Vol.89
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「弁護士として“攻めの法解釈”を学べる部局です。また、政策渉外分野のみならず、弁護士業務全般に生かせる能力が身につきます」(平池弁護士、山下弁護士)

「弁護士として“攻めの法解釈”を学べる部局です。また、政策渉外分野のみならず、弁護士業務全般に生かせる能力が身につきます」(平池弁護士、山下弁護士)

THE LEGAL DEPARTMENT

#155

内閣府 規制改革推進室

よりよい社会のためにルールを変える――。政策実現に向けて“攻めの姿勢”で挑む

関係省庁とのハードな交渉

内閣府の規制改革推進室(以下、規制室)は、規制改革推進会議の運営や規制改革ホットラインの対応、規制改革に関する企画・立案、他省庁との調整を行う部署だ。内閣総理大臣の常設諮問機関として設置される規制改革推進会議には、「公共」「スタートアップ・投資」「働き方・人への投資」「健康・医療・介護」「地域産業活性化」といった5つのワーキング・グループ(以下、WG)があり、各分野の規制のあり方についての調査・審議が行われている。同室の役割を、平池大介弁護士にうかがった。

「例えば、コロナ禍を経て隔地者間でのサービス需要は増加しています。また、少子高齢化による人手不足は深刻化していますし、インバウンド観光客の増加への対応も必要です。他方で、それらを解決するための科学技術が進歩しているなど、社会環境が急速に変化し複雑化している昨今、特定分野の制度を所管する省庁だけでは、従来の規制(法令・運用)の適切なアップデート(緩和・強化)が難しくなっています。そんな状況下、硬直化した省庁の意思決定に対する“外圧”として正しい政策実現に関与することが我々の責務と考えています。例えば、各省庁が通常意見を聴取する業界団体や職能団体以外の観点から、国民全体の利益になり得ると判断できる政策について、要望者の意見を基に議論、調整を行います」

任期付職員の山下豪弁護士が、具体的な仕事の内容について、次のように教えてくれた。

「私はスタートアップ・投資WGの事務局として、主に金融庁、法務省、経済産業省がカウンターパートとなる案件を担当しています。スタートアップを含めた企業の活動を後押し、経済を活性化させる政策の取りまとめが主業務です。企業や団体からの、『時勢に合わなくなった規制は緩和すべき』『経済活動を推進するための環境を整備すべき』といった“規制改革要望”を受け、議論の場となるWGを開催し政策として実現すべく、実務実態や法令などの調査、各方面との折衝・調整を行っています」

山下弁護士が手がけた仕事の成果として、株式報酬に関する会社法制・金融商品取引法制の見直しや、M&Aの活性化、リーガルテックの推進などが挙げられる。

「特に、AIによる契約書審査と弁護士法との関係が問題となった案件では、弁護士業の在り方を考える意義深い経験ができました」

一方、平池弁護士は、健康・医療・介護分野を担当し、オンライン診療とオンライン服薬指導の恒久化をはじめとした医療DXに取り組んだ。

「国民がオンライン診療を利用しやすくするため、制約の撤廃と診療報酬の適正化を提起しました。そのほか、医療の質向上や公益性のある創薬・感染症対策に向けた医療等データの利活用法制等の整備なども。様々な要望者・有識者、現場の方々へのヒアリングとリサーチ、議論を基に論点整理を行い、制度改革のための企画を立て、案件実現に向けて各省庁とハードな交渉・意見調整などを行う――非常にエキサイティングな仕事だと感じています」

「毎年5、6月は答申協議・答申・実施計画(閣議決定)などで忙しいですが、7、8月は比較的ゆとりがあり、まとまった休暇を取ることもできました」(平池弁護士)

ルールメイキングの最前線に立つ

平池弁護士と山下弁護士は、「業界・分野のしがらみに縛られず、この領域はこうあるべきだという主張・提案を、政府セクターのなかで力強く進められることが魅力」と言う。平池弁護士に、同室での仕事のやりがいをうかがった。

