決算短信・有価証券報告書で国別セグメント情報を開示している日本企業の海外生産・海外売上高の比率はすでに5割を超え、現在も拡大傾向にある。東京国際法律事務所の設立者、森幹晴弁護士と山田広毅弁護士は、ほぼ同時期に米国留学し、世界トップクラスの米国法律事務所で経験を積んだ。その経験から「今後も日本企業の海外進出は確実に増えるが、リードカウンセルとなり得る日本人弁護士・法律事務所が不足している」という危機感を抱いたことが、同事務所設立のきっかけとなった。
「私や森が米国にいた2010年頃、世界における日本のプレゼンスが下がり始めていました。しかし、海外進出する日本企業は増加傾向にあり、企業にその意欲があるうちに“世界と伍する力”をつけないと日本経済がたちゆかなくなると思いました。そのためには日本の弁護士が、企業に対してしっかりとしたリーガルサービスを届けなければいけない。それができなければ日本の弁護士業界も先細る。当時、そうした使命感がみなぎりました」(山田弁護士)
「山田弁護士の使命感とアイデアは、同じ危機感を抱いていた私の“三歩先”を行っていました。日本企業の海外売上高比率の上昇を鑑み、アウトバウンドマーケットに弁護士人生を懸けてみたい。それは日本の弁護士業界で新たなビジネスモデルの創出につながるに違いない。彼とならば、その思いを実現できそうだ。そう確信しました」(森弁護士)
世界で戦う日本企業に、より優れた“法的武器”を提供したい。そのためには同じ志を持ち、共感してくれる同志と一から“自分たちのチーム”をつくる必要がある――意気投合した二人は19年4月、同事務所を設立した。主な取り扱い分野はクロスボーダーМ&A、国際紛争、規制・当局対応などだ。森弁護士は言う。
「昔の渉外事務所では、日本人弁護士は、外国企業のインバウンド(対日投資)案件をサポートするわけですが、リードカウンセルである本国の弁護士の指示を受けて動くローカルカウンセルというポジションにつくわけです。これに対して、今私たちがターゲットとするのは、ハイバリューなアウトバウンドマーケットです。日本の大手企業の多くが海外進出を進める際、当該国の現地法律事務所か国内の外資系法律事務所に仕事を依頼するケースが多い。しかし、リードカウンセルとなる外国人弁護士には、文化の違いなどから、日本企業特有の商習慣、ビジネス上の深い目的などを理解しきれないケースが多々ある。日本人弁護士がリードカウンセルをとれば、よりスムーズに海外への挑戦をサポートできるし、ニーズを十分に満たすことができる。ゆえに事務所の基本コンセプトとして、『日本発のグローバルファーム』を掲げました」
これまで誰も積極的に攻め込みきれていなかった分野に挑む、同事務所。しかし、法律事務所としては当然ながら“後発組”であるといえる。
「スタートアップ企業と同じ発想です。現時点で我々が最も強みを発揮できるアウトバウンド案件に注力して顧客を獲得し、インバウンド案件にも関与していく。“市場創造型のゲームチェンジャー”となっていきたい」と、山田弁護士は目を輝かせる。