Vol.93
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政策渉外・法務本部は、「CELA」と呼ばれるグローバルの組織の日本部門で、約10名が所属。法務部のメンバーは、全員が日米弁護士資格を有する

政策渉外・法務本部は、「CELA」と呼ばれるグローバルの組織の日本部門で、約10名が所属。法務部のメンバーは、全員が日米弁護士資格を有する

THE LEGAL DEPARTMENT

#163

日本マイクロソフト株式会社 政策渉外・法務本部 法務部

生成AIの推進など、テクノロジーとビジネスモデル変革の最前線で事業を牽引

ビジネス変遷とともに進化してきた法務業務

世界を代表するIT企業として、創業50周年を迎えたMicrosoftCorporation。日本マイクロソフトは、同社初の海外拠点として、47年間、国内で事業を展開してきた。その歩みの背景には、テクノロジーの進化とともに高度化・複雑化するビジネスを法的側面から支えてきた法務の貢献がある。AIやクラウドといった新たな領域をめぐる法的課題が日々頻出するなかで、政策渉外・法務本部は、事業とどう向き合い、どのような役割を果たしているのか。まず、法務部長の小川綾氏が、組織体制について説明してくれた。

「政策渉外・法務本部は、グローバルな組織である『Corporate,External and Legal Affairs(CELA/セラ)』の日本チームで、法務、政策渉外、コンプライアンス、社会貢献活動など多岐にわたる業務を担っています。法務部である私たちは、お客さまと契約関係を結ぶためのサポート――契約書レビュー、契約に伴う法的リスク評価、契約条件の交渉支援、契約締結に必要な社内承認プロセスのサポートを主に担当しています」

その業務内容は、同社のビジネスモデルの変遷とともに常に進化を求められてきた。2007年入社の中島麻里氏は、こう話す。

「私が入社した頃のMicrosoftは、WindowsやOfficeなどのソフトウェアのパッケージ販売がビジネスの主軸で、日常的な業務は、主に社内関係者から依頼された契約レビューや助言対応でした。その後、Microsoftのビジネスモデルは大きく変化し、パッケージソフトウェアの販売から、クラウドサービスの提供へと主軸が変化しました。クラウドサービスという事業形態が登場したことで、法務にも新たな役割が求められるようになりました。例えば、法務が積極的に、顧客に対してMicrosoftのクラウドサービスの信頼醸成に資するコミュニケーションを行うなどがあげられます。こうした変化に伴い、社内からの問い合わせを待つだけではなく、より能動的に事業部門と連携し、必要に応じてお客さまとの商談に同行するなど〝現場〟に立つ機会が増えていきました。自社のビジネスの変化に応じるかたちで、法務の業務スタイルも変化してきたと感じています」

現在、同社の事業領域は3つの主な事業軸で展開している。生成AIツールも含む「Microsoft 365」など、生産性を向上する製品やサービス群、セキュリティやデータプラットフォーム、サーバー製品などのインテリジェント クラウド群、「Surface」や ゲーミングなどの個人向けデバイスサービス群だ。いずれも〝技術の進化に法律が追いついていない〟とされる領域であり、法的枠組みが未整備、または流動的な状況にある。そんな環境下で法務部メンバーは、契約レビューにとどまらず、事業部門と連携しながら「どのように事業を進めるべきか」を主体的に考え、リスクを適切に管理しつつ、事業推進に向けた判断を行っている。変化するビジネスに対して、柔軟かつ戦略的に寄り添う。それがメンバーの仕事に対する基本姿勢だ。

日本マイクロソフト株式会社
“コラボレーション”も重視するカルチャーの一つ。「最先端技術など、興味を持って尋ねれば、関連部署の社員が詳しく教えてくれる環境です」と、中島氏

生成AIの活用を法務視点で強力に支援

「会社のビジネスプライオリティはだいたい3年単位で変わっていくので、仕事に飽きることがない」と中島氏は語る。法務部が今、注力しているのは技術革新の最前線に立つ生成AIツール「Microsoft365 Copilot」(以下、Copilot)に関する法務業務だ。小川氏は、こう振り返る。

