法務最前線:2019年7月号 Vol.69

法務最前線

アトーニーズマガジン 法務最前線

経営そのものに深くかかわる企業法務部。現場からの相談に瞬時にかつ的確に判断することが求められる組織に必要なファクターとは、その精鋭が弁護士に期待することとは何か?各社の法務部長へ伺いました。

※掲載記事の内容は取材当時のものです。

病院の継続的な発展・成長を支えるため、全職員が安心して働ける仕組みづくりに尽力

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医療法人医誠会 法人本部 法務部/コンプライアンス推進室

グループ内連携のさらなる強化を

 医療法人医誠会は、大阪府下を中心に岡山・滋賀・愛知・京都・奈良に9つの病院、および透析クリニック、介護老人保健施設、居宅介護支援事業所、訪問看護ステーションなど29施設を有する医療介護事業グループだ。「新しい健康文化の発信基地」をテーマに掲げ、〝患者の視点に立った病院システムの再構築〞を目指し、医療業界の構造改革を推し進めている。
 同法人本部 法務部/コンプライアンス推進室で指揮を執る竹本昌史氏に、業務内容をうかがった。「法務部/コンプライアンス推進室での法務機能の役割には、大きく4つがあります。①契約書チェックや就業規則のルール改定などの法務関連業務、②医療・労務訴訟、SNSなどにおける問題ある書き込みへの対応や未収金管理業務における訴訟対応、③コンプライアンスの推進、④医事紛争対応、となります」
 そもそも同法人初の病院内弁護士として竹本氏が着任したのは7年前のこと。法人内に弁護士を置くことで、内部統制機能の充実を図る目的で採用された。しかし当時、同法人としてはむろん、全国的に見ても病院内弁護士の先例はほとんどなかったため、竹本氏は日々の業務を手探りで開拓していった。着任当初は医療広告の規制や個人情報保護法、契約書などに関する相談といった単発的な法律相談の対応にとどまっていたという。やがて、そうした個別・事後対応に加えて、「紛争の事前回避や予防体制の整備がより重要」と考えるようになり、理事などの了承を得て「コンプライアンス推進室」を立ち上げた。「現在は、コンプライアンス推進室と法務部の両部に所属していますが、後者は2019年の5月に理事長の命で新設された部署になります。コンプライアンス推進室の業務がようやく軌道に乗ってきたので、次のステップとして人事・総務との連携を深化させ、法人内全体の〝法務意識を強化させる〞目的で新設されました」
 人事・総務と法務の連携が必要になる事情は次のとおりだ。「病院経営は、一般企業にはない制約や特殊な事情をはらんでいます。人の生命・身体を預かる仕事ですが、国全体の医師不足といった問題もあって、医療従事者の働き方改革、時間外労働の把握・管理などは世間一般に比べて遅れ気味。しかし厚生労働省が『医師の働き方に関する検討会』を開いて議論を促すようになったことや、労働基準監督署が〝聖域〞であった病院にも立ち入り調査を行うようになったことなどを受け、病院運営者はより適切な労務管理対応を迫られています。病院は、そうした労働法規への配慮のみならず、医療法や保険診療上加算となる人員要件を踏まえた人事も行わねばなりません。雇用契約や入退職の調整などを行う人事・総務の業務において、法律および法的視点によるチェックが必要となるため、法務のサポートが非常に重要になっています」

