Vol.83
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法務部は、日本法、外国法の弁護士3名を含めて18名の陣容。1960年代から総務部や、知的財産部門などに法務機能を置いていたが、基幹部門の一つとして誕生したのは2018年という“若い組織”である

法務部は、日本法、外国法の弁護士3名を含めて18名の陣容。1960年代から総務部や、知的財産部門などに法務機能を置いていたが、基幹部門の一つとして誕生したのは2018年という“若い組織”である

THE LEGAL DEPARTMENT

#129

ヤマハ株式会社 法務部

経営に近い基幹部門として、実効的なリーガルリスクマネジメントを推進

基幹部門として新設された組織

楽器、音響機器、部品・装置など3領域でグローバル事業を展開するヤマハ株式会社。まず法務部の体制と業務内容について、法務部長の大須賀千尋氏にうかがった。

「法務部は、①法務、②コンプライアンス、③株式文書の3グループで構成されています。①は、ヤマハグループ全体における法令遵守体制の構築と個別の法務案件対応。例えば、事業に関連する国内外の法改正情報を収集し法令遵守を促す仕組みの構築、競争法・腐敗防止などのコンプライアンスプログラムの構築、法令や契約関係の教育・研修の企画と実施、日々の契約審査、法務相談、紛争対応ならびに外部弁護士との連携などを行います。②は、実際の内部通報対応と、グループ全体の内部通報制度の整備、コンプライアンス施策の立案・推進、コンプライアンス行動規準に基づく教育啓蒙を行っています。また、当社のリスクマネジメントは、法務リスクに限定されず、社長直轄の“諮問機関”としてリスクマネジメント委員会が主管していますが、この下位にあるコンプライアンス部会の事務局運営を法務部が担当しています。③は、株主総会の運営、会社法・コーポレートガバナンス(以下CG)などの手続きのほか、グループの組織再編時の法務対応を担当します。従前から、会社の意思決定に関連する決裁書や規程の管理と東京証券取引所への適時開示、インサイダー規制対応も行っていますが、最近ではグループ全体の文書管理の方針・仕組みづくりに取り組み、情報システム部門と連携し、展開を進めています」

続けてミッションをうかがった。

「グローバルに一体となった体制(ヤマハグループ)で、法務リスクを体系的に把握・評価して、自立的・戦略的にコントロールすること。サステナブルにグローバル事業を遂行するため、法的視点から経営事業をけん引すること。コンプライアンス意識の向上を通じ、内部統制システムを強化すること。関係法規に則った会社株式法務機能を担い、適法性・妥当性の判断を通じて遵法経営に資することと、CGの向上を図ることです。これは当社の中期経営計画策定時に、部内で議論した“法務のあるべき姿”からバックキャストして、外部環境に合わせ適時アップデートしています」

同部は、ヤマハの基幹部門としては、2018年に新設された最も新しい組織。法務部ができる過程を見てきたグループリーダーの中田智康氏は、次のように語る。

「5年前、私は一メンバーで、大須賀と経営陣が議論する様子を間近で見ていました。議論に直接加わることはなかったものの、経営陣の期待の高さがひしひしと伝わってきました。誰も明確な答えを持たないなか、議論を重ねてミッションやグループ規程などを構築していく、そのプロセスの末席にいられたことは貴重な経験です」

同部誕生後、最初に手掛けたのが“グループ規程の整備”だった。

「内部統制の観点から、当社では規程体系のもと、各責任部門がヤマハグループ全体に適用する規程を作成していますが、これまでは法務業務の共通規程はありませんでした。そこで“地道”な法務担当者の業務を見える化し、やれていない業務も明確化して、悩んだら立ち返る“ヤマハ法務の憲法”といえるものを作成しました。これは、『法務部はここまでやりきる』という宣言でもありました。現在では、メンバー一人ひとりが重点テーマを持って推進中です。遂行過程で当初認識のない課題が次々に出ますが、むしろ歓迎しています。悩んだら規程に立ち返る、規程が合わなくなれば見直す――と、規程を中心に、基幹職と担当とでアジャイルに対応しています」(大須賀氏)

ヤマハ株式会社
本社内のイノベーションロード(企業ミュージアム)には連日多くの見学客が訪れる。コンサートグランドピアノや創業当時のオルガンなどヤマハの歴史を体感できる

