法務室は、大阪と東京の2カ所に配置されている。業務分担は、大阪が全社的な契約書の作成・監修および法務相談、海外グループ企業の法務管理やグローバルWebサイトの規約作成といった全般業務を担当。海外グループ企業の法務管理とは、同社が設立した台湾、韓国、アメリカのグループ企業の法務的なマネジメントだ。各社に法務部門がないため、大阪の法務室が担当する必要がある。しかし韓国語、中国語に明るいメンバーは現状おらず、例えば当該国で公開するWebサイトの利用規約やプライバシーポリシーについては、外部の法律事務所に監修を依頼しているという。
東京はフォントOEMライセンスビジネスの案件審査、契約書作成・監修と知的財産保護の活動や違法コピー対策などに専任している。なお東京の法務室メンバーは各々の分野のプロであるため、例えば、フォントOEM事業の契約業務についてもほぼ担当者に一任しており、大阪では最終チェックのみを行っているそうだ。
ここに、主に一般民事を扱う法律事務所から転職してきたのが藤井浩太氏。同社での仕事のやりがいと難しさを教えてくれた。
「私は、電子書籍や組版などのソフトウェア開発事業に関する法務を担当することが多く、担当した製品が実際にリリースされると、嬉しく思います。また、当社は新規事業の立ち上げにも積極的ですが、事業展開に必要な規約などの契約書類の策定を任せてもらえることについても、やりがいを感じます。もちろん、難しさを感じることもあります。特に悩むのが、法的な厳格さと円滑なビジネス推進とのバランスです。例えば規約や契約書の監修に際して、リスクヘッジの観点を強調しすぎると、時として事業スピードを減殺することにもなりかねません。この点は試行錯誤しつつ、適切なバランスを追求していくよりほかなく、永遠の課題と捉えています」
また、新卒で入社し、“法務室の土台づくり”の一端を担ってきた中野文彦氏が、こんな話を聞かせてくれた。
「法務室の業務に直結するものではありませんが、情報セキュリティに関するインシデント事故が起きた場合に対策を講じる“M-CSIRT(エムシーサート)”という社内プロジェクトチームに参画しました。チームメンバーは部門の垣根を越えた混合編成です。チームの目標として、事故対応だけでなく、情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)の構築を掲げていたため、知識を増やす目的で情報セキュリティマネジメント試験を受けて資格を取得。M-CSIRTメンバーと共に、わかりやすく、業務効率を損なわず、かつ情報セキュリティ上のリスクを回避できるバランスを考えながら、社内規定・ガイドラインなどを作成しました。そのように新たな会社の体制の構築に最初から携われたこと、社内の他部署のメンバーと協働できたことは、貴重かつ有意義な経験でした」
同社法務室が業務遂行するにあたり勘案する法律は幅広い。著作権法、下請法、特定商取引法、景品表示法、M&Aに絡む会社法、個人情報保護法、情報セキュリティに関連する法律などだ。
中村氏は、「確かにそうした法律知識は当然必要ですが、それ以上に大事なのは、社内外とのコミュニケーション力、すなわち相手の要望・意図を正確に聴取し、納得してもらえるよう丁寧に説明する力、またリスクジャッジに留まらず、次善策などを積極的に提案する力、そして自社のビジネスの最前線に携わっているという当事者意識を持ち続けることでしょう」と語る。