病院における弁護士の価値とは

 危機管理およびコンプライアンスの観点から、理事長が特に弁護士にと指名したものとして「リエゾンルーム」がある。「いわゆる職員のよろず相談と内部通報を受け付け、様々な問題の早期発見を可能にする窓口です。これは私ともう1名の弁護士(現在、産休中)が専任対応しています。弁護士には守秘義務があることを明示しているので、相談・通報する側も安心して利用できるようです。実際、私が担当する前は年間十数件だったものが、私が担当してから50件、80件、120件と、1年ごとに相談件数が増えています。単に話を聞いてレポートを残すだけではなく、相談者の〝頭の中の整理〞を手伝ったり、本当に行動を起こす際にはどんな対処の仕方があるかをアドバイスしたり。客観的なアドバイスによって、相談者が冷静になってくれAttorney’s MAGAZINE 24るケースもありますね。そのように事前に問題点を察知し、把握し、アドバイスを行うことにより、相談者や法人にとって、大きなトラブルの予防につながっていると考えます」
 もちろん竹本氏および法務機能のミッションは〝内部対応〞だけではない。医療事故対応やクレーム対応にも奔走する。弁護士として、印象に残る事案をうかがった。「当法人では、急性期病院(急性疾患の患者または重症患者を24時間体制で受け付ける病院)も運営しています。そこに、あるご高齢の患者さんが入院されたのですが、ご家族は『この病院に入ってから病状が悪化した』という理由でなかなか退院してくださらない。過去の裁判例では、患者さんが病院職員に暴力をふるったために退去命令を出したケースはあるようですが、本件はその例にあてはまりません。しかも退去いただくにしても、次の受け入れ先を考えなければ強制執行もできない、と。顧問弁護士と協議し、訴訟というかたちをとりました。結果、損害賠償請求に落ち着き、控訴審も勝利。その段階で医療の必要性に鑑みて、グループ病院に転院していただくこととなりました。訴訟の相手は誰なのか、請求の立て方はどうするのか、強制執行の仕方はと、複雑な問題が様々絡みましたし、私が入職して間もない時期に、初めて患者さん側と直接対峙することになったことで日々頭を悩ませました。しかし結果的に当院の正当性を裁判所に認めてもらい、医療機関として適切な対応が図れたと思えたことは、私にとっても当法人にとっても貴重な経験になっています」
 こうした医事に関する紛争対応は病院内弁護士にとって避けられない仕事だ。しかし「インフォームドコンセントや重要説明を書面に残すこと、事故発生時の初期対応マニュアルの用意、組織の対応方針を明確化しておくなどリスクマネジメントシステムを整備していくことで、問題は最小限に抑えることができる」と竹本氏は言う。

病院内弁護士のやりがいとは

 このように病院内弁護士の職務は多岐にわたる。竹本氏が同法人内で活躍することで、新しく部ができ、メンバーが増え、経営側への貢献の機会も増えた。「現在、法人内の医療安全委員会や、クオリティマネジメント部が主催する〝医療の質管理委員会〞にも出席し、個人情報保護に関する同意書の見直し、医療記録の管理の仕方についてなど一緒に検討しています。さらに倫理委員会にも参加し、〝家族がいない患者さんの場合、緊急治療を実施すべきか〞など、倫理的に問題ある医療行為を実施する際の審査にも携わります。当法人内の様々な機関と情報共有し、法律の専門家としてアドバイスをし、少しずつですが運営側への貢献という面も前進できていることを実感しています」
 同法人は、健康支援事業を行う株式会社とNPО法人を併せて、「ホロニクスグループ」というトータル・ヘルス・ケア・サービスグループの一翼を担っているが、そのグループ全体の研修にも関与する。同グループには今年新卒200名が入職したため、その新入職員を対象にコンプライアンス研修を、また新しく入職したドクターを対象としてリスクマネジメント(クレーム・医療事故対応等)研修を実施。他に看護師管理者研修や、グループ内の各病院・施設からの個別要請を受けて、虐待防止に関する研修なども行っているそうだ。そのように教育支援の企画・実施も法務部の役割となる。
 最後に、竹本氏に病院内弁護士のやりがいをうかがった。「やはり、病院内弁護士がまだまだ新しい分野であるということでしょうか。法律の知識は必須として、法律論だけでは解決できない難題がたくさんあります。それを解決していくことが一つのやりがいですね。病院環境は正直、特殊だと思います。人の生命・身体を預かるため、他のどんな業種と比べても日常的なリスクが高く、高度なリスクマネジメントが必要ですし、看護師、医師、技士などが多数揃う〝専門家集団〞でもありますから」
 スペシャリストの優位性が認められやすい〝独自の社会〞が形成されており、時々〝世間とのズレ〞を感じることもあるが、弁護士も資格者、自然と対等に接することができているという。「公共性が高く、不祥事が生じた場合は世間の批判にさらされやすいので、コンプライアンスが本当に大事。経営については、医療保険制度の枠組みの中でどう運営していくかが問われる規制業種です。こうした特殊な環境、制約があるなかで、コストとの兼ね合いを勘案しながら、法務・リスクマネジメントをどのように推進していくかに知恵を絞る――これが一番大きなやりがいでしょうか。しかも病院内弁護士は、全国でもまだ20名もいない希少な存在です。自分が歩けばそこに道ができる。責任は重いものの、開拓していく喜びが大きい、意義ある仕事だと思っています」

■企業概要

  • 医療法人医誠会
  • 創設 1979年12月17日
  • 代表役員 理事長 谷 幸治
  • 本部所在地 〒530-0047 
  • 大阪市北区西天満4-11-23
  • 満電ビル3階
  • 総職員数 4807名(2019年4月時点)
  • URL http://www.iseikaihp.com/