Vol.83
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法務部は17名の陣容(海外駐在者や知的財産部兼務を含む)。うち有資格者は4名。入社後、法科大学院に入り直し、司法試験に合格して同社に復職したメンバーもいる

法務部は17名の陣容(海外駐在者や知的財産部兼務を含む)。うち有資格者は4名。入社後、法科大学院に入り直し、司法試験に合格して同社に復職したメンバーもいる

THE LEGAL DEPARTMENT

#131

古河電気工業株式会社 リスクマネジメント本部 法務部

グローバルかつ多様な事業領域で法務としての創造力・実行力の発揮を促す

得意・経験を生かし幅広い業務に関与

1884年創業の古河電気工業株式会社。メタル、ポリマー、フォトニクス、高周波の4つの技術力を核として、情報通信、エネルギーなどのインフラ分野、自動車部品分野、エレクトロニクス分野などの事業分野で、技術・製品・サービスをグローバル展開する。

同社法務部は、法務課と文書課の2つの課で構成。法務課は契約審査・契約書作成・交渉支援、債権保全・回収支援、新会社設立、M&Aなど各種プロジェクト支援、訴訟・紛争対応、独禁法(競争法)関連対応、各種法務相談対応などを担当する。文書課は、コーポレートガバナンス(以下CG)関連業務を行う。株主総会・取締役会・経営会議などの事務局運営のほか、CGコード対応の検討・各部門の施策のとりまとめも行う。

「株主総会、取締役会、経営会議のすべての事務局を法務部が中心となって担当する点が、特徴といえるかもしれません。また、CGに対する要請は、CGコード導入以降年々高まっており、社内の関係部署との連携も強化しています」と話すのは、法務部部長の豊泉健二氏。グループ法務という意味では、上場子会社を含む国内子会社3社と海外子会社2社が法務機能を有している。子会社の法務案件や、グループ全体でのコンプライアンス上の施策について連携するため、日常的な情報交換も頻繁に行われている。

「当社は事業部門制をとっていますが、法務部では事業部門ごと、あるいは国内・海外担当など縦割りの担当制にはしておりません。各自の業務分量、得意・経験分野に応じて、つどアサインし、案件の内容によってはベテランと若手が組んで対応します。文書課の業務も、社内の意思決定にかかわる業務、他部門と連携して行う開示関連業務などを中心に、複数の部員で対応できるよう横断的に進めています」

  • 古河電気工業株式会社
    本社オフィスは東京大手町・常盤橋タワー。ライブラリ、シアター、カフェバーなどを備えたコミュニケーションスペース「Palette」があり、社員は社内外の気軽な打ち合わせやリフレッシュに活用。執務スペースではフリーアドレス制を採用している。
  • 古河電気工業株式会社

事業をけん引、経営に寄与する仕事を経験

同部のミッションについて、豊泉氏にうかがった。

「当社の事業展開領域は、国内、アジア、中国、米州、欧州と全世界にわたっており、海底に数百キロメートルの電力ケーブルを敷く大規模事業から、ミクロレベルの機器・製品の製造・販売まで多種多様。これにかかる法的リスクも国や地域、製品分野によって様々です。そうした事業環境を踏まえた、事業推進上のリーガルリスクの予防・低減が重要なミッションです。また、会社経営や事業推進においては、適切な企業統治とステークホルダーからの支持・信頼が必要不可欠なため、これをしっかりと支えるCG体制を充実・強化させています」

法務課課長の本多永正氏は、「攻めと守りの法務の両方を行い、経営層・事業部門から信頼されるパートナーでありたい」と、力を込める。その際のコミュニケーションの大切さについて話すのは、文書課課長の逆瀬川美佳氏。

「CGを担う私たちの重要な役割は、役員が適切に経営判断するための環境整備です。社会動向、法令、他社状況などを鳥瞰し、社内関係者への説明では『法律としてはこうです』『役員がこう言っているからです』ではなく、事業の前進を前提に取り組みます。本部スタッフとして事業推進メンバーの一員の意識をもち、業務に取り組むことを心掛けています」

