同社では、場所や時間に縛られない自由な働き方を通じて、より高いパフォーマンスを発揮する組織を目指している。管理職や一部の企画職に限定していた裁量労働制を、工場勤務やコールセンターなど一部を除く、非管理職社員にも適用した。
「『法律の観点で社会から非難されない運用を徹底しよう。ルール策定だけでなく、オペレーションもしっかり定期的に見ていこう。それでも労基署に指摘を受けるリスクが生じた場合は、しっかり向き合おう』と、法務部から人事総務本部へ提案し、制度改定が実現しました。今、当社では『成果を出すために時間や場所にこだわらず働くこと』を実践できています。法務部内でも、急な家庭の事情などで席を外す、在宅ワークをすることなどは報告不要です」(美馬氏)
さて、同部はいち早くDXを導入したことで、世の中に知られている。美馬氏は言う。
「リーガルオペレーションズの取り組みの一つとして、まず着手したのがDXでした。リーガルオペレーションズが米国で話題になってきたのが2014年で、当部が取り組み始めたのが15年。ですから、おそらく国内ではかなり早い時期に着手した法務部といえるかもしれません。なお、DX以外のリーガルオペレーションズ――例えばデータ・指標の活用や変革マネジメントなどの実践は、まだまだこれからというところです」
そんな同部の活動は、国内のみならずグローバルにおよぶ。海外で開催される独占禁止法に関するグループ内のカンファレンスなども、「できる限りメンバーも参加してもらい、グローバルとのタッチポイントをつくる」と、美馬氏。
最後に、法務部の今後についてうかがった。
「今後、我々は、単なる法律専門家の役割にとどまらず、多様な判断のプロセスを設計し、経営の意思決定に伴走する存在になることが求められていくはず。その前提のもと、当部では、人材の捉え方において独自の方針をとっています。一般的な法務組織は、属人性を極力排除し、再現性のある体制づくりやサステナブルな運用を重視する傾向があるのではないでしょうか。しかし私たちは、そのように人材を型にはめることはせず、個々人の特性や強みを尊重します。もちろん、法務として最低限担うべきコア業務はありますが、それさえ押さえていれば自由に得意分野を生かして成長していくことを応援します。一律の育成・評価と異なり、各人の特性をどう伸ばすかを考えることは容易ではありませんが、それこそが定型化された法務組織にはない柔軟性の源です。〝個性を生かす組織〟が、これからのあるべき姿だと考えています」