弁護士として、元々かなり広範囲の事件を担当していました。医療過誤、行政訴訟、大型倒産、知財訴訟、もちろん交通事故や債務整理、離婚、相続なども。今も地方の“町弁”らしい業務を続けていますが、ライフワークである防災支援活動に時間を確保したくて、刑事事件や離婚事件など原則扱わなくなった分野もいくつかあります。現在は、顧問先企業の案件やそのご紹介案件、交通事故や倒産事件などを中心に取り扱っています。1年間で見ると、防災支援というライフワークが本業を大きく上回る時期と、本業のほうが忙しい時期がありますね。
防災支援活動を始めてから、毎年毎年、新しい出会い、経験、展開があり、感動をもらっています。ですが、もしも僕一人の事務所だったら、防災支援というライフワークは続けられなかったと思います。ですから、所属している事務所の仲間には心から感謝しています。事務所に顔を出すと、ボス弁からは「お、久しぶり」とからかわれますが、ボス自身、僕が執筆した津波避難の本を100冊も買って、学校などに寄付してくれました。ちなみに、防災支援活動への影響を考えて、本業のご依頼をお断りすることもあります。そんな時に助けてくれるのも、事務所の同僚弁護士たち。彼らは、僕にとってかけがえのない相談相手であり、信頼できる頼もしい仲間です。そうやって防災支援に没頭していると、毎年決まった時期に「今年の収入は大丈夫だろうか」と正直不安になります(笑)。しかし、仲間や顧問先にも支援をいただき、本業とライフワークの両立を続けることができています。
「法律が読める」「難しい情報の交通整理ができる」「行政との交渉ができる」「日頃から困っている人の相談に乗っている(慣れている)」「初めての場所でも(弁護士という肩書で)信頼してもらえる」「様々なセクターの人脈が豊富」「自分の時間を確保しやすい」「訴訟になったらどうなるかを知っている」など、どの観点で見ても弁護士以上の被災地支援の適任者はいないと思います。また、関与の仕方も、弁護士それぞれの想像力で無限に広がるはずです。いずれにせよ、被災されて困っている人にとって、「困ったら相談できる、頼りになる身近な親戚」くらいの立ち位置になれたらと思いますし、そのように弁護士と市民との距離をどんどん縮めることが大切。僕自身、被災者支援・防災支援活動を継続しながら、常にその思いを持っています。日本弁護士連合会災害復興支援委員会委員長を務めた、尊敬する永井幸寿弁護士のつくった標語で、「災害復興支援は、明るく、楽しく、しつこく」というものがあります。本当にそのとおりだなと。僕が開発して提供するすごろくなどのツールも、「明るく、楽しく」が根底にあってできたものだということを、あらためて感じます。
僕は、他人ができることなら他人がやればいい、より得意な人がいるならその人がやればいいという考えを昔から持っています。刑事事件や離婚事件は僕より得意な人がいるのだから、その人が極めていけばいい、そう思います。だから、「自分にしかできないことか」「自分が本当にやりたいことか」「自分らしい視点を持っているか」は常に意識しています。本当にやりたいこと、自分らしいことを続けていると、自然と自分に合ったご縁や“流れ”が生まれるので、それにしっかりと乗る。僕の場合は、好きなことや自分にしかできないことの一つが、津波防災をはじめとする防災支援・被災者支援活動でした。好きに優る力はありません。好きなことだから、他人の何倍も頑張れるし、考えるし、行動できる。本業であれライフワークであれ、自分の「好き、楽しい、やりたい」が見つかって打ち込める――最高に幸せな弁護士人生を送れていることに感謝しています。
※取材に際しては撮影時のみマスクを外していただきました。