「“調べる・ロジックを整理する・資料を作成する・関係各者に説明や交渉を行う”という一連の業務に裁量が与えられます。そして、『交渉して勝ち取ってこい!』と仕事を任せてもらえ、様々な政策がかたちになった時、大きなやりがいを感じます。我々は、規制改革推進会議の構成委員である有識者の意見や担当大臣の意見を後ろ盾として各省庁と交渉を行います。自分自身の交渉によって制度自体を変えていくことは、なかなかできない経験でした。また、『社会課題を解決したい』『現状を改善したい』と努力している方々からの相談・要望に対して、『規制があるのでできません』で終わらせるのではなく、『では規制を変えないといけませんね』と選択肢を提示できることが、ここでの仕事の特徴です。頑張っている人の味方でありたいということが、私の弁護士としての原点ですので、“国民のために役立つ新しいサービス・価値を世のなかに生み出そうと努力する人たちの味方になれる”という、ここでの仕事に大変満足しています」

山下弁護士にも、ここでのやりがいを聞いてみた。

「やはり、ルールメイキングの舞台裏に携われることがこの仕事の醍醐味だと思います。例えば、規制改革要望を端緒として、立法事実を調査し、法改正というかたちにしていくダイナミズムを感じることができます。また、規制所管官庁との折衝をとおして、“霞が関”での立ち回り方を学べ、反響や報道などを通して政策実現のインパクトをダイレクトに感じることができます。また、金融や法務の案件について専門性を高められること、様々な業界のキャリア、専門を有する管理職、担当者と協働し、刺激をもらえることなども、規制室の仕事のやりがいだと思います」

平池弁護士も「規制室には、言われたことをただこなすのではなく、常にアンテナを張って問題を探し、『このルールはおかしい』と疑問を持つタイプが多い。キャリアもマインドも多様、枠にとらわれない面白い人材が揃う」と語る。

変革したいという“志”を貫く強さ

平池弁護士は現在、新規事業立ち上げに関する法務や政策法務を得意とする法律事務所に籍を置く。

「ルールの検討段階から通知や法改正までの過程を経験したことで、依頼者から『新たなサービスを考えているが、規制との関係で実現できないかもしれない』といった相談をいただいた際、どのようなスキームへ変更する必要があるか、いつどこへどのような手を打てばあるべき制度にできるかといった“勘所”が身についたことが強みになっています。法律家として、法律の見方も少し変わりました。世のなかのルールがどうなっているかではなく、どうあるべきかを考え、ルールがあるからできないではなく、ルールを変える方法もあると、依頼者にアドバイスできるようになったのは、規制室で経験を積んだおかげだと思います」

山下弁護士は、任期満了後は所属先の生命保険会社に戻る予定だ。

「私も同様に、“法律を法律家の目線で見すぎない”ということを学びました。弁護士としてリスクヘッジの感覚は大切ですが、上司からも、『規制室では、“やんちゃ”であるくらいのほうがいい』と、よく言われました。私はこの仕事を通じて、銀行、証券、保険、資金決済業など様々な金融機関、スタートアップ企業や上場企業の方々と話す機会を何度も得ました。それによって、様々な会社の動きから、経済活動を通じて社会がどのように動いていくか、リアルに感じることができました。会社に戻った際、法務のみならず、企画など業務執行の側面でも役立つ経験を積むことができたと思います」

「規制室の仕事は、個別の業法のほかに、経済法、消費者保護法、個人情報保護法、海外の法令など、様々な領域に触れるチャンスがあるので、法律家としての総合力が鍛えられる。仕事への取り組み方やスタンスが決まり切っていない若いうちに、この仕事をぜひ経験してほしい」と平池弁護士。

参事官の木尾修文氏に、規制室メンバーに必要な素養を聞いた。

「“岩盤規制”という言葉もあるとおり、所管省庁では容易に変えられない制度を変えていくのが、規制室員の仕事です。例えば、2023年秋から地域産業活性化WGで検討され、24年4月に限定解禁となったライドシェアについては、いまだ批判もあります。そうした批判があるなかでも走り続け、闘い続けなくてはならないのが我々の役割。法的な知識・素養は大切ですが、より重要なのは、社会のため、身近な誰かのために、社会を変革したいという“志”を強く持ち続けるということ。規制室には約60名が所属しており、ほとんどが別省庁か民間企業からの出向者です。行政的なノウハウ・情報を有する官僚、ビジネスに強い民間企業出身者、そこに弁護士が加わり、各自の強みを出し合ってチームワークを高め、規制改革の実現と社会変革を起こしていくことに、一丸で取り組んでいきます」