「私が入社したのは23年1月ですが、最終面接は22年9月でした。面談で、ビジネスに即応し、事業部門と連携して柔軟に動く法務のあり方が求められていることを聞き、自身の経験を生かせると考えて入社を決意。しかし、数カ月後の入社時には生成AI技術が急速に普及し、社会全体で大きな変化が起きていました。Microsoftでも、生成AIソリューションの展開が本格化しており、法務部門には『責任あるAI』の考え方をお客さまに適切に伝え、理解を促進する役割が求められることに。結果、私も、面接時には予想していなかった、日本市場における『責任あるAI』キャンペーンの統括、お客さまへの理解促進活動に、入社早々取り組むことになりました」

Microsoftが外部に向けて発信する「責任あるAI」は、公平性、信頼性と安全性、プライバシーとセキュリティ、包括性、透明性、説明責任という6つの原則からなる。これらは、顧客が安心して同社のAIソリューションを採用し、社内外への説明責任や規制リスクへの対応をスムーズに進めていくためのよりどころとなっている。

「お客さまの多くは、『生成AIを活用すべき』と感じる一方で、『リスクがありそうで不安』と懸念されています。そうしたなか、Microsoftのプロダクトがプライバシーやセキュリティといった観点をどのように考慮して設計・開発されているかをきちんとご説明することが、ビジネスの信頼性を支える重要な役割になります。この活動自体がMicrosoftのビジネスの強みの一つとなって、製品選定時の競争力につながっていると自負しています」(小川氏)

梶元孝太郎氏は、こう補足する。

「実際に生成AIを活用しようとする際には、お客さまが法的な懸念を感じることもあり、その場合は私たちがご説明に伺うことも多々あります。最も重要なのは法務部からも主体的に情報を発信し、Microsoftが提供するサービスが十分に信頼に足るものであることを積極的に示していくこと。こうした対外的な情報発信活動も、法務チームの重要な業務の一つです」

小川氏は現在、新たなミッションを遂行中だ。

「『責任あるAI』の推進を引き続き重要テーマとしつつ、法律業界での生成AIの活用推進にも注力しているところです。特に、生成AIを活用したAIアシスタントの『Copilot』を法務部門や法律事務所の法律業務に活用するメリットを丁寧に伝えていく、というアンバサダー的な活動に多くの時間を割いています。一般的にイメージされる法務部の業務とはおそらく異なり、Copilotを私たち自身がどう活用しているかを生の声として共有することで、Microsoftのビジネスを後押しするという〝カスタマーゼロ〟としての取り組みにも注力しています」(小川氏)

独自のカルチャーが働きやすさの源

同本部でも「Copilot」を23年10月から導入し、日常業務で活用している。「議事録・議事メモの作成・共有や英文を含めた外国語の契約書レビュー、各国法制度の情報収集など、多様な場面で活用しています。まるでもう一人の自分がいる感覚です」と、梶元氏。

「Copilotを活用することの意義は大きく2つあると考えます。一つは、私自身が担える業務の幅が広がり、法務の専門家として発揮できるパフォーマンスが向上していることです。もう一つは、新しいテクノロジーを理解できることです。例えば、お客さまが弊社製品を利用いただく際には、お客さま側の法務部門が、法的観点で当該製品をチェックされるケースがあります。新しいテクノロジーは、様々な法的リスクや課題の〝種〟になり得るのも事実です。この時に重要なのは、テクノロジーへの正確な理解です。理解が不十分だと、過度に保守的な判断をしてしまったり、逆に重大なリスクを見落としてしまったりするおそれがあります。正しいリスク認識を持つためには、技術をよく知ることが不可欠。その意味でも、まず私たちがこうした環境で、最新のテクノロジーを自ら活用しながら、それに対して適切な法的分析を加えていくことは非常に重要であると考えています」(梶元氏)

こうした最新のテクノロジーを法務業務に活用することなどについて、3人は「単純に、自社の〝新しい技術を楽しむ〟という風土が醸成されています」と話す。

「当社には、『Growth Mindset』――学び続ける集団という考え方がカルチャーとして浸透していて、『仮に失敗しても、そこから何を学ぶか』が重視されます。事業環境の変化に応じて、自分自身で、できること・役割を見つけていくことも大切ですが、会社から『これをやってみて』と言われる場合もあります。私は、前職が金融機関で、IT業界は初経験でしたが、だからといって『すごく苦労した』という実感がありません。そのように、経験したことのない仕事であっても、『Growth Mindset』の考え方のおかげで、臆することなくワクワクしながら挑戦できる――これが、いつでも私たちが成長しながら、楽しく働ける理由だと思っています」(小川氏)