Vol.78
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ニチレイ法務部の陣容は9名、うち有資格者5名(グループ全体12名、うち有資格者7名)で、一般民事系の法律事務所出身者や元検察官・元裁判官など多様な人材が所属する

ニチレイ法務部の陣容は9名、うち有資格者5名(グループ全体12名、うち有資格者7名)で、一般民事系の法律事務所出身者や元検察官・元裁判官など多様な人材が所属する

THE LEGAL DEPARTMENT

#114

株式会社ニチレイ 法務部

グループ長期経営目標「2030年の姿」の実現に貢献するため、法務部の組織強化に全力投球!

グループ全体の法務を統括

加工食品事業と低温物流事業を中心とし、水産・畜産事業、バイオサイエンス事業などを国内外で展開するニチレイグループ。そのグループ全体の戦略を担う持株会社が、株式会社ニチレイである。同社法務部の業務について、法務部長の片渕哲郎氏にうかがった。

「当部では、①ガバナンス、②コンプライアンス、③M&A・グループ再編と、業務を3つに大別しています。①は株主総会・取締役会・経営会議といった会議体の運営、グループガバナンスの規程作成などで、昨年からは海外子会社のガバナンスの強化にも力を入れています。②は一般的な契約書審査、法律相談、事件・事故対応、不正調査など。①の強化事項と同様、海外コンプライアンス分科会が新たに設置されたことにより、当部がその事務局を担っています。③は国内外問わず、M&Aに際してのデューデリジェンス、契約交渉、PMI対応、およびイグジット対応を各事業会社(子会社)と連携して対応しています。グループは現在、10カ国以上で事業を展開しています。例えば低温物流事業(ニチレイロジグループ)は欧州各国・英国・中国・タイ・マレーシアに進出しており、その競争法遵守や贈収賄防止、GDPR対応などにも尽力しています」

といったように同部は、各事業会社の法務機能との連携、および法務機能が十分でない事業会社には法務メンバーを派遣するなどして、グループ全体の法務を統括している。業務は3つに大別されているが、中心となる各業務のリーダー以外は、あえて流動的にメンバー編成をするのだという。

「法務部が部として独立したのは2013年と、比較的近年です。立ち上げ時、私も含めて加工食品事業や低温物流事業など“現場”を長く経験した社員を中心に配属されました。企業法務において、“現場を知っていること”はとても重要です。その後、有資格者も増え、全メンバーがそれぞれの知見を共有しながら協働できるよう、メンバーの育成・組織力の強化を目的に、チーム分け・担当分けを明確にせず、各人を入れ替えながら事案に対応しています」

同部の業務は“現場”との協働が密である。例えば18年、インドのスタートアップ企業に出資した際は、そのために新設された事業開発グループ(当時、経営企画部直下)のメンバーを現地でサポートするため、契約交渉にも全面的にかかわった。また同年、マレーシアの低温物流事業会社に出資した際も、ニチレイロジグループ本社事業管理部のマネジャーが現地に赴き、先方との細かな調整、クロージングの立ち合いなどに同席した。そうした仕事を経験したメンバーは、「事業の芽の部分から相談してもらえ、“ディールダン”まで支えられる。臨場感あふれるビジネスシーンにかかわれることが大きなやりがい」と、一様に語るそうだ。

  • 株式会社ニチレイ
    本社ビルの受付には設立当初から、長年使用された旧本社ビルの階段の一部や社章が展示され、歴史を感じさせる
  • 株式会社ニチレイ
    自社ビル内の食堂では、カジュアルなミーティングなども行える

新規ビジネスにもかかわれる

現在は、9名のメンバーの約半数が、弁護士や元検察官など有資格者となっている。20年に中途入社した倉方ユリ氏も、元裁判官という経歴だ。倉方氏に、同部でのやりがいをうかがった。

