”といえるかもしれません」
最後に、法曹あるいはインハウスロイヤーを志す人たちへのメッセージを尋ねると、「私は外部弁護士と企業法務の違いは、あくまで役割の差だと考えています」という答えが返ってきた。
「前者は法律解釈の正確なアドバイス、豊富な経験に裏打ちされた実践的なアイデアの提供が任務。後者はそうした意見も参考にして、会社に合った解決策を立案し、実行するのが仕事。法的側面だけではなく、ビジネスとしてのリスクとメリットを理解したうえで、ものごとを前に進める実行力が求められるのです。企業法務の専門性とは、専門家を使いこなす能力といえるかもしれません。そうした役割の違いをきちんと理解して、どちらが自分に向いているのか、考えるといいですね」
中島氏の片腕である須藤龍也課長は「企業の中では、経営判断に必要な法的提言を行います。採用された時の達成感は、何ものにも代えがたいですよ」と、インハウスのやりがいを“補足”してくれた。
ちなみに「弁護士資格者を採用しても、ずっと法務の仕事を継続するかどうかは、本人の希望と資質次第」(中島氏)という。
「海外では弁護士資格を持った経営者が珍しくありません。法律の専門家という強みを持った社会人として、企業の経営陣を目指してみるのも面白いと思います」