このように病院内弁護士の職務は多岐にわたる。竹本氏が同法人内で活躍することで、新しく部ができ、メンバーが増え、経営側への貢献の機会も増えた。
「現在、法人内の医療安全委員会や、クオリティマネジメント部が主催する〝医療の質管理委員会〞にも出席し、個人情報保護に関する同意書の見直し、医療記録の管理の仕方についてなど一緒に検討しています。さらに倫理委員会にも参加し、〝家族がいない患者さんの場合、緊急治療を実施すべきか〞など、倫理的に問題ある医療行為を実施する際の審査にも携わります。当法人内の様々な機関と情報共有し、法律の専門家としてアドバイスをし、少しずつですが運営側への貢献という面も前進できていることを実感しています」
同法人は、健康支援事業を行う株式会社とNPО法人を併せて、「ホロニクスグループ」というトータル・ヘルス・ケア・サービスグループの一翼を担っているが、そのグループ全体の研修にも関与する。同グループには今年新卒200名が入職したため、その新入職員を対象にコンプライアンス研修を、また新しく入職したドクターを対象としてリスクマネジメント(クレーム・医療事故対応等)研修を実施。他に看護師管理者研修や、グループ内の各病院・施設からの個別要請を受けて、虐待防止に関する研修なども行っているそうだ。そのように教育支援の企画・実施も法務部の役割となる。
最後に、竹本氏に病院内弁護士のやりがいをうかがった。
「やはり、病院内弁護士がまだまだ新しい分野であるということでしょうか。法律の知識は必須として、法律論だけでは解決できない難題がたくさんあります。それを解決していくことが一つのやりがいですね。病院環境は正直、特殊だと思います。人の生命・身体を預かるため、他のどんな業種と比べても日常的なリスクが高く、高度なリスクマネジメントが必要ですし、看護師、医師、技士などが多数揃う〝専門家集団〞でもありますから」
スペシャリストの優位性が認められやすい〝独自の社会〞が形成されており、時々〝世間とのズレ〞を感じることもあるが、弁護士も資格者、自然と対等に接することができているという。
「公共性が高く、不祥事が生じた場合は世間の批判にさらされやすいので、コンプライアンスが本当に大事。経営については、医療保険制度の枠組みの中でどう運営していくかが問われる規制業種です。こうした特殊な環境、制約があるなかで、コストとの兼ね合いを勘案しながら、法務・リスクマネジメントをどのように推進していくかに知恵を絞る――これが一番大きなやりがいでしょうか。しかも病院内弁護士は、全国でもまだ20名もいない希少な存在です。自分が歩けばそこに道ができる。責任は重いものの、開拓していく喜びが大きい、意義ある仕事だと思っています」