Vol.94
HOME法務最前線ユニ・チャーム株式会社
  • ▼弁護士のブランディング支援サービス

    Business Lawyer's Marketing Service
  • ▼弁護士向け求人検索サービス

    想いを仕事にかえていく 弁護士転職.JP
  • ▼弁護士のキャリア形成支援サービス

    弁護士キャリアコンシェルジュ
  • 当社サービス・ビジネス全般に関するお問い合わせ

法務部には8名が在籍。「日々変化する環境に興味を持ち、現状に安住せず、新しいことを追い続ける姿勢――そうした柔軟で前向きな発想を持つメンバーが集まっています」(島田氏)

法務部には8名が在籍。「日々変化する環境に興味を持ち、現状に安住せず、新しいことを追い続ける姿勢――そうした柔軟で前向きな発想を持つメンバーが集まっています」(島田氏)

THE LEGAL DEPARTMENT

#167

ユニ・チャーム株式会社 法務部

“衛生用品のフロントランナー”の気概で、事業の意思決定スピードの加速を支援する

〝戦略立案力と実行力〟を誇る法務部

1961年、愛媛県で創業したユニ・チャーム株式会社は、生理用品の製造からスタートし、育児・介護、ペットケアなど人々の多様なライフステージに寄り添う商品・サービスを展開し、〝共生社会〟の実現を目指しながら、時代とともに進化を続けてきた企業である。法務部担当役員の島田弘達は、「私たちの強みは〝戦略立案力と実行力〟」と言う。

「当社は『2030年までに不織布・吸収体事業で世界一になる』という目標を掲げています。この達成に向け、バックキャスティングで中期経営計画を策定・実行しています。計画には人的資本経営など5つの重点戦略が定められていますが、国内外のグループ会社が、それぞれの立場で当該戦略をどのように実現していくか検討します。そのうえで、部門単位だけでなく、社員一人ひとりにも戦略立案を求めているのです」

同社では、戦略の実行にあたり「OODA(ウーダ)ループ」――変化の激しい状況下でもすばやく判断し、停滞せず行動を繰り返すことを重視した実行フレームワーク―― を採用する。社員はこれを活用し、半期ごとの個人戦略に基づき、週次で進捗や方向性を見直しながら日々の行動計画を組み立てる。こうした取り組みを通じて、戦略の実行力を高めているのだ。

島田氏は、法務部の役割について、次のように語る。

「法務部もまた、衛生用品市場のフロントランナーであるという気概を持ち、リスクマネジメントとスピード感の両立を図っています。〝速さこそ最大の武器〟が全社的なモットーで、PDCAではなくOODAループを採用しているのもそのためです。法務の判断は、事業の意思決定スピードに直結する場面が数多くあります。だからこそ、私たちは〝どうすればできるのか〟を徹底的に考え、迅速に対応することで事業部門の挑戦を支える〝攻めのパートナー〟でありたいと考えています。法務部といえば、〝ブレーキを踏む存在〟と見られることもありますが、私たちは違います。事業部門に伴走し、リスクを適切に見極めながら案件を一緒に前へと進めていく。できない理由を示すのではなく、〝できる道筋を描く〟―― それが私たちのスタンスです」

  • フリーアドレス、フレックスタイム(コアタイムなし)、リモートワークなど、2019年の法改正による勤務間インターバル制度も導入済み。柔軟に働くための制度が整う
  • オフィスは2023年3月竣工の42階建てビル上階入居。
    受付フロアや執務スペースから、東京タワーや東京湾などを一望できる、開放感溢れるオフィス空間だ

全社プロジェクトを法務部が主導する

〝戦略立案力と実行力〟を示す具体例として、生成AI活用の取り組みが挙げられる。平林杏梨氏は、そのプロセスを次のように語る。

「23年4月、社員専用生成AI環境『Uni Chat』を開発・導入する方針が決まりました。これに先立ちDX推進本部と連携のうえ、法務部主導で一般公開版Chat GTPの業務利用に関するルール整備に取り組みました。生成AIの基礎知識、契約の注意事項、秘密情報・個人情報・著作権などの論点を整理し、社内に発信することで、リテラシーの向上を図りました。Uni Chat導入時には、和文・英文の利用条件を策定。国内外展開を前提に、リスクと実用性のバランスを考慮した利用条件になるよう注力しました」