各自テーマを持ち自己裁量で臨む

“重点テーマ”の内容について、各担当者にうかがった。江尻紀之氏は、垂直規制を中心とした競争法を担当する。

「競争法に関するグループ全体のコンプライアンスプログラムの作成、展開を行っています。一つのプログラムをつくる過程で、国内外の事業部門の担当者へのヒアリングや導入に関する多くの議論が行われます。様々な立場の方の理解を得ていくことは大変ですが、やりがいのある仕事です」

即戦力で入社した矢吹直帆子氏の担当分野は、契約書管理だ。

「“グローバルに事業の拡大・発展を牽引する”という意識が浸透しつつあるなかで、従前から法務部が取り組むべき課題としていたのが契約書管理です。そこで、契約書を作成してから廃棄するまでの一連のプロセスを明確化しました。当社では、法務部が契約書を一元管理せず、契約にタッチする様々な部門が、部門最適で管理を行ってきた経緯があるため、遵法を前提として各組織の特徴・需要を踏まえて管理方法を統一していくことは、難しいと感じました。契約書管理については、海外のグループ会社も含めて“グループ全体の契約管理ガバナンス向上”を目的とした取り組みなので、法務部だけでなく、様々な部署やグループ会社と連携しながら進めています」

大須賀部長は言う。

「契約書は我々が全件管理するのではなく、活用する“事業側に置く”という考え方です。当社の文書管理はBCPでも業務効率化でもなく、リスク管理(情報管理)。経営会議での審議を繰り返し、その責任部門が法務部となってからは、『文書管理規定をつくる。最も重要な文書である契約書の管理をしっかりやる』と決めたわけです。契約書管理がきちんとできれば、その情報を活用して、効果的かつ多角的に予防法務のアプローチが検討できます。この長期スパンとなる計画のスタートからかかわってくれているのが、矢吹です」

同じく即戦力入社の宮原秀隆氏(64期)は、腐敗防止担当だ。

「私は、贈収賄防止コンプライアンスを担当しています。グローバルでのコンプライアンスプログラムを一からつくり、どのように浸透させ、どのようにリスク管理していくかという一連の流れすべてにかかわれる。業務遂行においては、裁量を持って、周りを巻き込みながら進捗できる点にやりがいを感じています」

同部ではこのように、一人ひとりが自分の担当分野において一定の自己裁量を持ち、プログラム作成などで規程の基盤整備を進めている。大須賀部長は、「一人ひとりのバックグラウンドやキャリアプランなども話し合いながら、担当分野ごとに適するメンバーをアサインしていきます。各自が担当業務を推進するうち、様々な気づきが出てくるはず。自身で課題を認識し、次のステップに進むための計画を立てていく――そんな能動的な組織として成長していくことを期待しています」と語る。

ヤマハ株式会社
本社は静岡県浜松市。国内(東京・大阪)に2事業所と、3工場を有する。グループ会社は国内14社、海外38社というグローバル企業だ

次世代の法務を担う人材に

経営に近いポジションで自らの仕事を創造していけることが、同部での仕事の醍醐味。OJTをベースとして、担当分野に関する外部研修・オンラインセミナー、全社共通の階層研修のほか、責任部門が提供する研修も多く、学びの機会も豊富だ。新型コロナ禍以降は、働き方も、出社とリモートワークのハイブリッドとなっている。中田氏は「法務部では、過度なマネジメントにならないようメンバーの意見をしっかり聞きながら、業務をするうえで最も効率的で進めやすい方法、働きやすい方法は何かを各自で考えてもらっています」と語る。“各自の自主性への期待”は、マネジメント層とメンバー間の信頼関係、密なコミュニケーションのうえに成り立っているようだ。

最後に、今後の法務部のあり方について、大須賀氏にうかがった。

「予防法務については、より体系的な仕組みにする。臨床的な案件は、特に海外においては顕在化した時点で把握、必要に応じて支援しているが、内外の法務リスクを定量化できないか検討する。それにより、経営層が直観的に理解できるようにしていきたい。また、内部通報や相談があったとき、対応手順や打ち手を即座に導き出し、拡大を防ぐとともに、今後の発生予防に資する施策を打つ――そのように次世代の法務は“課題解決に向け、短期・長期で対処する思考のスピード感”が、より重要になってくるでしょう。全員がより高い視座を持って、“リーガルカウンセル”を目指してほしいと願っています」

※取材に際しては撮影時のみマスクを外していただきました。