Vol.66
HOME法務最前線明石市役所
  • ▼弁護士のブランディング支援サービス

    Business Lawyer's Marketing Service
  • ▼弁護士向け求人検索サービス

    想いを仕事にかえていく 弁護士転職.JP
  • ▼弁護士のキャリア形成支援サービス

    弁護士キャリアコンシェルジュ
  • 当社サービス・ビジネス全般に関するお問い合わせ

左から、村山由希子弁護士(63期/2014年入庁)、能登啓元弁護士(61期/2012年入庁)、青木志帆弁護士(62期/2015年入庁)

左から、村山由希子弁護士(63期/2014年入庁)、能登啓元弁護士(61期/2012年入庁)、青木志帆弁護士(62期/2015年入庁)

THE LEGAL DEPARTMENT

#90

明石市役所

弁護士職員を国内最多で採用。専門職の活用で初の施策を次々と立案・運用し、市政を変える

弁護士が活躍!行政サービス改革

全国113の自治体に164名の弁護士が常勤職員として所属しているが(2018年4月時点)、1自治体あたりの人数は概ね1〜2名。そうしたなか、所属弁護士数7名と、群を抜くのが明石市役所だ。11年、市長に就任した弁護士資格を持つ泉房穂氏が「地方行政の質的改革」を掲げ、一般行政職と専門職(弁護士や社会福祉士など)の協働で、市民にとってより良いサービスを提供できる体制を構築しようと、任期付弁護士職員を一挙に5名採用して端を開いた。1期生として任期付職員で入庁したのち法務職・正規職員となったのが、政策局市民相談室長を務める能登啓元弁護士だ。

「市民相談室は、市の総合相談窓口として、市民からの様々なご相談に対応しています。弁護士職員は市役所や市内3カ所にある市民センターで法律相談を担当しており、相談件数は年間400件を超えます。また相談に来るのが難しい高齢の方や障がいを持つ方には、ご自宅や病院などに出向く〝訪問相談〞も行っていて、そうした時に『福祉サービスが必要』となれば、行政職員や社会福祉士職員とも連携して対応をしています」

明石市役所では、これを「チームアプローチ・アウトリーチ・ワンストップ」と呼び、職員が一体感をもって、市民のために迅速・丁寧に対応することを心がけている。

「政策立案・運用、条例の制定改正作業も大事な仕事。離婚前後のこども養育支援、無戸籍者支援、障がい者・高齢者支援、犯罪被害者等支援、更正支援など、全国初の政策・条例を次々と打ち出しており、その際に弁護士職員が中心的役割を果たしてきました。庁内業務に関連する法律相談、訴訟対応、コンプライアンス体制の強化なども担う、やりがいのある仕事です」

明石市役所
弁護士職員は現在7名(2018年9月時点)。市民相談室、市長室、社会福祉協議会、子育て支援室、教育委員会、総務管理室、税務室などで活躍。弁護士職員仲間が多いので、日常的な相談がすぐできて、安心だという

仲間と共に挑む仕組みづくり

入庁以前は、大阪市内の法律事務所に勤務していた能登弁護士。なぜ市役所で働くことを選択したのか。

「アソシエイト時代、市・区役所で市民からの法律相談を受ける機会がありました。しかし生活保護や児童扶養手当などの行政手続に関する相談には十分に答えられず、『役所に聞いてください』と言うしかなかった。相談者がガッカリする様子を見て、『相談対応をするなら、行政内部のことをもっと知っておくべき』と考えた結果です」

そんな能登弁護士らの活躍を、明石市の説明会で知り、入庁したのが村山由希子弁護士だ。現在、市民相談室、市長室、更正支援担当を兼務する。

「法律事務所勤務の頃、離婚事件や犯罪被害事件などに関与しました。しかし弁護士が関与できるのは裁判手続など〝事後救済〞がほとんど。もっと事前に何かできないか、制度設計の部分からかかわれないかと考えていたところ、明石市の弁護士職員の活動内容を聞いて興味をもち、入庁しました」

市長室を兼務した時、新たな取り組みとして更正支援が持ち上がった。これは福祉的支援を必要とする高齢者や障がい者の再犯防止に関するもの。村山弁護士は、更正支援条例の検討をはじめ、関係機関とのネットワーク構築や継続的支援のコーディネートを行ってきた。それを共に推進した青木志帆弁護士にも、入庁の動機を聞いた。

「私は、尼崎市内の法律事務所の出身。ひまわり基金法律事務所出身のボス弁のもと、5年間務めました。私の信条は、『市民に寄り添うこと』。これを貫けるのが市役所での仕事だと考え、入庁を決意しました」

青木弁護士は入庁後、福祉局内で高齢者・障がい者福祉や生活保護などを担当する部署からの法律相談を担当。また「障害者配慮条例」など差別解消のための施策・条例の起草、条例検討会の事務局運営も行ってきた。条例運用後は、寄せられる相談を法的論点に照らし、庁内外の誰にどのように引き継ぐかのアドバイスを行うことも仕事だ。現在は社会福祉協議会に出向し、主に地域包括支援センターや明石市後見支援センターに寄せられる相談対応の〝司令塔〞的役割を果たしている。「今は、より市民に近づいた場所で仕事をしている感じです」と笑う、青木弁護士。

明石市役所にはほかに、4名の弁護士職員が在籍し、それぞれが八面六臂の活躍を見せている。たとえば、教育委員会でスクールローヤーとして、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーと共に小中学校で起こる問題に対応をする弁護士職員も。

能登弁護士に、今後の展望を聞いた。

「市民に寄り添う(相談体制の充実)、まちの未来をつくる(条例・施策づくりへの関与)、組織の襟を正す(コンプライアンス体制強化)、職員を守る(紛争・トラブル時の適切な対応)、仕事を進める(税金・保険料など債権回収の迅速化)、この5つの実現のために始まったのが明石市役所の弁護士職員採用です。弁護士が市役所で働く醍醐味は、本当に困っている方を直接救済できること、総合的な問題解決のための制度・仕組みづくりから関与できること、それにより市民の権利救済を実現していけることだと思います。弁護士の活動領域は裁判や法廷だけではありません。私たちは明石市のこうした動きを全国へ発信し、ひいては全国各地の市民が救われ、暮らしやすい社会になるよう活動していきます」

  • 明石市役所
    市民相談室長を務める能登氏。大阪市内の法律事務所勤務を経て、明石市役所に入庁
  • 明石市役所
    月1回、弁護士職員会議を実施。民法改正、判例勉強会を基本に、日々の業務の情報共有も行う(右端は、泉房穂明石市長。弁護士職員の活躍の場を広げている)