第2段階では、部門専用AIの開発にあたり、法務部自らが〝パイロット部門〟として名乗りを上げた。日々寄せられる初歩的な問い合わせが業務を圧迫していたため、過去の質問データを活用し、簡易な法務相談に限定した生成AIの実装を決定。学習用データのクレンジングやマスキングを丁寧に行い、データ整備ルールも策定し、PoC段階で正答率90%超、問い合わせ件数は最大97%削減。わずか2カ月で、人事総務、経理財務、情報システム部門など他部門への横展開も実現している。

「法務部では〝いつでも・どこでも・だれでも、必要な時に法務情報へアクセスできる〟環境づくりを目指し、今後も対応範囲の拡大と精度向上に取り組んでいきます」(平林氏)

最終段階では、DX推進本部、知的財産本部、情報セキュリティ委員会と連携し、生成AI全般に関する社内ガイドラインを策定・発信。画像生成AIの導入に向けた条件見直しや、業務委託先によるAI活用など新たな課題への対応も進めている。

もう一つの例は、紛争・インシデント対応だ。同社が業務基盤として利用していた海外クラウドサービス運営企業から、突然契約解除の申し出を受けたことがある。提示された期限内では次期クラウドへの移行が間に合わず、業務停止のリスクが生じるうえ、そもそも移行には相手企業の技術的協力が不可欠。そこで法務部はDX推進部門などと連携して、延長交渉と移行支援、投資済みコストに対する求償も並行して進めた。最終的に相応な賠償金を確保し、業務停止を回避しながらシステム移行を完了。平林氏は、「相手企業の協力を引き出しつつ、損害賠償も求める難易度の高い交渉でしたが、法務部が前線に立ち、無事に合意に至りました。公にはならない、法務の重要な役割を果たせた案件でした」と振り返る。こうしたインシデント対応においても、〝戦略立案力と実行力〟を実行できるのが同部の底力といえるだろう。

同社商品は、衛生用品を通じて“人々の快適で清潔な暮らし”を支え、赤ちゃんから高齢者、そしてペットまで、すべての世代のQOL向上と、社会の衛生環境の改善、社会的な課題の解決に貢献する

経営に資するための体制づくりに乗り出す

25年6月、同社は大手総合商社と協働し、ケニアにおける衛生用品の現地製造・販売を目的とした合弁会社の設立を決定。アフリカ地域の女性が直面する衛生・教育・就業に関する課題解決を目指し、衛生用品の普及に併せ、女性のエンパワーメント支援を図る目的がある。こうした社会課題の解決に取り組む同社でのやりがいを、平林氏は、こう語る。

「紛争やインシデント対応も大切ですが、やはり自分がかかわった商品やサービスがリリースされる瞬間にやりがいを感じます。担当者に目的や目標をヒアリングするなかで、『この商品で世界を変えたい』『お客さまの不快・不便・不衛生を解消し、喜びや夢の実現に貢献したい』という〝本気〟に触れるたび、背筋が伸びる思いです。手軽で小さな商品であっても、女性の社会進出などの環境や価値観を変化させ、ひいては社会そのものを動かす力がある――そう信じて、多様な案件に取り組んでいます」

下江成明法務部長は、これからの法務部のあり方を、こう語る。

「契約書を扱わない部門はないため、法務部は全社とかかわりを持ち、情報の流れを把握できる非常に重要な部署です。ビジネスを推進するうえで私がメンバーに最も大切にしてほしいのは〝想像力〟。現場とコミュニケーションを密に取り、ビジネスの先を想像し、時に〝ギリギリの判断〟も辞さない姿勢です。現在、業務フローを大きく見直しており、〝単純化、標準化、専門化〟の3つの観点で改善を進めています。単純化では、不要な工程を徹底的に省く。標準化では、生成AIなどの活用も見据え、属人化したやり方を統一し、誰でも同じ品質で対応できる体制を整える。専門化では、社内で担うべき業務と外部に委託できる業務を切り分け、積極的にアウトソースを活用する。これらを通じて契約関連業務の半減を目指します」

業務を効率化した先で、法務部の使命はどう変化していくのか。「各国のリーガル担当と連携し、法規制や制度の変化――例えばCSDDDのような海外の動きもいち早く察知できるグローバルな〝リーガルインテリジェンス部隊〟を組成し、主軸を担っていきたいと思っています。経営に評価される法務部とは、リスクを予測・想像し、経営課題へと昇華させて提案できる存在。〝社長の右腕〟となる法務部を目指し、ガバナンスやESG部門などのスペシャリストとの連携を実現したい。まだ時間はかかりますが、そのように経営に寄与できる体制を構築していきたいと考えています」(下江氏)