近年、大手外食チェーンなどのコンプライアンス意識の低さやレピュテーションリスクへの危機感の低さが問題となっています。法務部員が1人という飲食系上場企業もあって、「ガバナンス、コンプライアンス、権利関係の整理など、とても対応しきれない」という話も聞きます。そうした問題を解消していくには、飲食業界と弁護士をもっと近づけていく必要がある。そのために私は、ベンチャー法務や医療法務と同様、“飲食法務”という分野を確立したいと考えています。飲食業界の方に、弁護士をもっと身近な存在に感じてもらうためのエヴァンジェリスト役を果たしたいのです。
そのため様々な飲食関連の業界団体にこまめに顔を出し、弁護士会に働きかけ、FBLAの協会活動も行う。飲食業の方には、「相談があればお越しください」ではなく、フットワークよく動き、自分から店舗に出向くことを大切にしています。
顧問先からの相談電話は、閉店後の夜にかかってくることもあります。その多くは、少し話せば即解決できるような内容がほとんどです。常にタイムリー、クリティカル、ピンポイントの回答を心がけ、100点満点の正解ではなくてもその場で解決策を提示することを心がけています。ただし「まだ60点の回答です。もっと確度を高めたければ、調べる時間をください」とお伝えしたうえで。この業界は、そうしたクライアントとの綱引き、コミュニケーションがとても重要なのです。
当事務所では「24時間、回数無制限で無料相談可能」な顧問契約を用意しており、最もリーズナブルなプランで月額3万円。相談は電話やSNSツールなどを利用します。そして顧問契約を結ぶ場合、基本的には直接お訪ねし、自分の目で店舗や周辺環境などの様子を確かめるようにしています。また、完全成功報酬制の「ドタキャン回収(予約客の無断キャンセル対応)サービス」も私が最初の発案者だったと思います。そのように、価格も内容も飲食店に喜ばれるサービスを開発し、展開していけば、弁護士の仕事として成り立ちますし、飲食業側の「弁護士に頼むと高い。面倒くさい」という誤解も解けるはず。既成概念を壊し、ミスマッチをなくし、“新市場を切り拓くことが必ずできる”と信じています。
飲食店によっては、ファクスもパソコンもなく、連絡手段は電話のみ、営業時間もまちまち。24時間体制で臨まねばならない大変さはあります。“飲食専門”を掲げた当初は、同業者からも飲食業界からも「それで食っていけるの?」と心配されました(笑)。しかし、それでもなぜやるかといえば、「飲食業が大好きだから」。弁護士として業務を行っていると、基本的には、依頼者がいて、相手方がいるわけで、両方が完全に満足することは、まずありません。また、紛争の大きさ、すなわち“不幸の大きさ”で報酬が変わるということもあり、弁護士業とは因果な仕事だと思うことも多々あります。それに比べると、飲食業界はかかわるすべてのステークホルダーがハッピーになれる業界だと思うのです。たとえつらいことがあっても、お店に行けば、美味しいものを食べてスッキリして「また明日頑張ろう!」と思えるし、店側は、得意な料理とサービスを提供して利益を出せる。みんなが笑顔になれるこの業界を支援することで、弁護士である私もハッピーになれる。それが、飲食業界を支援しようと考えた一番の理由です。
飲食業界はよく、3Kがはびこる職場といわれます。実際、過重労働や平均所得の低さ、労働環境など問題がある店舗もあるでしょう。しかし、今後、AIなどITの技術が発達しても、未来永劫、きっと存在し続ける素晴らしい業界であることは間違いない。ですから“ルールのかたまり”のような私たち弁護士が、「きちんとルールを守りましょう。適法にビジネスしましょう」と飲食業界に働きかけ続けることで、産業全体における飲食業界のプレゼンスを上げていく。そして、飲食業界をなりたい職業ナンバーワンにする――それが私の使命です。
さらに、その先の目標としては、農業や漁業などの第一次産業もフォローし、“食”の商流すべてをサポートしていきたいと思っています。
※取材に関しては撮影時のみマスクを外していただきました。