同部が関与した印象に残る案件を、本多氏が教えてくれた。

「米国通信機器関連大手のルーセント・テクノロジー社から光ファイバー事業を2000億円超で買収しました。ルーセント社は世界の光ファイバーメーカーの二大巨頭の一社で、日本のメーカーはその後塵を拝していたというのが当時の構図で、グローバル市場でのシェア獲得を目指したプロジェクトでした。私は当時アメリカに長期出張していたのですが、その最中に『9・11』の発生、金融環境の悪化など想定外の困難も多々あって日程が延期に……。しかし多くの弁護士と協働し、クロージングにこぎつけることができました」

全社的プロジェクトにもかかわらず「若いうちから大きな仕事を任せてくれる環境」だとわかる。

続いて、逆瀬川氏は、同部の大きな成果の例として、CGコード導入後の取締役会における実効性評価を挙げる。

「毎年、取締役会を構成する全取締役・監査役にアンケートを行い、アンケート回答のより深い理解のため、取締役会議長による全取締役・監査役への個別インタビューも実施します。これらをもとに、取締役会で実効性の評価・分析や改善施策を議論、策定し、評価結果の概要を開示する。これが当社の実効性評価の進め方です。CGコード導入当初、実効性評価を実施する企業はまだ少なかったため、試行錯誤しながら取り組みました。その評価方法や実行内容、開示内容が仔細かつ先進的であるとメディアでも取り上げられ、高く評価いただきました。法務部員としての創造力を十分に発揮できた仕事だと思います」

「多くの企業から注目され、同評価実施が普及・浸透していくうえでベンチマーク的な役割を果たせたのだと思います」(豊泉氏)

“最後の砦”の自覚を持ち、自分を高める

新型コロナ禍以降、テレワークを取り入れたハイブリッドな働き方を推進している同社。フレックスタイム制では“コアタイム1時間”が設定されており、「育児・家事などプライベートと仕事の両立がしやすい」と、本多氏と逆瀬川氏は声を揃える。ちなみに、「育児休暇の取得も推奨しており、当部の男性メンバーも数カ月取得しています」と豊泉氏。

加えて、出勤回数が減っても必要な法務関係の専門書を自宅で読めるようにと、「電子ライブラリ」などのリーガルテックを積極的に導入し、さらなる業務環境改善に力を入れている。

同部の展望について、豊泉氏は次のように話す。

「大きな課題として、当社の中期経営計画に掲げた事業ポートフォリオの最適化や社会課題解決のための新規事業創出などの実現・達成のために、法務サービスとCGの両面でリソースを確保し、法的側面からしっかり支えていかねばなりません。また事業のグローバル化に伴い、法務としても体制の強化を進めています。グローバル法務人材の育成はもちろん、海外子会社の法務機能を増強することで、ワンストップで法務サービスを提供できるようにしていきたいと考えています」

事業部サイドから法務部への期待が高まり、社会環境とともに求められる仕事が変化するなか、組織力強化のため、法務人材の採用・育成計画を着々と進めている。

「各自の経験やスキルを踏まえつつ、幅広い業務をアサインすることで、メンバーには入社後のステップアップの機会を均等に用意していきたい」と、豊泉氏。

「部・課の組織の規模感がほどよい感じですし、何より、役員との距離の近さが魅力です。株主総会や取締役会などで役員と接する場面も多いため、実際に従業員に届けられるメッセージ以外のことも直に聞いたり肌で感じたりすることができます。そうやって知り得たことを社内にどう伝え、つなげていくかを考えることが面白いです」(逆瀬川氏)

「グローバルかつ幅広い事業領域で、ビジネスの“川上から川下まで”携われるのが、当部の仕事の魅力です。リスクの検討や業務遂行上の判断に当たっては、法務が“最後の砦”と見られているため、専門知識に裏打ちされた高い信頼性と豊かな人間性が必要になります。そのために、仕事においても対人スキルの向上においても日々の研鑽が欠かせませんが、『それこそが、やりがい』と、各メンバーに捉えてもらえると嬉しいですね」(豊泉氏)

※取材に際しては撮影時のみマスクを外していただきました。