入庁以前は、大阪市内の法律事務所に勤務していた能登弁護士。なぜ市役所で働くことを選択したのか。
「アソシエイト時代、市・区役所で市民からの法律相談を受ける機会がありました。しかし生活保護や児童扶養手当などの行政手続に関する相談には十分に答えられず、『役所に聞いてください』と言うしかなかった。相談者がガッカリする様子を見て、『相談対応をするなら、行政内部のことをもっと知っておくべき』と考えた結果です」
そんな能登弁護士らの活躍を、明石市の説明会で知り、入庁したのが村山由希子弁護士だ。現在、市民相談室、市長室、更正支援担当を兼務する。
「法律事務所勤務の頃、離婚事件や犯罪被害事件などに関与しました。しかし弁護士が関与できるのは裁判手続など〝事後救済〞がほとんど。もっと事前に何かできないか、制度設計の部分からかかわれないかと考えていたところ、明石市の弁護士職員の活動内容を聞いて興味をもち、入庁しました」
市長室を兼務した時、新たな取り組みとして更正支援が持ち上がった。これは福祉的支援を必要とする高齢者や障がい者の再犯防止に関するもの。村山弁護士は、更正支援条例の検討をはじめ、関係機関とのネットワーク構築や継続的支援のコーディネートを行ってきた。それを共に推進した青木志帆弁護士にも、入庁の動機を聞いた。
「私は、尼崎市内の法律事務所の出身。ひまわり基金法律事務所出身のボス弁のもと、5年間務めました。私の信条は、『市民に寄り添うこと』。これを貫けるのが市役所での仕事だと考え、入庁を決意しました」
青木弁護士は入庁後、福祉局内で高齢者・障がい者福祉や生活保護などを担当する部署からの法律相談を担当。また「障害者配慮条例」など差別解消のための施策・条例の起草、条例検討会の事務局運営も行ってきた。条例運用後は、寄せられる相談を法的論点に照らし、庁内外の誰にどのように引き継ぐかのアドバイスを行うことも仕事だ。現在は社会福祉協議会に出向し、主に地域包括支援センターや明石市後見支援センターに寄せられる相談対応の〝司令塔〞的役割を果たしている。「今は、より市民に近づいた場所で仕事をしている感じです」と笑う、青木弁護士。
明石市役所にはほかに、4名の弁護士職員が在籍し、それぞれが八面六臂の活躍を見せている。たとえば、教育委員会でスクールローヤーとして、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーと共に小中学校で起こる問題に対応をする弁護士職員も。
能登弁護士に、今後の展望を聞いた。
「市民に寄り添う(相談体制の充実)、まちの未来をつくる(条例・施策づくりへの関与)、組織の襟を正す(コンプライアンス体制強化)、職員を守る(紛争・トラブル時の適切な対応)、仕事を進める(税金・保険料など債権回収の迅速化)、この5つの実現のために始まったのが明石市役所の弁護士職員採用です。弁護士が市役所で働く醍醐味は、本当に困っている方を直接救済できること、総合的な問題解決のための制度・仕組みづくりから関与できること、それにより市民の権利救済を実現していけることだと思います。弁護士の活動領域は裁判や法廷だけではありません。私たちは明石市のこうした動きを全国へ発信し、ひいては全国各地の市民が救われ、暮らしやすい社会になるよう活動していきます」