Vol.88
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法務部は20代後半から30代前半を中心に約20名の陣容。信託銀行の法務業務経験者は少ないため、若いうちにキャリアチェンジして入社し、スキルを磨くケースが多い

法務部は20代後半から30代前半を中心に約20名の陣容。信託銀行の法務業務経験者は少ないため、若いうちにキャリアチェンジして入社し、スキルを磨くケースが多い

THE LEGAL DEPARTMENT

#149

三菱UFJ信託銀行株式会社 法務部

広範な銀行・信託業務をサポート。事業部を兼務して伴走する法務部

各事業部の企画セクションを兼務

社会構造が大きく変わりつつあるなかで、信託銀行が担う役割が注目されている。信託銀行とは、通常の銀行業務に加え、個人や企業が保有する財産を信託財産として受託し、その管理・運用を行う信託業務、遺言の保管や執行、遺産整理などの相続関連業務、企業の株主名簿の管理といった証券代行業務、不動産売買仲介・鑑定など不動産関連業務からなる併営業務を行う金融機関である。
三菱UFJ信託銀行に法務部が設立されたのは2019年。従前のコンプライアンス統括部法務室から“一つの部”として独立したかたちだ。法務部長の内田博基氏は、独立の背景について次のように語った。
「金融機関は規制業種なので、“コンプライアンス”と聞くと問題点の指摘であったり、ややもするとブレーキをかける役割のイメージが強いように社内で受け止められていた部分があったかと思います。そのなかの法務室でしたから、社内からは気軽に相談しづらい雰囲気を持たれていたかもしれません。しかし、法務の本来の役割は、当社が新しい事業領域に進出するにあたり、法律に照らして問題がないかどうかをチェックしつつ、事業を前に進めること。そんな法務の立ち位置を明確にするため、コンプライアンス統括部から切り離して、法務部が設立されました」
こうして設立された同社法務部の最大の特徴は、同部のメンバーが、人事発令に基づき各事業部門の企画セクションを兼務していることだ。それぞれの現場で日々生じる法律関連の相談に応じるとともに、兼務先の事業部門の会議に出席するなどして現場との距離を縮め、新商品開発や新規事業の推進に、必要な法的アドバイスを行っている。

ビジネスの現場に伴走できるやりがい

同部は、具体的にどのように、“現場の業務”に携わっているのか――。法務グループ課長の赤尾進一郎氏は、同社が行ったM&Aに従事した経験を次のように語る。
「23年12月に発表された、オーストラリアのリンク・アドミニストレーション・ホールディングスの買収案件が一例です。当社としては2番目の大規模案件でした。法務部は秘密保持契約のチェックといった上流段階から入り、『どのような相手か』『実際に買収に至りそうか』など、事業部の担当者と入念にコミュニケーションをとって情報収集しつつ、買収先が日本の銀行法に抵触しないかなども併せて確認していきました。当社で培ってきたリーガルプロフェッショナルとしての知見、規制当局や外部法律事務所の弁護士など社外のリレーションも生かして、『ここまでなら大丈夫』『ここは当局に確認しましょう』といった様々なアドバイスも。私たちがビジネスに伴走することで、事業部の担当者は安心できますし、私自身も法務部を兼任しつつ、事業部の一員として会社に貢献できていることを実感できました。これこそが、インハウスローヤーとしての醍醐味だと思います」
また、上級調査役の海瀬美里氏は、担当部門の新商品の開発案件に携わった経験がある。
「本来、信託業務でかかわりを持つことが多い官庁は金融庁ですが、新商品の内容によっては、従来は接点のなかった法令についての分析や検討も必要となり、そのような法令を所管する省庁にも関係性を広げていけることは、当社事業の面白さだと思います。新商品開発の際にはほかにも、法務省、国土交通省、総務省など、省庁横断で対応が必要なケースも。私たち法務部が主体的に論点を整理し、照会を行い、その知見を蓄積しつつ事業部に還元する――そうした面でも事業推進に寄与できていると思います」
法務部の業務には、避けられないトラブルによる、紛争対応もある。しかし、法務部が事業部を兼務することで、トラブルが顕在化する前段階で、早期に問題を察知し、対応することができる。兼務による現場との協働が、メンバー本人に仕事のやりがいをもたらすことはもちろん、部としての責務であるリスク回避にも大いに役立っている。

