法務の役割を「関係者と担当部門の橋渡し」と表現した海東氏。その内容を具体的に説明していただいた。
「私たちのビジネスでは、事業計画地の近隣に居住する皆さんから理解を得ることがきわめて大切です。そのため渉外部門が窓口となり、地元への説明会や話し合いを行いますが、法務はさまざまな権利関係の調整に関して、民法の相隣関係や日照権など法的アドバイスによって側面からサポートしています。また個別の交渉などで法律に関する説明が必要な場合や、お客さまから要望があるときは自ら説明・調整の場に同席するので、エンドユーザーのお客さまからいただいた課題を渉外部門にフィードバックすることも少なくありません。このように外部と社内部門の橋渡しをすることも法務の役割の一つです。連携する部署としては、新規事業用地取得の際に必ずリーガルチェックを実施する開発部門、エンドユーザーのお客さまからお問い合わせが多いアフターサービス部門などがあります。私たちの折衝のなかには、法律だけに頼っていると解決できないものもあり、ときには担当者のキャラクターや関係当事者との信頼関係が解決に大きく影響するのです。法務は、法律はもちろん担当者の交渉力やスタイルも上手に把握しながら、事案ごとに柔軟に解決方法を見いだしています」
それらの法務業務を行うにあたり、難しさを感じるのは、どんな点なのか。
「私の経験では、土地売買の契約が履行されなかった二つの事案が印象に残っています。一つは不動産会社が当社に土地を売った後、ほかのデベロッパーに二重売買したケース。これは問題発生当初から弁護士と連携して、満足のいく解決が図れました。もう一つのケースは個人の地主が当社に土地を売った後、トラブルが起きて契約が不履行になったもの。こちらは目指した解決には至りませんでした。なぜ同様の二つの事案で違う結果になったか振り返ると、後者は関係当事者が複雑化したこともあって、対応方針や状況が二転三転し、法務が経営に対し『この時点ではこれがベスト』というタイムリーな提言ができなかったのです。このように類似案件でもそれぞれに解決方法や着地点が異なり、事案に個別性が高いことが仕事の難しさだと思います。そういう課題を洗い出す目的から、今年4月に今まで扱った案件を一斉に振り返る機会をつくりました。本社スタッフはじめ各支店の部店長も一堂に会する場で『法務がどの時点でどう関与したら最善の解決が図れたか』をいくつかの案件に基づき精査。ここで抽出された課題を、これからの業務に生かしたいと考えています」
ユーザーから信頼される住宅ブランドを支えるために、法務は今後どんな点に注力していくのだろうか。
「当社の事業を近隣住民の皆様にご理解いただく説明を深化させたいと考えています。日照権・プライバシー・圧迫感・眺望・風環境など議論になることをまとめたうえで、考えうる解決策もリストアップ。問題点をあるレベルまで深化かつ類型化することで、より短期間でより良い関係が構築でき、会社の業務効率向上も図れます。案件の個別性などがネックにはなりますが、ぜひ整理したい課題です。また、紛争解決学の権威の先生を招いて、講義を受けたいとも考えています。ユーザーをはじめとしたステークホルダーが多数存在する不動産の法務において、利害衝突を上手に回避する知識・知恵はきわめて大切。体系的な理解に『裁判外紛争解決』の知識を役立てたいと思います。また、そういう講習や振り返りの機会を今後どんどん増やして、法務スタッフの知識向上を図っていきたいとも考えています」