「裁判官の仕事は大変やりがいがあったものの、家庭の事情などのため裁判所勤務を続けることが難しくなり、転職を考えました。裁判所でもチームで仕事をすることが好きだったので、“組織のなかで働くこと”のできるインハウスローヤーに転じました。しかし当然ながら事業会社の法務部の仕事は初体験、イチから仕事を学ばせてもらいました。しかも当部の場合は少数精鋭ということもあり、また、業務も固定的ではないため、多様な業務が経験できます。そのおかげで、様々な企業法務の知識・経験が早く身につき、社内人脈も増えました。裁判官時代にはかかわることのなかった海外の法律だったり、国内であれば独占禁止法や個人情報保護法などにもかなり詳しくなれたと思います。電子契約や議事録電子化などにも関与するなど、新たな成長の機会をたくさんいただいています」(倉方氏)

また新規事業の推進時も、法務部にいち早く相談が寄せられる。例えばスマートフォンアプリなどが絡む新たなサービスを展開した際などは、様々な部署からメンバーが集まり、「さて何から始めようか?」という段階から、相談が相次いだという。

「新規事業の法務相談においては、“問題の切り分け・交通整理”のようなところから法務部もかかわらせてもらいます。『食品を販売するなら品質保証部ですね』、『そこは知的財産グループに相談する必要がありますね』、『これは法務でやりますね』といった具合です。関連する法律の調査、利用規約やプライバシーポリシーの作成、製造委託先との契約書レビューなど、新規事業の企画から事業化まで、一貫したサポートを行います。こうした新たなビジネスが、今後さらに多方面に展開していく可能性があります。例えば流通業者とのタイアップだったり、加工食品(冷凍食品)の新販売形態の検討なども考えられるでしょう。そうした時に私たちは、法務という枠にとらわれず、ビジネスに入り込んでサポートをしていく姿勢が求められます」(片渕氏)

1942年創業の歴史ある企業が見せる新たな挑戦=新規事業に、前線でかかわれることも、同部の仕事の醍醐味といえる。

株式会社ニチレイ
「おいしい瞬間を届けたい」が、ニチレイグループのコミュニケーションメッセージ。ニチレイグループは、持株会社であるニチレイ、およびニチレイフーズ(加工食品事業)、ニチレイフレッシュ(水産事業・畜産事業)、ニチレイロジグループ(低温物流事業)、ニチレイバイオサイエンス(バイオサイエンス事業)で構成される

強い組織づくりを真摯に目指す

株式会社ニチレイ
本社ビル(東京・築地)には、各ニチレイグループ企業の本社機能も集結。連結従業員数は、1万5383名(2021年3月31日現在)

同部には、加工食品や低温物流事業に関連する法律に詳しいメンバーもいれば、個人情報保護法、あるいは景品表示法に詳しいメンバーもいる。「それぞれが仕事を通じて得たナレッジを持ちよって、上下関係なく、対等な立場で自由に意見を交わせる風土です」と、片渕氏は語る。

「組織として一体感があり、壁をつくらず、言いたいことが言い合える部でありたいと思います。大きな組織・歴史ある組織ほど、上が決めたら下は従うしかないという側面が残念ながらあると聞きます。それによって、個々が持ついい考え・いい意見・いい行動が制限されるのはあってはならないこと。当部のメンバーのバックグラウンドは実に多様です。その多様性を生かしながら、オープンに切磋琢磨し合える、より強い組織にしていきたいですね」

今後、法務部はどのような目標を持って業務を遂行していくのか、片渕氏にうかがった。

「当社グループでは、長期経営目標『2030年の姿』を掲げています。それは1兆円の売り上げ目標と、そのうちの30%を海外で立てようというチャレンジングな目標です。現在、個々のビジネスもそうですが、コンプライアンスなどの観点からも、国内以上に海外において対応すべき法的課題が山積しています。つまり法務部は、質的・組織的な対応力のさらなる強化を求められているわけです。質的な面でいえば、法務部のメンバーにもっと社外の勉強会への参加機会や、他社法務との交流などの機会も増やし、そこで得たものをまずは自分のものにして、グループ全体に還元してほしい。一方の組織的な面でいえば、個々の成果・貢献に対する評価・処遇などをより手厚くしていきたい。そのように、まずは法務部内の強化を図り、『2030年の姿』の実現に貢献できる法務、経営課題へのより積極的な関与をどんどん行える法務として、社内外でプレゼンスを発揮していきたいと思っています」(片渕氏)

※取材に際しては撮影時のみマスクを外していただきました。