信託銀行の法務は多様な活躍ができる

今後、信託銀行は、どのような課題に直面していくと考えられるのか、内田氏に聞いた。
「各事業部門で、様々な課題を抱えています。例えばリテール部門なら、超高齢社会への対応です。特に信託銀行のお客さまは高齢の方が多く、なかには認知症を患っている方もいらっしゃいますが、そういったお客さまに対してどういうサービスが提供できるかという問題は、無視できないものがあります。また、受託財産事業では、資産運用と管理機能の底上げとグローバル化を進めるべく、積極的なM&Aの必要性が高まっています。合従連衡を広げ、日本を代表する資産運用・管理会社をつくり上げるうえで、信託銀行を切り離すことはできません。さらに、法人事業においてはESG対応の分野で、再生エネルギーファンドの組成や小口化販売に携わるケースが増えています。特に信託法の改正によって信託財産の制限が緩和され、様々な対象物を信託できるようになりました。そのなかで、何ができて何ができないのかを見極めるうえでも、法務の重要性が一層高まっているのです」
社会構造が変化するなか、信託銀行が担う役割は多様化しており、それに伴って法務に求められる役割も、人材需要も、高まっている。では、同部ではどのような法務人材が活躍できるのか。
「法務スキルを有することは前提として、求められるのは、何よりもコミュニケーション力と、現場での対応力です。法律面に照らし合わせてどうかという点をしっかり説明できるのは当たり前として、例えば現場が推進しようとしているプロジェクトの中身を精査し、法的問題点を見抜き、しっかりと止めるべき時は止める。なおかつ、無駄な対立を引き起こすことなく、相手にきちんと事情を説明し、納得してもらえるよう説得する。このような能力を兼ね備えている法務人材が、当部の仕事に適していると思います」
また、前述の買収案件のとおり、同社では、海外で手がける資産運用・管理業務の拡大をにらんでいる。
「事業部では、海外駐在で日本人が海外拠点に配置されており、その人たちを通じて、日本語での一定程度の意思疎通は行えます。しかし、日本語に精通していない現地社員にも法務からのメッセージを正しく伝える必要があるため、現地の法務セクションに対しては、東京にいる私たち法務部がダイレクトカンバセーションで情報伝達しています。特に、海外における受託財産事業の拡大を鑑みると、英文契約書はもとより、会議での英会話力は、今後ますます求められていくでしょう」(内田氏)
「とはいえ、英語が必要な社内会議では、AI翻訳機能を活用するメンバーもいます。また、誰でも受講できる当社の英語学習プログラムを受講するメンバーも。意欲さえあれば、英語力を向上できる機会やツールがたくさんあるので、メンバーにはぜひ活用してほしいと伝えています」(赤尾氏)
兼務など実務経験によって得てきた法務の知見は、DX推進のもと、リーガルテックなどを活用して蓄積している。そのナレッジを適切な場面で事業部と共有するといったナレッジマネジメントが、部の独立から5年目で徐々に機能し始めている。
「そうしたなか、私がメンバーに期待するのは“クライアントから感謝される存在になる”ことです。私たちの第一のクライアントは事業部のメンバー。彼らがプロジェクトを進めるにあたり、法務部の知見が役に立ったと思ってくれて、感謝してもらえることが、モチベーションの源泉です。また、テレワークが当たり前になった今、部内のメンバーがお互いに、当社が掲げる『Thanks and Praise』(日常業務で誰かにしてもらったことに対して率直に感謝の意を表する)を、伝えていける風土であり続けたいですね」(内田氏)
また、「経営に寄り添い、事業の方向性を助言できる経営法務人材を育成していきたい」と語る内田氏。信託銀行の法務部には、未開拓の余地が、まだたくさんある。エキサイティングな仕事との出合いが期待できそうだ。